友達になろうなんて言えなくても
今まで、「友達になってください」と言って友達を作ったことがない。
僕の友達と言われる人は決して多くはないが、その関係になる人というのは至極自然な流れでできることが多い。
だがそれは「気遣い」を知らなかった小・中学生のときと、その「気遣い」に慣れた大学入学後の話である。
ゆえに、僕が高校生のときというのは「気遣い」をし始めたタイミングであり、慣れない「気遣い疲れ」みたいなものが少なくとも一年生のときはしょっちゅうあった。
中学のとき仲よかった友達は皆別の高校へ進学し、入学式も新しい友達ができるか不安で不安で仕方がなかった。そんなとき僕に声をかけてくれた同級生がいて、僕は彼と友達になった。
けれども彼以外の友人が入学後はなかなかできなかったのである。それも、過剰な気遣いが僕を襲ったからだ。
未だ話したことのないあの彼に何て声をかければいいのだろうか。同級生とはいえ、敬語の方が適切なのか。そもそも、「友達」というのはどうやって作ればいいのか、訳がわからなくなってウェブで「友達の作り方」と検索した覚えもある。
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高校入学時、僕は「X JAPAN」にのめり込んでいた。今まで、流行のJPOPしか聞いてこなかったが、どういう経緯か、僕が生まれるよりも前に流行した彼らの曲を聴き続けた。強烈なサウンドと衝動的に走りたくなるようなリズム、想いのこもったToshIの声に僕は魅了されていった。登下校中もイヤホンを耳にさしてずっと彼らの曲をリピートしていたくらいだ。
そしてある日、僕は気づいた。
いつものように先生が出欠を取っているときのことだ。先生が、「YOSHIKI」と口にした。そう、このクラスに「YOSHIKI」くんがいることを、僕はこのとき初めて気づいたのである。
もちろん、呉服屋の息子でもなければ苗字は林でもないし、金髪でもなければ白めの化粧も、黒いサングラスもしていない。
彼は短いクルクルとした黒髪で、日焼けで顔は黒く、赤縁のスポーツメガネをかけている。もはやあのYOSHIKIとは対極のような容姿である。
それでも僕は人生ではじめて「YOSHIKI」という人と出会った。
その名前が教室にこだましたときは、脳内でYOSHIKIが金髪を激しく揺らすヘッドバンキングをして「紅」のドラムを叩く姿とその音が轟いた。
僕はいてもたってもいられなくなって、朝の会終了後、すぐに彼の席へ駆け寄った。
今でも全く意味がわからないが、
「ヨシキくんってYOSHIKI?」
と、僕は右腕と左腕を胸の前でクロスさせ、Xポーズをとって言った。
彼も広角をあげてXポーズをし、それから僕たちは「X JAPAN」の会話でもちきりだった。ヨシキくんも「X JAPAN」が好きであること、カラオケへ行ったら「紅」を歌わせられること、カワイのピアノは持っていないこと、ドラムは叩けないしピアノもできないことなどなど、「X JAPAN」を通じて僕たちの会話は弾んだ。
僕は高校入学後たまたま「X JAPAN」が好きになり、彼の名前がたまたま「YOSHIKI」であり、彼もたまたま「X JAPAN」が好きだった。たまたま同じ年に生まれ、たまたま育った地域が近くて、たまたま同じ高校に入学した。
もしかしたら、宝くじの上等賞が当たるくらいの確率くらいすごいことなのかもしれない。僕はその「たまたま」がすこぶる嬉しかった。
でも、その日イヤホンをささずに下校したことはもっと嬉しかった。
「押すなよ!理論」に則って、ここでは「サポートするな!」と記述します。履き違えないでくださいね!!!!