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遠い世界は突然近くにやってくる

幼い頃から、興味を持つのは海外のものばかりだった。Michael Jackson、F1、Sherlock Holmes、そしてサッカー。「外国に行ってみたい」と、ずっと思っていた。

最初のチャンスは中学生の時。所属していたサッカークラブでフランス遠征に行くことになった。マルセイユに1ヶ月滞在し、現地のコーチからトレーニングを受け、マルセイユのユースチームと試合をするというものだった。

でも、ずっとベンチメンバーだった僕は遠征に参加できなかった。フランスは、僕には少し遠すぎた。日焼けして帰国したメンバーが「身体はまだ午前3時なんだよね」と眠い目を擦りながらくれた、1ユーロで買ったというお土産の小さなエッフェル塔のキーホルダーは、今も本棚の特等席に飾ってある。

そこから何年も経ち、僕は大学受験を迎えた。志望校の留学支援について調べていたら、とある動画がYouTubeのおすすめに出てきた。アメリカの超名門大学の博士課程に留学している学生が、研究生活を紹介する動画だった。

遠い世界に見えた。朝から実験して、授業を受けて、ミーティングして、データをまとめて、次の日の実験の準備をする。今思えば、理系学生の1日としてはそこまで特別な過ごし方ではないけれど、その毎日を楽しんでいるように見えて、動画に出てくる人が皆とてもモチベーション高く活動していて、こんな世界が存在するんだ、と呆気に取られるほどだった。遠くかけ離れた星の人に思えた。

動画の博士学生は言った。
「日本でたくさん勉強してきたと思ってたけど、ここに来るともっと優秀な人ばかりで、自分はまだまだだということがわかった。」
「学生のうちから自分の専門分野で起業して社会に貢献している人もいる。自分も将来スタートアップ企業を作って世界を変えたい。」

自分もいつか、海外で研究してみたいと思った。

大学生になり、研究室で実験に励む日々がやってきた。成果が出たり出なかったり、それが論文になったりならなかったりして楽しかった。

ある日、研究室の先生から、海外の共同研究先へ行って実験してきてほしいと提案された。願ってもない機会。即座に行きますと返事をした。

行き先は、あの時行けなかったフランスだった。

「フランスはそのうち行けるから大丈夫だよ」と、いつかの自分に教えてあげたい。たった2週間だったけれど、海外で研究するという空気を少し感じることができた。帰りがけ、かつての友達を真似して僕もエッフェル塔のキーホルダーをお土産に買った。物価が上昇したのか、1つ1.5ユーロになっていた。

遠いと思っていた世界は、突然近くにやってくる。きっと人生ってそういうことの繰り返しなのだろう。いつその時がやってきてもいいように準備していないと、と思った。

春から、技術系の小さなスタートアップ企業でアルバイトとして開発に参加することになった。偶然にも、かつてYouTubeで見たあの博士学生が、卒業後に起業した会社だった。

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