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精神疾患をもつ患者さんの在宅での支援について

○患者数は増えているが、入院日数は減少の一途

 厚生労働省「患者調査」によると、H29年度の精神疾患を有する総患者数は419万3千人と400万人を上回った。これには認知症(血管型、アルツハイマー型等)も含まれているが、前回調査のH26年度の392万4千人よりさらに増加傾向である。以前は入院による治療が主流であったが、近年は特に在宅での精神疾患を抱える患者のサポートが重要視されている。それは入院患者数の減少からも見て取れ、H14年からH29年の15年間に入院患者は約5万人減少している。また入院における平均在院日数も減少の一途であり、平成元年から平成29年の間に約220日短縮しており、H29年では平均268日となっている。もちろん身体科に比べれば「え?小数点抜けてるのでは?」と思われる日数だが、現実は「3桁日数」入院している。社会的入院は減少したが、それよりも在宅での支援が入院日数の減少を如実に表しているのではないかと臨床にいて感じることがある。それだけ退院しても大丈夫な環境が整ってきているわけだ。


○薬物療法が治療のメイン

 精神疾患に対しての治療法は「薬物療法」がメインである。
 統合失調症は脳の神経伝達物質が影響しているのではないかとされている。ドパミンの働きを遮断すると統合失調症の陽性症状である幻覚・妄想などの治療に効果を示すことにより、ドパミンの過剰放出が原因となっているのではないかとされる。中濃辺縁系でのドパミンの過剰放出は幻覚・妄想などの陽性症状は減るものの、中脳皮質系ではドパミンの機能低下により陰性症状である意欲の低下や感情鈍化などが出現する。そのような陰性症状の改善されない患者さんにはセロトニン遮断作用のある薬を投与すると改善されることがみられる。
 このように脳の伝達物質が影響し疾患を引き起こしているとされているため、統合失調症などの精神疾患は薬物療法が重要なのである。脳の伝達物質を「物理的に」遮断するための手術や手技などはない。
 しかし考えてみてほしい。薬物療法が重要であるとはわかるが、毎日、365日1回も忘れずに内服が可能か。入院中なら可能であるが、在宅でとなると飲み忘れも出てくる。寝坊してお昼に起きたときは、それが朝薬なのか昼薬なのかわからずスキップすることなんてあると思う(私はある)。1度でもこういうことがあるとルーズになりがちで、いつの間にか朝の薬を飲まなかったり、昼の薬を外出したため忘れたりと、服薬のコンプライアンスが悪くなってしまう。


○薬物療法の継続のためには

 基本的に月に何度か外来通院をして、先生に診てもらい薬を処方してもらう。
 処方された薬を内服することが、治療における大切な事だが、先述した「飲み忘れ」に関しては、薬品会社も薬剤の改良でいかに飲み忘れを防ぐか対応している。
 1つは最近出たロナセンのテープ。これは1日1回貼るだけで良い経皮吸収型の統合失調症治療薬である。貼るだけで良いので、忘れにくい。また目視で貼り忘れを確認できるので「視覚的」に薬の内服を忘れない。内服に水もいらないので外出先でも貼ることが可能である。
 また根本的に内服せず注射に切り替える患者さんもいる。LAIという持続性注射剤である。注射の場合、値段は高いが日々内服の事を考えなくてよいのが最大のメリットである。月に2回、もしくは1回でよい。日々内服する薬は1日3回なら90回、1日4回内服なら120回も内服することになる。これを1回も忘れずに内服するのは先述の通り困難であり、注射剤に置き換えるメリットは多い。


○患者さんの退院後を支えるために

 薬物療法を在宅で継続的に行うためには、どのようにすればよいか。
 方法として訪問看護などで定期的に内服薬のチェックと精神状態の観察を行う。これは非常に患者さんにも良い影響があり、日中就労せずに自宅で過ごしている患者さんには、人とのつながりを形成することができる。人とのつながりは非常に重要であり、孤立してしまいがちな患者さんの生活面での相談にも訪問看護師などが対応することにより、その問題を適切な機関につなぐことで患者さんの悩み事を減らすことができる。また、精神状態の観察を行うことで、内服薬が飲めていそうか、このまま在宅での生活を続けることができるかアセスメントし、必要に応じて医療機関へつなぐことで、患者さんの治療の継続をバックアップすることができる。再入院せずとも薬の再調整で済めば、患者さんの在宅での生活を継続することができる。
 継続的に支援していても、ある日突然連絡が取れなくなったり、訪問しても部屋に上がらせてもらえなくなったりと、在宅での支援も一筋縄では行かない部分もあるのは事実だ。多職種、多機関連携してもうまくいかないときもある。しかし昔に比べたら、入院日数も入院患者も減ったと今回まとめて感じた。それだけ治療の場が病院だけではない現状を理解できたと思う。今後も精神疾患を取り巻く現状については書いていきたいと思う。


※参考文献
厚生労働省 精神疾患のデータ
https://www.mhlw.go.jp/kokoro/speciality/data.html


大日本住友製薬 ロナセンテープ
https://ds-pharma.jp/product/lonasentape/

ヤンセンファーマ株式会社 統合失調症ナビ
https://www.mental-navi.net/togoshicchosho/understand/cause/hypothesis.html

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このマガジンは2人の臨床経験をもとに投稿しています。臨床で困っていること、対応の仕方など脳と精神分野に強い2人が臨床に即した内容で書いています。臨床でお役に立てる内容だと思います。ただし、まだ記事が少ないです。

脳神経外科看護師のあずと、精神科と訪問看護のおぬで運営するマガジン。病態に関すること、臨床での体験談などをお伝えし、同じ科で働いている人、…

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