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レアル・マドリード育成年代の元スカウトが語る「日本人が世界で戦えるようになるために必要な能力と考え方」

ラ・リーガのことは中の人に聞くのが一番早い!
今回は、ラ・リーガ2部に所属するアルコルコン(=ADアルコルコン)のインターナショナル部門代表、ホセレ・ゴンザレス氏 (Mr. Josele González) をゲストにお迎し、ホセレ氏が長年直接見てきた日本のサッカーに対する印象や日本人選手が世界でもより活躍するために必要な能力などについて話しました。

※本記事は2020年5月に配信した音声取材を記事化したものです
(取材日 5月、ホ=ホセレ・ゴンザレス氏、CJ=カディスジャパン)
インタビュー全編を聴きたい方は最下部から聴くことができます


ADアルコルコンに来るまでのキャリア

「選手からフロント、レアルの育成年代のスカウトを経て、現在はインターナショナル部門を担当しています」

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CJ:本日はどうぞよろしくお願いします

ホ:ありがとうございます!スペインから日本に向けて、サッカーについてお話しできる機会をいただき光栄です。

CJ:まずはホセレさんの自己紹介をお願いします

ホ:元々は僕自身ラ・リーガ2部Bと3部リーグの選手でした。引退後、いくつかのサッカークラブやフットサルクラブで監督を務め、その後クラブのフロントとして働くことを選びました。現在はアルコルコンのインターナショナル部門ディレクターと、赤道ギニア共和国代表のテクニカル部門で仕事をしています。新たな才能の発掘や、講習会、大学で講義もしたりしているので、世界中を旅しています。

CJ:アルコルコンに就職する以前はどういったお仕事をされていたのですか

ホ:様々なクラブでマネージャーやコーディネーターとして働いてきました。4年間レアル・マドリードの育成世代のスカウト部門でも仕事をしました。色々な国でサッカーに関わる活動もして、指導者としてもインターナショナルカップやスペインの全国大会にも出場しました。約25年間サッカー界で働いていますね。

CJ:アルコルコンのインターナショナル部門代表として、現在の仕事のミッションとは

ホ:まずは国内外問わずアルコルコンというクラブの存在を知ってもらう活動をしています。120カ国以上でプロジェクトを立ち上げており、日本でも活動を行なっています。各国で優秀な選手を発掘したり、指導者育成のために講習会を開いたりしています。

CJ:うまくいっている国があればその理由も合わせて教えてください

ホ:中国、日本、インド、アメリカが特に力を入れている国ですね。日本には10年前から訪れていて、友人も多くいるので関わりも深いです。中国とインドは人口が多い分、大きな市場があると考えています。アメリカはサッカー市場が急成長していると言えます。その他の国とも深い関わりがありますが、例えばブラジルやアフリカとは選手獲得の仕事が多いので少し意味合いが変わってきますね。

CJ:インドの経済市場は大きいと思うのですが、サッカーに対する関心も高いのでしょうか

ホ:昔はアフリカの選手はフィジカルが強いだけとか、アメリカの選手は戦術に規律がないと言われていましたが今は違います。アジアで言えば、日本や韓国には及びませんが、マレーシアやインドネシアも力をつけてきています。インドも同じで、クリケットがNo.1の競技ですがサッカーの人気も上がってきています。競技人口で見れば世界で2番目に多いのではないでしょうか。インドや中国のような人口が多い国でサッカーは急激に成長していて、そういった国では手助けが必要だとも思っています。例えばドイツやフランス、イタリアやイギリスといった国は、すでに指針やツールが出来上がっているので私たちは敢えて行きません。まだインドのサッカーレベルは高いとは言えず、だからこそ改善していくことが求められており、私たちが手を貸す意味があると思っています。

CJ:カディスCFもインドに注目しています

ホ:キケが僕から学んだんです(笑)。
  ※キケ・ペレス氏のインタビューはこちら


日本サッカーに対する印象、そして日本人がリーガで活躍するのに必要なものとは

「日本には、海外のサッカーを”コピー”するのではなく独自のスタイルで適応させていく力がある」


CJ:10年前なぜ日本を訪れたのですか

ホ:サッカー及びフットサルの発展と指導者の育成、そして選手の発掘という2つのテーマがありました。日本には才能ある選手が多数います。アルコルコンのアカデミーにいるリンタロウ(=いしぐろ りんたろう)はチリ生まれの日本人です。他にも福岡出身のカズマ(=くわた かずま)がいますが、毎年日本に行って多くの才能を発掘しています。サッカークリニックの活動もありますが、そのメインは才能の発掘と育成になります。

CJ:10年前と今の日本のサッカーを比べて、違いは感じますか

ホ:10年前初めてJ1の試合を見たときは、サッカーが遅く好きにはなれませんでした。でもこの10年で大きく変わったと思います。昨年確か川崎フロンターレの試合を見たのですが、選手もプレーの速さも別物でした。実力のないブラジル人がプレーしていることもなかったですし、何より日本人選手が多くプレーしていたことが非常に重要だと思います。加えて、育成年代が良くなっている印象を受けました。スペインだけではなく、国外から良いアイデアを積極的に受け入れているからだと思います。例えば、ジェフユナイテッド千葉の育成チームにはスペイン人のホセ・マヌエル・ララという人物がいます。彼とはレアル・マドリードで一緒に仕事をしていましたが、現在ジェフで素晴らしい仕事をしていて、他のクラブの良いお手本にもなれると思っています。

CJ:10年前はスペインがW杯で優勝し、スペインサッカーの人気も一層高まった時です。日本のサッカーが成長したのもスペインのお陰なのではと思っています

ホ:日本の適応能力が高いのだと思います。日本人選手はテクニックとインテリジェンスが高く、規律を重んじます。そういった要素が、スペインサッカーを単に真似るだけではなく、適応させていっているのだと思います。もちろんW杯で優勝したことは重要で、EUROも制しましたし、ご存知の通りヨーロッパのサッカーはレベルが高いです。それと同時にU16など育成年代も世界大会を制しています。ラ・リーガ1部に所属するクラブはヨーロッパの中でもレベルが高く、そういったサッカーは参考にされます。日本サッカーにおける指導者や育成を含めて手助けをさせてもらっていますが、日本人は賢く、コピーするだけではない日本独自のスタイルでスペインサッカーを取り入れていくのだと思います。

CJ:日本人選手の印象として、例えばブンデスリーガでは活躍しやすいけれど、ラ・リーガでは活躍しにくいと思っています。先日、乾貴士選手 (SDエイバル) が、リーガで活躍するには技術・インテリジェンス・戦術理解が必要だといっていましたがホセレさんはどう考えていますか

ホ:乾選手の言う通りだと思います。加えてフィジカル要素も必要ですが、その3つの要素は重要です。テクニック(技術)はサッカーで最も重要で、香川選手や、久保選手、乾選手も優れていますね。でもスペインの選手はサッカーIQが高く、判断力に長けています。スペインのサッカーはとても戦術的で、この国で活躍したければそのスタイルに適応しなければいけません。久保選手の場合、レアル・マドリードはマジョルカへレンタル移籍をさせることによって戦術を学んできてもらうことを選びました。ドリブルの攻撃だけを見るのであれば問題ないのですが、サッカーは1つのボールを22人で囲み、ボールを持っていない時間の動き方が非常に重要なので、そういった意味で戦術を理解する必要があります。あとはどのクラブでプレーするか、そしてどのポジションをやるかも大切です。例えばレアルのような攻守の切り替えが早いチームには久保選手はいいかもしれません。バルサのようにポゼッションが優れたチームには香川選手や本田選手の方がフィットするかもしれません。日本人選手がスペインで活躍するには、チームやポジションなど様々な要因が関わってきます。

CJ:言語の壁は大きな問題だと思いますか

ホ:非常に大切です。初めてスペインにくる選手であれば基本的な単語は覚えるべきだと思います。「ボール!」「こっちへパス!」など、監督が何を言っているかを理解する必要があります。完璧にスペイン語を話す必要はありませんが、最低限理解することは必要ですね。通訳の存在も大切で、イニエスタ選手やフェルナンド・トーレス選手にも優れた通訳が付いていたかと思います。

スペインと日本のサッカーを比べてみて

「考える力と、ポジション別の練習が求められるだろう」

CJ:大切だと言われる要素の一つ、決断力の早さについてもう少し深掘りしてみたいです

ホ:判断力を鍛えるには、とにかく毎日の練習の積み重ねが大事です。日本では育成年代の選手がグラウンドの周りを走ったり、コーンドリブルをしたりしていますが、これは細分化されすぎた練習メニューです。もちろんこれも重要な練習ですが、判断力をつけるには次にどういったプレーをするか、考える力が必要となります。試合中の判断を良くする、例えばサイドバックが試合中に上がるか上がらないか決める時や、どうスペースを使うかなどかは個人の判断になってきます。練習というのはガイドを付けて行うものではありません。問題を提起して、選手が解決する、それが日本と私たちとの違いだと思います。先ほど話に出したジェフのホセはこういった練習を取り入れています。でもよく考えてみるとたくさんの日本人がスペインで活躍してますね!次はスペイン人を日本へ連れていかないと!(笑)

CJ:日本でストライカーが生まれない理由はなんだと思いますか

ホ:小さい頃からFWというポジションのトレーニングをさせることが大切ですね。ゴールキーパーには専門のコーチがいるのに、MFやFWにはいません。ポジション別のトレーニングは必要だと思います。日本にはサイド・中盤にはいい選手がたくさんいますが、身体の強さが必要なセンターFWといったポジションに人材があまりいません。なので幼いうちから専門的な練習が必要だと思っています。スペインがW杯を制したときセンターFWはビジャでしたが、彼も決して身体が大きな選手ではないのですが、それでも中盤の数的優位を高めるなどの戦術でカバーしました。代表の哲学を理解することの方が大切なんですね。日本はW杯のたびに方向性が少しずれてしまっている印象です。ブラジルやドイツ、スペインのように日本独自のスタイルを築いていくことが重要だと思います。

CJ:以前レアルにいらっしゃったということですが、ピピ君(中井選手)については知っていますか

ホ:もちろんです、彼がスペインに来たときから知っています。すぐに順応して上手くなっていると思います。言葉も流暢ですし、私から見れば彼は日本人ではなく、すでにスペイン人ですね。レアルという大きなクラブに複数年在籍できるのは、良い代理人がいるからでもなく、実力があるからだと思います。

CJ:最後に、なぜインスタグラムのフォロワーがそんなに多いのですか?(笑)

ホ:インスタの場合は各国で行ったイベントの選手たちがフォローしてくれています、インドや中国の人が多いですね。毎日のように、スペインでサッカー選手になるチャンスがないか聞いてきます(笑)。たくさんの講義を行ったりして世界中を回っていますので、その度に100人ぐらいフォロワーが増えています。決してSNSにはまっている訳ではなくて、仕事の上で使っていますね。


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#サッカー #ラリーガ #スペイン #スポーツビジネス

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