憧れと恋とタバコ

ばかだなあと思われるかもしれないけれど、わたしは好きなひとが吸っているタバコと同じタバコを買うということに憧れがある。憧れがあるけどそもそもわたしはタバコを吸わないしそんなことをするようなタイプでもないなと思って憧れのまま終わるんだろうなと思っていた。だけど、たぶん少し先のわたしはそんなピュア(なのかはわからないけど…)なことは考えなくなるというか、どうでもよくなっちゃうんだろうなという気がしていて、ちょうどいま好きなひとはタバコを吸っているし、もうこの憧れを叶えちゃえ!と思って、叶えてきた。

わたしのまわりにはタバコを吸っているひとが多くて、彼らがタバコを交換していたり好きなひとが吸っているタバコを吸っていたり思い出の彼のタバコの匂いの話をしていることになんとなくうらやましく思っていた。だったらタバコを吸えばいいじゃないかという話になってくるんだけど、たぶんタバコ吸い始めたらハマっちゃってやめられなくなっちゃうなと思って、ずっと非喫煙者。彼女たちが、セッターの匂いは忘れられないとか言っていても「セッター?セッタ…自転車…?」と思ってしまうくらいタバコに関して何も知らなくて、いつもうらやましく眺めるばかりだった。

カッコ悪いけど、コンビニに行く前に念のためタバコの買い方を調べて、「番号を言えばいいんだな」と復習をして家を出た。レジに並んでいる間、すこし緊張してドキドキした。なんだかすこしだけ悪いことをしているような、そんな気分だった。レジについて番号を言おうと思ったら買おうと思っていた銘柄?の種類?がいくつかあって、彼が吸っているのがどれなのかわからなかったから一番最初に目についた番号を伝えた。人生で初めてタバコを買った。好きな人が吸っている種類と合っているのかわからないのがすこし失敗だったけど。

帰ってきてちょっと吸ってみようと思って、部屋では吸えないから友人にもらったかわいいマッチを持ってベランダに出たんだけど、なんと今日は台風が近づいていて雨も風も強くてマッチの火がつかなかった。火がつかなかったからタバコも吸えなかった。やっぱりわたしにタバコは似合わないのかしら。そういえばタバコの持ち方もよくわからなくって、持ち方とかあるのかもわかんないけど、わたしは本当に何も知らないんだなと笑ってしまった。軽く調べてみたところ、銘柄があってその中に種類があるっていう認識なんだけど合っているのだろうか。こんど彼が吸っているタバコはなんだったのか、聞いてみようかな。

人生で初めて買ったタバコ。好きなひとが吸っているタバコを買って彼に近づきたかった。だけど台風のせいで吸えなかったしそもそも彼が吸っているものとぴったりおんなじなのかどうかもわからなかった。それでもすこしだけ、すこしだけ彼に近づけたような気がしたし好きな男のタバコの話をする彼女たちにも近づけたような気がした。

タバコと恋といえばチャットモンチーの『染まるよ』の印象が強くて、もしも今日タバコを吸えていたら、とても切ない気分になっていたと思う。だけど、どうでもよくなっちゃう前に、憧れを叶えられてよかった。本当に些細でくだらないことかもしれないけれど、好きなひとと同じタバコを買いに行ってよかった。

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