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春にはビートの強い風が吹く

先月、彼女から誕生日プレゼントをもらった。ランバンの名刺入れである。ランバンといえばパリに本拠地を置く老舗ハイブランドのひとつとして名高い。私はこのプレゼントをもらった時、どうにか映ないものかと30分も時間をかけて写真を撮った。かつて就活用に購入した、YouTuberが使っているようなリングライトまで持ち出して最高の1枚を究めた。それほどまでにこのプレゼントは嬉しいものである。

私はランバンブランドにちょっとした思い入れがある。数年前、私が初めて手にした香水がランバンだった。今では人気ランキング上位を維持し続けている人気商品 "エクラ・ドゥ・アルページュ" を、わざわざ香水専門店まで赴き、紹介された品の中から悩んだ末に購入したのである。人生で最初の香水ということも相まって感慨深かった。

当時私は大学1年生だった。高校を卒業して間もない私にとって、上級生は果てしなく大人に見えた。彼・彼女たちはみなオシャレでありスマートで、言動も佇まいも洗練されている。そんな彼・彼女たちに囲まれているとつい私も背伸びをしたくなった。その私にとってランバンの香水はちょっと大人ぶることができる特別なアイテムだった。

"エクラ・ドゥ・アルページュ" は使い切る度に再購入し、これまでに累計3本も買った。他ブランドの香水を使っていたこともあるが、長年飽きずにいるのはランバンだけである。

"エクラ・ドゥ・アルページュ" の良さは第一に香りである。しつこくなく爽やかで、強すぎず弱すぎない、絶妙なバランスで構成されていて、まさに上品であると私は感じている。今となっては他の香りはもはや叶わないとすら思える。すっかり虜になった私だが、リピートする理由はこれだけではない。ふと昇り立つ香りの向こう側に懐かしい景色が姿を見せるのである。かつての思い出をファースト・ノートが刺激する瞬間が好きだった。長く使えば使うほど覗ける景色が増えていく。時の流れとともに愛着は深まっている。

ところが、学生生活終盤からつい先日の転職直前まで香水をほとんどつけなくなった。長い間周りのことが上手くいかなかった。自信をなくした私は次第に「どうせランバンも香水も似合わない」と考えるようになった。ランバンをつけられるほど胸を張れなくなった私は、いつの間にか香水を遠のけていた。

この春、転職した。今までと打って変わって幸先が良い。そこへ舞い込んできた素敵なプレゼントが今回の名刺入れである。思い入れのあるブランドであるだけに興奮や嬉しさが未だに醒めない。「そんなに高いプレゼントじゃないよ」と彼女は言う。私はその時、プレゼントの真価は値段に存在しないのだと悟った。その人が喜ぶものであれば値段は関係ないのだ。

荒波に揉まれ骨を折り続け今に至る。転職を機に気持ちを新たに、十分に活躍できるように、自信をつけて胸を張れるように、そしてランバンの名刺入れに似合うような人物になるべく、毎日を一生懸命に取り組んでいきたい。同時に、今の生活が彼女のような優しい人々に囲まれているから成り立っていることを忘れてはいけないと思う。今日改めて抱く決意と感謝の気持ちを胸に、明日からも頑張っていきたい。

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