読む時間を待ち侘びて #シロクマ文芸部
読む時間が訪れるのを、僕らはいつも心待ちにしていた。
毎週日曜日の午前中、公園の広場でそれは行われる。
穏やかな語り口で始まると、要所要所で抑揚を付け、聞く者を飽きさせない。
次は何が読まれるのかと、ワクワクしながら日曜日を待ち侘び、大好きなアンパンマンなどであれば、歓喜の鳴き声をあげた。
あまり近くに行き過ぎると人間の子どもたちに悪戯されるものだから、遠巻きに、遊具や木の陰に隠れていたものだ。彼らの間では、読む時間は「紙芝居」と呼ばれていた。人間の芝居は、僕らにとっても興味深いものだった。
しかし、ある日を境に読む時間が訪れることは無くなってしまった。子どもたちの話では、おじさんが病気になったのだそうだった。
僕らはみんな、おじさんのことが大好きだった。読む時間を終えて子どもたちがいなくなると、僕らにも食べ物をくれて、頭を撫でてくれた。
「許さないぞバイキンマン、アーンパンチ!」
おじさんがその台詞を言うと、僕らは嬉しくてニャーと鳴いた。
だけどおじさんは、結局そのまま戻って来なかった。
それからしばらくして、別のおじさんの読む時間が始まった。
子どもたちは嬉しそうに聞いたし、僕らも読む時間を楽しんだ。
「前のおじさん帰って来ないのかな」
子どもたちの内の1人が言うと、
「そういうことは言わないのよ」
とお母さんらしき人が言った。
そうか、言っちゃいけないんだ。でも、なんでだろう。思ったことを言うと悪いなんて、人間は不思議だなぁと僕は思った。
今のおじさんも良いけれど、前のおじさんのが良かったと、僕も思う。あのおじさんのアンパンマンが、僕らはまた聞きたいのだ。
読む時間を、僕らは今も心待ちにしている。
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