店主の日誌/バーを仮想空間でプレオープンしてみた

2022年、夏。旅行に出かけたり、映画や舞台を見たり、楽しく過ごしています。でも、どこか退屈していました。

最近は、仮想空間でお店ごっこをしています。

雰囲気はバーですが、仮想空間なので、お酒もツマミも出せません。ただ話を聞いたり、しゃべったり、人の気配を感じたりする場所です。出入りも自由。仮想空間でも、お店づくりは刺激的で楽しいです。

これは、バーをはじめようとした二ヶ月間と、仮想空間でプレオープンしてみた一週間の記録です。


2022年7月


7月2日

映画館に行く。


7月5日

映画のノベライズを読む。好きなシーンがなくて悲しい。原書を確認したい。


7月9日

映画館に行く。本屋に寄る。

原書を見つけました。せっかく本屋に来たので、目に止まった本を読みます。異世界の歩き方。カット割りの教科書。インタビューの技術。


7月10日

原書にも好きなシーンがなかった。悲しい。


7月15日

友人と呑む。大雨。楽しかった。


7月17日

映画館に行く。晴れ。外でビールを呑もう。

腕にタトゥーのある店員から、ビールを受け取りました。次の客が、タトゥーのことを聞いています。店員をあらためて見ると、腕のタトゥーはアニメキャラ。墨を入れるほど好きなものに、自分は気づきませんでした。だから退屈なのかもしれない。


7月24日

この退屈さをどうにかしたい。いろんな人の好きなことを聞こう。

一対一で一時間、話してくれる人を探しました。ツイッターのアンケートに答えてくれたのは151人。DMをくれた人とスケジュールを調整しました。


7月25日

聞き方の本を読む。


7月27日

サシトーク、一人目。


7月31日

サシトーク、二人目。



2022年8月


8月2日

映画館に行く。


8月3日

サシトーク、三人目。

話し方も、考え方も、生き方も、さまざまでおもしろいです。好きなことに関わらず、話を楽しく聞ければ、それでいいと思いました。


8月4日

サシトーク、四人目。

一対一の会話に手を挙げてくれる人も、応じてくれる人も、まれです。でも、話したい人は多そうです。新しいやり方を考えないと、サシトークは続きそうにありません。


8月7日

映画館に行く。


8月8日

サシトーク、五人目。


8月13日

サシトーク、六人目。


8月20日

『鎌倉殿の13人』を見はじめる。

はじめて大河ドラマを見ます。夢中で見ていたら最新話に追いつきました。31話。時間をかけて、人の立場が、考え方が、生き方が、変わっていくさまがおもしろいです。人生って長い。


8月23日

自分の人生を棚卸しする。

数年前、すべてがイヤになっていました。オフィスと家を往復する毎日。いつも終電です。なにもできずに家へ帰るのがしゃくで、近所のバーへ通いました。偶然となりに座った人や、マスターと話すのが楽しかった。自分は今、そういう場所を作りたいのかもしれない。


8月25日

サシトーク、七人目。友人と話す。


8月26日

本を読む。バーのはじめ方、カフェのはじめ方、飲食店のはじめ方。

飲食店をはじめるには、資格や手続きがいります。自治体で数時間の講習を受けると、食品衛生責任者になれる。保健所で手続きすると営業許可がもらえる。物件が決まれば、どれも時間はかからないようです。


8月27日

友人と呑む。


8月28日

店を開くために必要なタスクを書き出す。

おおまかにスケジュールを引いて、開業資金、運転資金、収支計画を考えました。日取りもお金も物件次第です。どこの物件にするのか。飲食店に使って良いのか。なにを決め手にするのか。家を選ぶよりむずかしい。


8月31日

店を持っている友人に話を聞こう。

友人も物件に苦労していました。物件探しは運。

気づきました。自分はよく引っ越します。住んでも長くて四年、それ以上は想像できません。店舗物件の取得費、内外装や設備の工事費、開業資金の大半は物件に依存します。それを数年で回収できるのか。引っ越して、また投資するのか。雲行きが怪しくなってきました。



2022年9月


9月1日

サシトーク、八人目。

物件探しが続きます。そもそも、店に人が来るのか不安になりました。店をはじめるって、高コスト、高リスク。コストを抑えようとすると、アクセスに車がいります。お酒が呑めません。


9月3日

サシトーク、九人目。

DMで質問をいただいたので、過去に主催したオンラインイベントの話をしました。即売会ごっこ、懐かしいです。

オンラインでよかったことを思い出しました。物理的な制約がなく、低コスト、低リスク。ちょうどいいかもしれない。オンラインで、お店ごっこをやってみよう。


9月4日

お店ごっこの情報収集。

バーチャルオフィスやメタバース系サービスを洗い出します。オンラインカフェ、オンラインバーをしている先駆者も見つけました。ただ、ベンチマークになりそうな事例はありません。

お店ごっこに『Gather』を使おうと決めました。スマホでも、そこそこ動く。通話がスムーズで、なによりアバターがかわいい。空間の柔軟性も高いです。


9月5日

お店ごっこ、一日目。

試運転です。誰も来なければ、すぐやめます。

一時間に十数人のフォロワーが来てくれました。想像していたトラブルはありません。サシトークで話した二人が、お店のカウンターに座って話してくれました。うれしい。

一日目の様子

続けてみようと思えたので、お店ごっこ用に新しいアカウントを作りました。使い分けのためです。


9月7日

主催したオンラインイベントの手記を公開。

お店ごっこをはじめるルーツです。サシトークで思い出した当時のことを、忘れないように公開しました。


9月8日

この取り組みの名前と、お店の名前を決めます。

ずっと「仮想酒場」とか「たまり場」とか呼んでいました。「オンラインイベント」のように、取り組みの名前が必要そうです。

人が集まっていそうな場所の名前。でも、飲食しそうな感じは避けたい。絶対に話さなきゃいけない感じも避けたい。クリーンな印象にしたい。友人に相談して、取り組みの名前は「オンラインベース」にしました。

お店の名前は、数字かアルファベットを使いたいと思っていました。エンタメ企業「A24」、フェイクドキュメンタリー「Q」、ロゴの魅せ方に惹かれます。自分のアカウント名から数字を取って「クラブ14」にしました。

とはいえ、いつまで続くかわからないので、ロゴは保留。

お店の定休日や営業時間を決めます。

リアルなお店のように、決まった曜日と時間にやろうと思いました。サシトークは一対一で一時間。なら、一日一時間はできるはず。営業時間は、平日の22時から23時にします。

そして、お店ごっこに参加してくれる人へ取説を作りました。友人に推敲をお願いします。文章を足したり、イメージを砂漠から夜景に変えました。


9月9日 金曜日

クラブ14、二日目。

お店のもようがえ。バーらしい見た目に変えて、前室を増やしました。お店に入る前に、アバターや端末の設定を整える場所です。

二日目のもようがえ
二日目に追加した前室

開店時と閉店時に、ツイッターでアナウンスすることにしました。

約20人の来店。前室からお店に入りづらそうです。お店のイスが足りない、座りにくい。スマホは細かい操作ができません。パソコンの人は少数派、スマホの人が大半です。

デフォルトのアバターが見当たりません。みんな、一瞬でカスタマイズしています。パーツ選びや色合いに個性が出ていて、おもしろい。来てくれた友人も、友人らしいアバターです。開店直後のお店に友人が来る、オンラインでもリアルでも変わらないことに驚きました。

二日目の様子

窓がない、中の見えない店は、怖くて入れません。閉店時のアナウンスと同時に、その日の店内スクリーンショットをツイッターへ投稿することにしました。


9月12日 月曜日

クラブ14、三日目。

お店のもようがえ。前室からお店に入りやすくしました。お店を広くして、テーブルとイスを増やします。スマホでも座りやすいレイアウトにしました。

三日目のもようがえ
三日目の前室

バーらしいBGMを流したい。でもBGMを流す機能がありません。自分のマイクを通して、スマホから曲を流しておきます。

もっと話しやすくしたい。ラジオのやり方を参考に、トークテーマを作り、その一例を記事にしました。

約20人の来店。

三日目の様子

六人がけの席でも、座るのは四人。パーソナルスペースがあります。座り方やふるまいがリアルと変わりません。


9月13日 火曜日

クラブ14、四日目。約30人の来店。

四日目の様子

カウンター席を、心理的にもっと座りやすくしたい。


9月14日 水曜日

クラブ14、五日目。

カウンター席の位置を、画面の上から右に変えました。舞台に立つような圧迫感がなくなる、かもしれません。初めて店を訪れる人や、自分と初対面の人にも、居心地の良い空間にしたい。

うれしい提案がありました。「いつか喋ってみたいけど、心の準備がしたい」と意思表示してもらうのはどうか。自分と同じ人がいるとわかれば、安心感もありそうです。新しく、壁カウンター席を作りました。

先に誰か座っていると、座りやすくなります。壁カウンター席には、NPCのアバターを座らせました。

五日目の様子

約20人の来店。この日は早めに閉店しました。


9月15日 木曜日

クラブ14、六日目。

「アバターになると、人はリアルと違う行動をする」「アバターだから、人は空間に順応しづらくなる」と考えていました。ところが、みんな、アバターになっても、リアルと同じふるまいをしています。アバターでもリアルでも人は変わりません。自分が間違っていました。

「リアルと同じようにふるまってください」では伝わりません。

空間の演出では伝わらないルールを言語化します。取説に追記して、ツイッターのスペースで思いを話しました。

試運転で適当に作ってしまった、仮想空間のURLを変えました。閉店時は、BGMに『蛍の光(別れのワルツ)』を流してみます。

六日目の様子

約20人の来店。この日は早めに閉店しました。


9月16日 金曜日

クラブ14、七日目。

初対面の人が話しやすいルールと空間を作ることにしました。

ニューフェイスデイ。今日、カウンター席に座って話せるのはニューフェイスな人だけ、というルールです。名前は友人に相談しました。いつもありがとう。

広い空間は話しにくいかもしれません。お店を小さくしました。仮想空間でよかった。ありもので、それっぽく整えます。前室とお店以外の空間はありません。

昨日はBGMが聞こえなかった、と友人から連絡がありました。やり方を変えよう。パソコンはBGMを流すだけのDJアバターに、タブレットは店主アバターにします。一人二役です。

七日目のもようがえ

約20人の来店。ニューフェイスな人に座ってもらえました。うれしい。

七日目の様子

ただ、ニューフェイスの定義「自分と食事をしたことがない人」に問題があります。食事が、仮想空間を指すのか、リアルを指すのか、受け取り方にゆれがありました。言い回しと定義を考えよう。

なんにせよ、座ってもらえてよかった。

カウンター席に座らない人も、たまにチャットしてくれます。閉店時、みんな席を立って、出口へ向かう姿が板についてきました。

匿名のメッセージもいただきました。励ましや感想です。家でリラックスできる、会話が聞けておもしろい、いつかカウンター席に座りたい。うれしい。

こうして、プレオープンの一週間を終えました。





(たぶんつづく)


(めったに♡がつかず不安なので、どこかおもしろかったら、♡をもらえると安心します)


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