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NFTの希少性について、「ラグジャリー・ブランドにおける希少性のマネジメント」という論文から考える

NFTはデジタルに希少性をもたらすと言われるが、元々希少性には、埋蔵量に限りがある、職人の手作りなので個数が限定されるといった希少である理由が存在する。では、元々無限に複製できる世界における希少性とはいったい何なのか。その謎を解明すべく我々調査隊はアマゾンの奥地へと向かった。

NFTの希少性の根拠という問題は、私たちがNFTの研究を始めた2017年当初からの課題で、「NFTになると希少性を持たせられる」という言葉をそのまま受け止めることができない自分が存在していた。それは、希少性には理由があるというのが根本に存在すべきではないか?という疑問からだった

例えば金が希少なのは埋蔵量が決まっているからだし、フェラーリが高額で少量生産なのは、一つひとつ手作りされており生産量に限りがあるからという分かりやすい理由があるからだ。

ある日、希少性について研究している人がいないか探していたところ、寺崎新一郎先生が執筆した「ラグジャリー・ブランドにおける希少性のマネジメントー「情報ベースの要因」の検討ーという論文を見つけることができた。

ラグジャリーブランドは希少性を売りにしているのに、売り上げを拡大していかなければならない。そのトレードオフに見える関係をどのように乗り越えているのかを研究した論文であり、そこにNFTの希少性におけるヒントがあるのではないかと考えた。

この論文には希少性について4つの類型を提示しており、それぞれ希少性をもたらす要因が違う類型となっている。これを以下に示す。

1類型 物理的要因
原材料、部品不足、限定的な生産能力、希少な名人技
例)ダイヤモンドやリング、毛皮

2類型 技術的要因
技術的希少性、革新、斬新な特徴を持つ新製品
例)世界初の冷蔵庫、エア・バッグ

3類型 限定版、オーダー品
限定版、特別注文、顧客関係性
例)ヴィトンの「グラフィティ」

4類型 情報ベースの要因
マーケティング、ブランド、秘密、語彙、価値連鎖のスター化
例)絶対的でトレンディなアーティスト

この4類型の中で、最後の情報ベースの要因だけが物理的な制限なしに希少性を維持したまま販売を拡大できるとしている。この4類型のことを「仮想的希少性」と論文では定義し、さらに情報ベースの希少性の構成要素として次の6つの要素を挙げている。

1.伝統
原産地イメージ、ブランドの伝承、アイコン製品

2.価格
あこがれを喚起する価格、継続的な値上げ

3.情報の非開示
個別ブランドの財務業績の非開示、企業施設の非開示

4.エンドースメント
スターデザイナーによるエンドースメント、映画俳優によるエンドースメント

5.芸術との連関
前衛芸術家の支援、現代芸術の支援

6.華奢な催事
会員制の催事、伝統を想起させる奢侈な演出

ラグジャリー・ブランドが大衆化すればするほど、特別感が喪失するという課題に対し、ラグジャリー・ブランド業界は様々な工夫を凝らし、その希少性の戦略を実行してきた。そして、物理的な希少性だけでなく、「情報ベースの希少性」を提示してきた。

NFTに関わる人が、例えばこの6つの情報ベースの希少性をの要素について、それぞれ「あ、この要素はあのコレクションがやっているな」と感じたと思う。私たちは歴史に学ぶべきであり、希少性と大衆化を同時に追求してきたラグジャリー・ブランドに学ぶべき点は多い

寺崎先生の論文のリンクはこちら
https://waseda.repo.nii.ac.jp/index.php?action=pages_view_main&active_action=repository_action_common_download&item_id=14375&item_no=1&attribute_id=162&file_no=1&page_id=13&block_id=21

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