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最後のゲームセンター

20XX年、未曽有の災害に世界は襲われた。

多くの人が死に、社会は完全に崩壊した。それでも人々はしぶといものでコンクリートの上から土の上へと、少し時代をさかのぼったような生活をしていた。そのため都市部は廃墟となり、人々は元田舎の辺りに新たな生活拠点を築き、協力し合いながら生活していた。


廃墟となった都市部に比較的近いところに住んでいた私にとって、そこは恰好の遊び場だった。まだ当時は自動発電システムが一部生きており、街中にはところどころ弱々しい明かりがついていた。そんなところを探すのが楽しくてしょうがなかった。

ある日、私は「ゲームセンター」と書かれた建物を見つけた。災害が起こる前、携帯端末でゲームをした記憶はうっすらとあったが「ゲームセンター」という場所に行った記憶はない。私は気づけば興味の向く方向へ一目散に走りだしていた。

入るとそこにはネオンの世界が広がっていた。薄暗い屋内に不健康な光を放つディスプレイ、カラフルなボタンに交じり合うBGM。そのどれもが私の興味を惹きつけた。心が躍るのを感じたのはこの時が初めてだった。私は踊るように軽快に「ゲームセンター」を散策した。

私はある筐体の前に立った。それはいわゆる「格ゲー」というやつだった。当時の私はそんなことは何も知らず、ただ画面の中を動き回るキャラクターに目を奪われた。とりあえず適当にボタンを押してみる。

『コインを・れてください』

当時の私はまだ漢字が読めなかったため正確には何をしたらいいかは理解してはいなかったが、コインらしきものが地面に転がっていたのでそれを適当に入りそうなところへと突っ込んだ。

「キャラクターを選べ!」

急に声がしたので私は少しびっくりした。だが、そんなものは一瞬のことで次の瞬間には私の頭は多様なキャラクターたちで埋め尽くされた。筋肉モリモリの男の人やスタイルのいい女の人、人の形をした猫みたいな生き物もいた。私はこの猫人間がお気に入りだった。

初めは何をしていいかわからず、ただただ負けるだけだったが幼いなりに学習し、何戦目かなんて忘れた頃にやっと勝利した。そのときの快感は私の人生の中で今でも最高のものだ。「YOU WIN!」という陽気な声と共に勝利を称える盛大な音楽。私は一瞬でゲームの虜になった。

そのせいで帰るのが遅くなり、母にこっぴどく怒られるまでがセットの思い出だが、この思い出は私にとってかけがえのないものとなっている。それからというもの何度も私は「ゲームセンター」へと通った。そこにあるありとあらゆるゲームをやりつくした。それでも、何度行ったとしても私が飽きることはなかった。

今となってはその「ゲームセンター」もついに電気が来なくなってしまい、使えなくなってしまった。「ゲームセンター」の明かりがついていないことに気づいた日の喪失感は凄まじいものだった。

だが、それと同時に私の心の中にふつふつとある想いが込み上げてきた。「この世界で自分のゲームを作る」という夢である。あのとき感じた快感をもう一度味わいたい、他のみんなにも味わってもらいたい。それが私の今の目標であり、生きる活力だ。

簡単な道のりではないことはわかっている。でも、いつかもう一度「ゲーム」がしたい。

私はすっかりゲーム中毒になってしまったようだ。

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