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日銀エコノミストがサイバーエージェントでDXを始めたわけ

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こんにちは、データサイエンティストの白木紀行(@mori_kogai)と申します。本年の6月にサイバーエージェントに入社しました。入社の経緯や今取り組んでいることについて、簡単に紹介したいと思います。

略歴
2009年慶應義塾大学大学院修士課程修了後、日本銀行入行。日本や欧州経済の分析や予測、米国や欧州の金融市場の分析、日本銀行の金融政策や国際金融規制の効果に関する研究、メガバンクの経営分析などに携わる。2021年サイバーエージェント入社。Data Science Center 小売DX Lab室長として、小売業のデータ解析コンサルティングや、データマーケティングに関連する研究開発に従事。

テクノロジー企業の経済学者

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略歴の通り、CAに入社する前は、日本銀行で主にエコノミストとして働いていました。それはそれで刺激的な毎日だったのですが、この間ずっと気になっていたのが、マーケティングやインターネット業界において、データ分析が急速に高度化したことでした。

1980年代以来、最もデータが豊富で高度な解析が行われていたビジネス領域は、金融であったように思います。物理学や統計学を修めた科学者やエンジニアが数多く参入し、多くの金融派生商品やリスク管理手法が生まれました。こうした高度なデータ解析は、ECやスマートフォンの普及によって多様なデータが取得可能になった2000年代半ば以降、小売や広告といった業界へと急速に広がりました。ディープラーニングの精度向上を契機にAIの応用範囲が格段に広がって以降、こうした潮流はより強まっているように感じます。

データの爆発的な増加は、経済学の研究者とっても、分析対象が急速に拡大したことを意味しました。実際、インターネット業界に集積する魅力的なデータを求めて多くの経済学者がテクノロジー企業に移籍し、ビジネス上の応用だけでなく、学術的にも高度な貢献となる研究成果を多く発表しています。例えばAmazonは400名以上の経済学者を採用し、世界で最も多くの経済学者が所属する組織だと言われています(Athey and Luca(2019)”Economists (and Economics) in Tech Companies”などを参照)。

こうしたテクノロジー企業の環境は、限られたデータと解析環境で特定分野の分析を生業としていた自分にとって、非常に羨ましく感じられました。バークレーの経済学科長からGoogleに移籍したハル・バリアンが「今後10年で最もセクシーな職業は統計家」と言ってからもう10年以上が経ちましたが、遅ればせながら、自分もテクノロジーの先端で多様なデータ解析に取り組みたいという思いが、徐々に強くなってきたのです。

気候変動とDX

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もう一つ、転職の背中を押したのは、国際金融規制に関する国際会議に交渉担当官として出席した経験でした。特に、バーゼル銀行監督委員会の気候変動問題を扱う部会である「気候関連金融リスクに関するハイレベル・タスクフォース(high-level Task Force on Climate-related Financial Risk, TFCR)」に政府代表として出席し、交渉やリサーチに取り組んでいたのですが、その過程で、社会全体のDXの推進が国際競争力を維持する上で非常に重要である、と痛感したのです。

DXは、生産性の向上やイノベーションだけでなく、気候変動などSDGsの観点からも非常に重要です。たとえば、昨日まで英国で開催されていたCOP26(第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議)で、企業の開示に関する国際基準策定主体であるIFRS財団は、2022年6月までにESG情報開示に関する国際的な基準を策定すると発表しました。国際的な開示基準は、海外からの投資を呼び込む上で非常に重要であり、少なくとも国際的に活動する企業がこうした潮流に逆らうことは困難です。

IFRS財団の基準がどの程度詳細なものになるのかはまだ不明ですが、現在広く採用されているTCFD提言では「推奨」となっている(1)サプライチェーン全体の温室効果ガス排出量や、(2)事業リスクや設備投資の前提となる炭素価格などの開示が、新基準で義務化される可能性が指摘されています。各企業がこうした情報を正確に認識するためには、原材料から生産方法に至るサプライチェーン全体のデータが整備され、統合的に管理できている必要があります。さらに進んで排出量の抑制や気候変動リスクの統制に取り組むならば、高度なデータ分析基盤が求められます。こうしたことを実現するためには、社会全体のDXが推進されている必要があるのです。

サイバーエージェントに入社したわけ

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こうした問題意識を抱えながら、次なるチャレンジの場を探していたところ、サイバーエージェントは非常に魅力的な企業に映りました。データサイエンティストとして特に惹かれたのは、たとえばこの記事のように、因果推論の重要性を明確に発信していた点です。自然実験を用いた因果性の識別が今年のノーベル経済学賞の対象となりましたが(解説記事)、因果推論は経済学が丁寧に扱ってきた重要な論点です。機械学習を用いたデータ分析コンサルティングを行う企業は他にも多くありますが、予測能力を追求するだけでなく、因果推論の重要性を説くサイバーエージェントのカルチャーは、事前の企業イメージに比して非常にストイックだと感じ好印象でした。

また、研究組織であるAI Labを擁し、積極的に産学連携を行いながら多くの研究成果を出していることや、公共部門も含めた幅広い事業行っていることも、大きな魅力でした。アカデミックな知見をリスペクトしてくれるサイバーエージェントならば、機械学習やデータサイエンスをファッションとして消費するのではなく、本質的な価値提供を通じて、日本社会のDXに落ち着いて取り組めるのではないかと感じたのです。

現在取り組んでいる仕事

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現在、私たちが取り組んでいるのは、大規模小売業をクライアントとするDXコンサルティングです。各業態トップクラスのナショナルクライアントが多く、他企業への波及も考えると、非常にインパクトの大きいプロジェクトに関与していると感じています。プロジェクトの内容も、データ解析だけでなく、データ基盤の構築からアプリのUIUX設計まで多彩であり、データサイエンティストだけでなく、エンジニアやデザイナー、実店舗設計の専門家まで揃った多様なメンバーと、日々議論しながら仕事をしています。実務上の課題に関して論文を執筆することもあり、最新の知見に触れながら実務と研究の境界で仕事ができることは、自身の成長にも繋がっています。

私が関与しているプロジェクトの具体例を挙げると、売上や来店客数の予測、価格やクーポンの最適化、会員プログラムの最適化などです。こうしたプロジェクトは、需要と供給、価格弾力性といった経済学の基本的な概念と深く結びついていますし、10年前には教科書の上の理想に過ぎなかった正確な需要予測やダイナミックプライシングが、テクノロジーによって可能になりつつあることを肌で感じています。

仲間募集!

エキサイティングな仕事に取り組んでいる私たちですが、一緒に小売業のDXに取り組んでくれる強力な仲間が、まだまだ多く必要です。私のような経済学系のデータサイエンティストにとってCAは理想の職場の一つと思いますし、効果の識別まできちんと考え抜かれたコンサルティングを理想とする営業職やMLエンジニア、ソフトウェアエンジニアといった幅広い職種の方にも、ぜひ来ていただきたいと思っています。

ご興味のある方は、以下の採用サイトよりご連絡ください。カジュアル面談なども大歓迎です。私個人のTwitterのDMも解放していますので、ぜひお気軽にご連絡ください!