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過去と現在がゴールウェーのパブで手をつなぐ 「ゴールウェーは、ダブリンから乗った電車の終着駅」続き

私はゴールウェーと言う地名を日本でよく聞いたことがあって、アイルランド人にとって特別な場所なのかもしれないという漠然としたイメージがあった。

友達から聞いたのだけどゴールウェーは特にアイルランド音楽が盛んな場所だと言う。

イニシュモア島でツアーバスのガイドは、ゴールウェー地方ではゲール語が広く話されていて、彼にとって英語は第二言語で外国語だみたいなことを言っていた。

比較的広いパブの中は、私たちのように立ち見客もいるほど満席で、演奏するバンドは、アコーディオンと笛、ギターの3人の30代位の男性だ。

手拍子で拍手している人も踊っている客もいる。笛を吹いている人は歌も時々歌った。


演奏家と曲が一体になっているパブの様子。

悲しいのか幸せなのか?感情がわからない、遠い目をした演奏者たち。昔オランダに旅した時、ジプシーのバンドのライブをやっているパブにふらっと行ったけど、そのジプシーのバンドの人の目の光を思い出した。

アイルランドの音楽って聞いたことない人多いと思うけど、メロディーは牧歌的で明るいのに乾いた哀愁がある。
リズムは割と早くて、ちょっとフォークダンスみたいな感じ。


ゴールウェー地方にあるイニシュモア島

アイルランドの妖精話に、生まれて間もない子供に初めて楽器を持たせるやいなや、アイルランドの伝統音楽をすらすらと弾いて、人間ばかりが動物まで踊り出すと言う物語があった。
しまいには踊りたくない者もつい踊ってしまうほどで、実はこの子は妖精だったのだけど、ちょうどこの物語に出てくるような、なんだか体が自然に動いて陽気に踊りたくなる。


ゴルウェイ地方にある、イニシュモア島

この時もバンドの前で、年配の夫婦と、姉妹のような女性2人組がそれぞれ踊っていたが、そのうち4人一緒になって手をつないで楽しそうに踊り始めた。

バンドの後ろでずっと踊ってるのはウェディングやロングドレスの女性たちと正装した若い男性たちがいるグループで、そのグループは拍手し足を上下させながら、次々相手を交えつつ、組になって踊っている。

このパブは入り口付近の狭いバーエリアと、奥の大きな演奏エリアに分かれていて、大きい方の部屋には多分60人ぐらいの客が音楽を聴いていた。


パブの入り口近くのバーエリア

入り口あたりにバーがあって、飲み物はそこで頼む。その辺は音楽は聞こえないので、おしゃべりに来ているお客はバーエリアに、奥のエリアの客は基本的に音楽を聴きに来ていると言う感じだった。

しばらくして部屋の向こう側に椅子が2つ空いた。

テーブルがなく椅子だけでも、地下倉庫への入り口に立っているよりは良いので、友達と2人でそっちに移動したら隣はウェディングの二次会みたいなグループで、その踊っている人たちに手が届きそうなところの椅子に座っていたのだった。

女性のドレスにアイルランドらしいとかはなくてウェディングドレスや、友達は、肩や背中を出したりしてロングドレス。

男の人は黒と白の正装だった。彼らの友達も背広ぽいものを着ていた。

ウェディングドレスの人とそのお婿さんの10人ほどの同じ年代の人たち同士手をつないでごっちゃになって、ずっとみんなで本当に生き生きと踊っているのだった。


イニシュモア島

そのうちすぐ向かいのテーブルも空いて、相席だったのだけど友達が了解を得たようなのでそっちに座ることになった。

演奏は相変わらず続いていて、友達がその相席の女の人たちと話し始めたけれど、私には全く何話してるか聞こえなかった。

ウェディングドレスを着た女の人と、さっき正装したお婿さんと思われる人友達が隣の人と話し始めた。音楽もあるし騒がしいので最初はまるっきり聞こえなかった。でも、友達の隣にいた女性が、私にも笑いかけて挨拶をした。

眼鏡をかけて黒髪の彼女は、ニューヨークのブルックリンから来たと言う。

30か40代位で、お母さんはゴールウェーの出身で、今日は80代のお母さんのお誕生日なんだと言う。お母さんはほとんどしゃべらなくても私の方をじっと見ている。


バーエリア


「このパブの中に自分のいとこが22人いるの」って言ったとき、アメリカからの旅行者というのでいくらなんでもこのパブだけでその数は多過ぎるし私の英語も大したことないし、うるさいのもあり、聞き間違いかと思った。

しばらく喋るうち女の人が、このパブに22人いとこがいるって言うわけがわかった。

すぐ隣でウェディングドレスを着た女の人と、さっき正装したお婿さんと思われる人は親戚だと言う。

それで結婚のお祝いをかねて、わざわざブルックリンからゴールウェーにお母さんを連れて来たらしい。

つまりこのパブに今いるのが100人ちょっと行かない位の数で、演奏エリアにいる人が60人ぐらいかと考えると、そのうちの22人がアメリカ人の親戚って言うことなんだ。


イニシュモア島

昨日ダブリンで行った移民博物館でも、アメリカ人観光客が自分のルーツのアイルランドの歴史をガイドに質問していたりした。

ダブリンの移民博物館は主にアメリカへ渡ったアイルランド人の当時の経済やら歴史やら環境やらの説明だった。

私もアイルランドに来たのは友達が行くと言ったからだけど、漠然と夫の祖先はアイルランド人で、そのルーツを知りたいような気がしたからだった。

夫は体調悪くて一緒には来られなかったけれど私も昨日ガイドに
「イギリスに渡ったアイルランド人たちの状況はどうでしたか」と質問した。

夫の先祖はそれこそじゃがいも飢饉で、故郷を捨てるしかなかったのか、そんな夫のひいおじいちゃんが出た国を知りたい。


アメリカに行くアイルランド人の船の再現。バイオリンは、フィドルと呼ばれアイルランドの伝統楽器

60人くらいのうち22人の親戚と言う事は、この空間の人はかなりの確率で結婚パーティーで来てるってこと。

このお母さん、何年ぶりに自分の故郷であるゴールウェーに来たんだろう。

女性がアイルランド出身の親のつながりを辿って来たのも、こういったアイルランドの民族音楽を自分のルーツの文化として楽しみに来たのかもしれない。

私がこのパブに来たのはただ音楽と踊りを見たかっただけなんだけど、ここにいるアイルランド人の多くが隣のアメリカ人の親戚であることで、たまたま入ったパブだけど、突然なぜ今この瞬間自分がこのパブにいるのか、女性を目の前にして理解した。


ジャガイモ飢饉でアメリカに渡ったアイルランドの船の再現

ニューヨークから来た女性はたぶん「私はどこから来たのか?」と言う答えを求めてここにいる。

女性の母親のお婆さんは、アイルランドのゴールウェーって言う小さいけど、ケルトの文化が残る伝説的な街を出て遠いアメリカに、ずっと昔結婚だか何かで渡ったんだろう。

自分の誕生日で、故郷のゴールウェーの街に帰ってきてて、今度は若い親戚の結婚で、新郎新婦たちは楽しくすぐ隣でステップを踏んでいる。

私の夫の先祖はこの国を出てイングランドに行き、私はイングランドの夫に合流するために自分の国から海を超えてイングランドに移住した。

そして夫の祖先のルーツを探したくて、アイルランドにやってきた。

みんながぐるぐる踊っている。現在から過去へ、過去から現在へ。


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