街の廃墟
今回は、奈良への遠足が中止になって、代わりにショッピングに行ったときに思いついたフィクションです。
良ければ一読ください。
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街を眺めていると、ビルの一つに目が留まった。
その建物をよく見ると、壁に亀裂が走っていた。
壁に沿って、緑の植物が掛っていた。
外壁は焦げたように黒ずんでいて、いかにも古い、廃墟という感じだった。
その廃墟のような建物以外は、街は異様に整っていて、そこかしこから新築の屋根が見えた。
「それは何か緊急を要する事態が発生したとき頭をよぎる『なぜこんなことに…。』って思いなんだよ」
「あの壁のひび割れのことを言っているの?」と僕は聞いた。
「そうだな。
あのひび割れもそうかもしれない。
ここに住んでいた人はもう皆逃げちまったんだろうが、あれには人の阿鼻叫喚が染みついているよ」とノダは言った。
「心霊スポットなのかな?」
「そうかもな。
行ってみるか?」
ノダは建物の方を向いていた。
僕たちは街が一望できる丘に来ていた。
彼が遠足に行きたいというので、僕は奈良へ行こう、と言った。
奈良には木がなく広々とした丘がいくつもある。
僕らはその一つに登った。
1時間くらい登ったところで、丘の頂上に着いた。
「ここはいいな。
彼女と来るのか?」とノダは聞いた。
「来たことはある。
でも一回だけ」と僕は言った。
「ちょっと、低すぎる気もするが、街を一望できるのがいい。
おれは見晴らしの良い場所は嫌いじゃないんだ」
「ちょっと歩こうか」
「あぁ。
さっきの話の続きだ。
『なぜこんなことに…。』ってのは、誰もが抱く思いというよりは、日本人特有なんじゃないかって近頃は思うようになった」
「日本人特有?
それじゃあ、外国人にはそういう考えはないのかぃ?」
「あるかもしれない。
でも、おれたちほどつよく『なぜ?』なんて思ってないな」
「それは責任の所在を明らかにしたいって思いじゃないかな?
だとすればアメリカ人だって、あんなに裁判をするんだ、きっと『なぜ?』って思いは強いはずだよ」と僕は言った。
彼は僕の言葉について考えている様子だった。
彼は否定しなかった。
僕はどうして『日本人特有』とノダが言ったのか、それを聞きたかった。
「物事の責任の所在はもちろん明らかにされるべきだが、それを明らかにすることが優先され、問題の解決が遅れているんだ」とノダは言った。
「それが『日本人特有』なの?」
「そうさ、それじゃあ本末転倒だろ?」
僕は彼の言う問題解決の例について想像してみた。
「例えばおれがスウェーデンの小学校の授業を見学しにいくだろ。
そして、授業の一環で遠足への同行するんだ。
小学生同士が突然喧嘩をし始める。
周りの生徒は喧嘩をはやし立てる中、引率の先生がやってきて二人を止めて何て言うと思う?」と僕は言った。
僕は自分の創造するシチュエーションを彼に共有してみたかった。
ノダは廃墟から目を離さなかった。
僕たちは丘をゆっくりと下りながら、例の建物に向かっていた。
「そうだな、きっとその先生は『誰が喧嘩を始めたかなんて関係ない。けれどあなたたちは友達を殴っても何も解決しない』
単純なことだろう」とノダは言った。
「そうだな...」
確かにそれはしごく単純なことだった。
なぜ喧嘩になったのか、それを問いただすよりもまず大事なことは喧嘩をやめさせ、何か二人の間に問題があるなら、それを解決できる他の方法を考えさせること。
「おれも幼いころよく友達と喧嘩をすることがあったが、大人は『暴力はダメ。どうしていつも喧嘩になるの?』と言ってた。
大人たちの気になるのは『どうしてか?』だったろう?」
「そう言われたら、僕ならそのたびに人のせいにし続けていただろうね」と僕は言った。
「でも、教師はそんな責任転嫁を真っ向から跳ね返す。
『相手のせいじゃない。反省しなさい』とくる。
どうなると思う?」
「大した反省もすることなく同じ失敗をし続ける。
そして大きな失敗をし、強く頭を打って、ようやく反省をし、自己改善に取り組む」
「ずいぶんポジティブシンキングだな。
同じ失敗を凝りもせず繰り返すだけじゃなく、どこかで破滅するんだよ」とノダは言った。
僕たちは丘を下りきって、街に戻ってきた。
ノダはまだ、あの建物を目指しているようだったが、僕は何も言わず彼の横を歩いた。
「破滅するんだ。
そこには教え込まれた呪いも残る」と彼は言った。
僕たちは廃墟に向かっていた。
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