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娘大学受験、精一杯の秋冬。

 奇跡は起きて娘無事高校卒業した。卒業式はまた逡巡したあとに行った。中学時代から続く学校行きたくないは、一区切りがついた。

 卒業前の夏には大学に行って日本画やりたいという。ふーむ、日本画描いて自立の道はあるのか。ありきたりの心配、娘にはないらしい。えらいぞ娘、行け、心の声。

秋頃から東京の生活は向いてないと気付いたらしい娘、地元近辺の公立芸大へと心に決めたらしい。友達の家から学校に通わせてもらい、休むことなく登校は続けるも、授業は分からん、と言う。そりゃそうやろ、出席してなかったもんな。たまに家に帰ってきても勉強する姿なし、親は憂うが。

年は開け、受験の日は近づく。志望は公立芸大一本でいくという。親を気遣う娘。しかし、難関らしいで、競争もキツイでと思うが言わずにいる。

センター試験とかに行ったらしい。英語はさっぱりやったという娘。前におまえに教えたったアイマイミー出んかったかと、自分の動揺を娘に悟られぬよう冗談を言う。

なんとかセンター試験は結果を残し、いざ京都へ。入学試験や。先ず、試験を受けに会場の学校に行くこと、間に合うこと、忘れ物しないこと。これらは娘にとって第一の関門、難関。前の日、お前の好きなもの作ったぞ、トリにいくぞ、カツぞ、しっかり食べろ。

試験は無事終わり。いやどうも無事ではなかったらしい。実技の最後の課題のテーマの造形で、最後の最後に作品が倒壊したそうな。自信あったのに最後に接着剤が引っ付かんかった、らしい。娘の目が泣いている。

しかし、高校卒業は出来たぞ、お祝いや。知り合いのレストランで友達ご家族と感謝のディナー。素晴らしい料理とサービス。ぼくは行かんかったけど。

思えばわが娘、すごい絵描いてぼくらに見せてくれた。この道に進んで、思いっきり自分の才能を磨いてほしい。公立あかんかったら、私立でもええやんか、お金はなんとかしたる。精一杯やれ、娘と自分に心の声。

 何時でも絵は精一杯描いとる娘。美術の先生になったらええんかもとぼくは思うが、大学に行くのがそのはじめ。娘は生まれて初めてのアルバイトで忙しい。おお、あいつにも務まるのかと、勤務先のコンビニに感謝の気持ち。

 さて、大学合格発表の日は来る。現地集合は中止で密を避けオンライン発表らしい。何時からと訊ね、午後三時やというので偶然休みだったその日の午後、ぼくは古本屋に出かける。

 家にいたら落ち着かん。三時にはまだ一時間本を手にして読もうとしても字が目に入らぬ。せめて後から読もうとカゴに入れる本数冊。時間は迫る。立ち止まり本は開いて腕時計みつめて、スマホの着信バイブレーションを待つ。

 三時、スマホに動きなし。スマホ手にじっと画面を見る。十五分、三十分、そして四十五分。動かぬスマホ。そうか、 落ちたか、入試はあかんかったか。元気出せよ、これからが大事やぞ、おまえの人生のなんの否定ともちゃうぞ。

 しかし、娘になんと声をかけようか。それよりこれより、娘のことより自分の顔や、しっかりせい、笑う顔見せたれ。ぼくはトイレに入って笑顔の練習をする。しかしなんで妻はぼくにメールよこさんのやろか。あのひとも落ち込んだんやろか、娘によりそうてメール出来んのかな。スマホ手に持ち一足ごとの歩きスマホ、なにも連絡はない。家に帰ろう。とにかく娘になんか好きなもの作ってやろう。ぼくに出来ることはこれしか無いもんな。


 家に帰ると妻の自転車が無い。ふーむ、娘一人残してなんか買いに行ったんか。娘一人で大丈夫か。しーんと静まった家の中、まずは石鹸手洗いをしていると階段を降りる大きな音、娘ぼくをみて、お父さん、芸大受かった!と告げる。発表四時からやってん、受かってたわ、お父さんありがとう。おお、娘、そうやったんか。落ちたと思って帰ってきたぞ、そうか、ようやった。娘、ありがとう、ありがとう、娘。自分の顔が練習した笑顔か泣き顔か分からぬままに、買い物に出かけた妻にありがとうをぼくは言う。

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