物干竿の待ち人は来ず。 #毎週ショートショートnote 「アナログ巌流島」
目を覚まし、体を起こすと、布団の横に侍のような男が佇んでいた。
夢かなと思い、もう5分だけ寝てみたが、やはり僕の部屋に侍がいる。
侍は目を閉じたまま正座をしていて、膝の前には二本の刀が置かれていた。
あのー、と僕が声をかけようとすると、侍はゆっくりと目を開き、「拙者、巌流島に行きたいのだが…」と悲しげに話し始めた。
どうやら道に迷ったらしい。とは言え僕の家は東京で、目的地は山口県の離れ小島だ。何をどう間違うと僕の部屋に辿り着くのだろうか。
侍はボロボロの地図を取り出し説明してくれた。「見方逆さまだよ」と僕が言うと切腹の用意をし始めたので、必死で制止した。
Google MAPを見せると、侍は目を輝かせた。
「概ね理解した。かたじけない」と言うが、明日が約束の日なのに今から歩いて行こうとするのだ。
やむを得ず3万円渡し、電車の乗り方を教え、「もう少しわかりやすい場所で待ち合わせなよ」と僕が言うと、「御意」と言って走り去って行った。
その後彼が巌流島に辿り着いたか否かは定かでない。
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