Milk Tea
「なんで、タロさんは、俺の車の話なんか聞いてくれるんかなぁ」と、ミルさんは言った。
僕らは午後に、紅茶を飲みながら、世間話をしていた。
ほんとは珈琲が飲みたかったけど、それはいいとして、ミルさんの行きつけの紅茶の専門店があると言うので来てみたのだ。
「それは僕に興味があるからですよ」と僕はミルさんのつぶやきに答えた。
「興味や言ったって、タロさん車も乗らんでしょう。そやのに、なんで そんな熱心に車の話してくれんるかと。」
ミルさんには、まだわからない。僕がミルさんのつぶやきの核心にわざと答えていないことを。
「そうですね。僕は車の免許も持っていないし、車も運転できないですが、車に乗ることはありますし…」僕はまた話をずらしてみた。
「いや、それはわかるんやけどもね。なんやろな、タロさんはなんでも興味あるっちゅうか。なんやろ、うまく言えんけど、話合してくれてるだけなんちゃうか、とおもてしまってね。それやと、気ぃ使わせてもうてるんちゃうか、とおもてまうね。」
そう言ってから、ミルさんは少し怪訝な顔をした。きっと、僕がムカつく、にやけ面でもしていたんだろう。
「えーとですね。本当のことを言いますね。」
僕はようやく決心ができた。ミルさんに本当のことを言う。
「いや、別にどっちでも構わんねやけど。言うんやったら、腹割って話しましょうや。」とミルさんは、言って席を立った。
時間はまだだいぶあった。
つまり、僕たちは次の場所へ移動するんだろう。
「どっかええ店でも行きましょか」とミルさんは僕の残り少ないMilk Teaを一瞥して、お会計に向かった。
「良い店って?」僕は急いでMilk Teaを飲み干して、ミルさんについていきながら、次の場所について聞いた。
「ええから行きましょう。ええ店、ええ店、女の店やで。」とミルさんは言った。
「よかったらコンビニで、ストロングゼロでも買いましょうか。飲みながら、話したいです」と僕は言ってみた。
「次の店でええんやない。ちょっと早いけど、まぁ、あの子はおるなぁ。」
ミルさんはコンビニを指さしながら、笑っていた。
「じゃあ、ちょっと買い出し行ってきます。ミルさんもストロングゼロでいいですか?」
ミルさんはそれには答えずに、コンビニとは反対方向を向いて、ふぅ、とため息をついた。
僕らはちぐはぐな会話をしていた。
僕はコンビニで「安定の9%」を二本買って、ミルさんに手渡した。
「わざわざ俺の分まで買うてきてくれたんや。タロさん、ありがと。さっさと飲んで、次行きましょ。」
僕らは二人同時に缶を開けた。
カップン。
気持ちのいい音がした。
「ミルさん、僕は車にはそれほど興味はないですが、車に詳しいミルさんとの会話は楽しいんです。僕が興味があるのは、いつも人の方ですよ。モノ自体じゃないんです。」
「そーですか。まぁ、ええんやけどね」
なんだっていい。
夕暮れたばかりの街で「安定の9%」を二人して飲み、歩きながら、なんだっていい話を、僕らはしていた。
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