#10 相続財産の管理・清算
相続財産は、被相続人の死亡と同時に直ちに相続人に帰属するのが原則ですが、一定の場合は、直ちに相続人の固有財産とならず、別建ての財産として管理・清算する手続き(「限定承認」「財産分離」「相続人の不存在」)が認められています。
今回はこれについて確認していきます。
限定承認
相続人の利益を守る「限定承認」については、以下に詳しく記載していますのでご参考まで。
財産分離
財産分離は、被相続人の財産と相続人の財産を区別し、相続人の財産が被相続人の債務の返済に使われないようにするための制度です。
これは、被相続人に多額の債務がある場合に、相続人や被相続人の債権者を保護するための仕組みです。
✅財産分離の目的
相続人が、被相続人の多額の債務を負担するのを防ぐため、相続人の財産を守ること。
被相続人の財産が相続人に渡った後、相続人が勝手に使ってしまい、債権者が債務の返済を受けられなくなることを防ぐこと。
✅財産分離の申立て
財産分離を希望する場合、相続人(被相続人の債務が多い場合に、自分の財産を守るため)或いは被相続人の債権者(被相続人の財産が相続人に渡ることで、債権の回収が困難になることを防ぐため)は、相続開始から5ヶ月以内に被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に対して申立てを行うことができる(5か月を過ぎると財産分離の申し立てはできなくなる)。
✅財産分離の効果
財産分離が認められると、被相続人の財産は相続人の財産とは別に管理され、相続人の財産が、被相続人の債務の返済に使われることがなくなる。
相続人の不存在
相続人の不存在とは、被相続人に法定相続人が全く存在しない、またはすべての相続人が相続を放棄したために、誰も相続人としての権利を主張する者がいない状態のことで、この場合、被相続人の遺産が放置されることを防ぐため、相続財産清算人(後述)が相続財産の管理・清算を行う。
なお、相続人がいない場合でも、相続財産の包括受遺者がいるときは、相続人の不存在の問題は発生しない。
✅相続人の不存在の影響
相続財産清算人が選任されると、債権者は被相続人の財産を使って債権を回収することができるため、損害を被るリスクが軽減される場合がある。
遺言書がない場合、相続人がいないことで被相続人の財産が国庫に帰属する可能性があり、被相続人の意向が尊重されないことがある。
相続財産管理人と相続財産清算人
相続財産清算人は、以下のような場合に、相続人に代わって相続財産の管理・処分を行います。
戸籍上、相続人がいない
戸籍上の相続人がいるものの、全員が相続放棄した
被相続人が外国籍で相当の調査をしても相続人を把握できない
✅相続財産清算人の役割
財産の調査と管理・・・相続財産を調査し、管理する。
債務の弁済 ・・・被相続人が残した債務を清算する。
遺産分割の手続き・・・相続人間での遺産分割の調整を行う。
最終分配 ・・・相続人に対して遺産の最終分配を行う。
これに対して新しい制度での相続財産管理人は、相続財産の管理(保存行為)のみ可能であり、相続財産を処分する権限や役割はありません。
✅制度改正の効果
従来の相続財産管理人制度では、権利関係の確定に次の手続きが必要だったため最低でも10か月程度かかっていましたが、改正後の相続財産清算人制度ではこの公告手続きを同時又は平行して行うことができるようになったため、6か月程度に必要期間が短縮されました。
相続財産管理人の選任公告
相続債権者等に対する請求の申し出をすべき旨の公告
相続人の捜索公告
✅相続財産清算人の選任手続き
利害関係人(被相続人の債権者、受遺者、特別縁故者など)や検察官による家庭裁判所への申し立て
家庭裁判所による審理
審理の結果、相続財産清算人の選任要件を満たしていると判断された場合、相続財産清算人が選任される
※申し立てには「申立書」の他、「財産目録」「財産を証明する資料」「被相続人の戸籍謄本」「被相続人の父母の戸籍謄本」「被相続人の住民票除票または戸籍附票」、利害関係人からの申立ての場合は「利害関係を証する資料」等が必要。
✅相続財産清算人選任後の流れ
家庭裁判所は選任および相続人捜索の公告(6か月以上の期間)を行う(952条2項)。
相続財産清算人は、この公告があったときは相続債権者および受遺者に対して請求申し出の公告(2か月以上の期間)を行う。(957条1項)
上記で定めた期間に相続人としての権利を主張する者が現れないときは、相続人はその権利の行使ができない(958条)。
相続人の不存在が確定した場合に「特別縁故者」がいるときで、家庭裁判所が認めた場合はその者に相続財産の全部または一部が分与される(958条の2)。
特別縁故者から相続財産の分与請求がない場合や、同請求が家庭裁判所に認められなかった場合、残った財産は国庫に帰属する。
特別縁故者とは以下のような者を指し、実態で判断される。
・被相続人と生計を同じくしていた者
・被相続人の療養介護に努めた者
・その他被相続人と特別の縁故があった者
(958条の2第1項)
以上、今日は相続財産の管理と清算について確認しました。
参考書の構成がよく呑み込めなかったので、弁護士さんや司法書士さんのウェブサイトも確認しながら纏めてみました。
次回は遺言について勉強します。
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