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復讐 ♯2000字のホラー

夏休みが終わり、憂鬱な高校生活が再開した。

柴咲玖美は学校が嫌いだ。

教師ほど信用出来ない人種はいない。心底そう思う。

「ねぇ、くみぃ、ディズニーで一緒に撮ったTikTok観た?」
声を掛けて来たのは同じクラスの石井優奈だった。明るい天然キャラで、玖美も表向きは仲良くしているが、内心は「ただのバカ」と蔑んでいた。
「ここ観てみ、木の陰のところ。なんか制服着た女の子がウチらのことめっちゃ観てんの。すっげぇ暗い顔で。ちょーヤバくない」
動画には、確かに少女が映っていた。
「玖美、この子知ってる?」
「えー、知らないよ。だって学校ふけた日っしょ?撮ってんの観てただけじゃね」
「あー、そっかもね。地味な感じの子だし、ウチらが羨ましかったのかな」
あっさり信じた優奈は、休憩時間終了のチャイムが鳴ると、自分の席に戻って行った。

「なんで…」

一人になった玖美の体は震え、心は酷く動揺していた。

動画に映り込んでいた少女を、玖美は知っていた。中学3年生の時に自殺した、同級生の新田萌乃だった。自殺の理由はイジメ。

きっかけは些細なことだった。
「萌乃、須藤のこと好きらしいよ」
という誰かの言葉。誰が言ったのかもわからない、噂レベルの言葉。

須藤隆一はバスケ部のエースで、学年一のモテ男だった。運動神経抜群のイケメン。学力はイマイチだが、悪っぽい雰囲気が女子ウケした。

玖美の親友、金田有紗も須藤ファンだった。2年生の時に告白したが、あっさり玉砕。そんな傷心の経験も手伝ってか、萌乃が須藤を好きだと聞くと「生意気だ」と理不尽な怒りを口にしていた。

始めは玖美と有紗が悪口を言ったり嫌がらせをする程度だったが、少しずつ仲間が増え、行為もエスカレートし始めた。特に須藤の暴走が酷かった。

男子2人で羽交締めにし、有紗にスカート捲らせ、撮影した。さらにその画像をネタに脅し、自慰行為をさせて撮影し、辱めるような言葉を吐いた。

玖美は途中から引いてしまっていた。だが、抜けることも怖くて出来ずにいた。

そしてその日の帰り道、萌乃は自殺した。フラフラと線路を歩く姿が目撃されていた。

話を聞いた玖美は、人生終わったな、と思った。人が死んだのだ。きっかけを作った自分もお咎めが無いはずが無い。そう思った。

しかし、現実は違った。
学校や教育委員会が、隠蔽に動いたのだ。

萌乃の母はイジメが原因だと学校側に迫ったが、結論ありきの調査を行い「自殺と関連付ける根拠なし」の結果を突きつけた。

警察が介入しても、結論は変わらなかった。須藤の父親が県の議員だからじゃないかと噂になったが、玖美には事実なんてどうでも良いことだった。わかったのは、自分もクソだが、大人はもっとクソだということだ。

玖美は昼休みを前に、学校を早退した。

家に帰り、ベッドに寝転んだ。きっと何かの間違いだ。萌乃はもう、この世にいない。そう思ってTikTokを開き、動画を再生した。でも、そこにいたのは間違いなく、萌乃だった。恐怖で全身に震えが走った。

LINEの着信音が鳴った。覚えのない『もえの』という名の通知。怖いけど、開いた。

『ユルサナイ』
その端的な文字列。

震えが止まらず。涙が溢れ出た。気が狂いそうだった。悪いのは私じゃない、須藤だ。恨むなら須藤を恨んでよ。声にならず、心の中で叫ぶ。

藁をつかむ思いで玖美は須藤に電話を掛けた。しかし、不通だった。引っ越したとは言え、電話は繋がるはずだ。

何か知っていないかと、同じ高校に進学した同級生、笹井茉奈に連絡をした。
「あ、玖美、大丈夫?」
玖美が早退したことを知っていた。
「うん、大丈夫。茉奈さ、須藤って覚えてる?」
「うん。引っ越した先でバイク事故で亡くなったんだよね。踏み切り事故だって」
「えっ…」
「有紗のことがあった後だから、萌乃の祟りだって、皆言ってた」
「え…有紗、何かあったの…?」
「玖美、知らないの?通学中に電車に飛び込んだって。中学校から電話行かなかった?」

どちらの死も初耳だった。事件以来距離を置いてはいたが、連絡が来ないのは不自然だ。2人共電車に轢かれて死ぬなんて…、萌乃の復讐としか思えない。

「玖美、次、誰かな…」
「茉奈…」
話し掛けたところで電話が切れた。

LINEの着信音が鳴った。
『ツギハアナタ』
萌乃が、いる。

「アタシそんなに酷いことしてない。悪いのは須藤じゃない」

TikTokが勝手に開いた。

画面には、AIレコメンドによるオススメ動画が表示されている。

須藤が撮影した、萌乃の姿が映し出された。泣きながら、辱めを受け、死を選ぶしか無かった少女の姿で、画面が埋め尽くされる。
「ごめんなさい…」
玖美は画面から目を背け、実体の無い萌乃に謝った。

『アタシハユルシテモラエナカッタ』
『ナニモシテナイノニ』

「ごめんなさい…。軽い気持ちだったの。こんなことになると思わなかった。途中で止めることも出来たよね。ごめんなさい…ごめんなさい」
絶叫するように、玖美は萌乃に詫びた。ガラガラの声で、そこにいない萌乃に、ごめんなさいを繰り返した。

『ハンセイシタ?』

「幾ら謝っても足りないのはわかってる…。許してもらえないのも。でも、アタシには謝ることしか出来ない。萌乃、本当にごめんなさい…」
何回も何回も、玖美は萌乃に謝った。萌乃が近くにいるように感じて、ごめんなさいを叫び続けた。やがて疲れきって、体の力が抜け、そのまま気を失った。

目覚めると、玖美のスマホは元に戻っていた。LINEの履歴にもえのの名前は無く、TikTokのレコメンドも玖美の好きなK-POP中心に戻っていた。

「ありがとう」
玖美は萌乃に感謝を伝えた。許してくれたことへの、心からの感謝を。

LINEの着信音が鳴った。

茉奈からだ。

『たすけて』

復讐はまだ、続いている。

end.

■削って削って約2300文字。後でまた原型もアップします。ストーリーも結構イジりました。

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