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経済制裁下のイランの優しさに包まれて(後編)

前編はこちら。イラン入国時のハプニングをまとめています。

危険な飛行機

 紆余曲折を経て入手したイランリアルを元手に、観光地としては見どころの少ない首都テヘランを堪能した私は、マーハーン航空というイラン民営航空会社の国内線を利用し、南部の都市シーラーズへと向かった。

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 だがこのマーハーン航空、実は知る人ぞ知る「危険な航空会社」なのである。

 イランは米国の経済制裁を受けており、機体の更新はおろか、修理部品の供給もストップしている。その為、マーハーン航空を始めとするイランの航空会社各社は、ものすごく古い機体を壊れても騙し騙し使用しており、イランの優秀なパイロットの腕を持ってしても頻繁に墜落するという非常に気の毒な事態に陥っているのだ。

 その結果、EUが指定する「EU域内乗り入れ禁止航空会社」に見事ランクイン。この不名誉なランキングにはイランの他に、北朝鮮イラクアフガニスタンスーダンベネズエラといった政情が不安定な国が並んでおり、これらの国々の航空会社は、EU諸国との路線開通のみならず、EU加盟国の領空の飛行も禁じられている。平たく言うと、落っこちる危険性が高いからである。

 事情はどうあれ、落っこちるかもしれないオンボロ飛行機に乗るという経験は後にも先にもないだろう。手荷物検査もゆるゆるで、これじゃあ危険物を持ち込む輩がいてもおかしくないと、不安はどんどん膨れ上がるばかりだった。

 実際の乗り心地は、快適で安全で、あっという間のフライトだった。ショボいけれど一応機内食も出た。どれくらいショボいかというと、バターロールにポテサラみたいなのがはさまったやつがサランラップにくるまってるのを手渡しされた程度のショボさである。

 なお、着陸後、多くの乗客がスタンディングオベーションで拍手喝采していたので、やっぱりみんな「落っこちるかも」と不安だったのかもしれない・・・。

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知られざる、モスクの内側

 イラン国内では、国籍を問わず全ての女性はヒジャブ(髪の毛を隠すスカーフ)の着用を義務付けられており、違反した場合、宗教警察に逮捕される。それどころか、手指と顔以外の肌の露出や、身体のラインがわかる服装も法律によって制限されており、違反した場合、やはり宗教警察に逮捕される。

 これだけでもびっくりだが、モスクに入るとなると、さらに面倒くさい。国籍を問わずすべての女性はアバヤの着用を義務付けられているのだ。アバヤとは何かと言うと、いわゆる「千と千尋の神隠し」のカオナシスタイルのことである。(下の写真の右下の2人みたいな感じ)

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 とある日の夜、太陽が沈み、ようやく外を出歩ける程度の涼しさが街に訪れた頃、私はシーラーズ最大のモスクを訪れた。モスクの入口には手荷物検査用のテントが設置されており、そこでアバヤを借りることができる。

 いざカオナシに変身、そう思っていたらなんと、着付け係のオバチャンが大判の白い布を持ってきた・・・!嫌な予感・・・!

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 なぜ白なのか・・・。これじゃあカオナシどころかてるてる坊主じゃないか・・・。
 だがどこのモスクでも貸し出されるアバヤ(というか布)は毎回白地だったので、理由は不明だがそういうものなのだろう。

 ちなみに建物の中は本来イスラム教徒オンリーだが、偶然通りかかった親切なオバチャンが、「私の家族だということにすれば問題ない」というので、一時的に娘となって参入。ブルーのタイルの緻密な柄は宇宙を思わせる美しさ。祈りの間は天井が一面鏡貼りとなっており、銀河のような煌めきを放っていた。

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 祈りの間の床には色とりどりのペルシア絨毯がひかれ、その上に石を置き、そこにおでこを接するように拝むのがイランで信奉されているイスラム教シーア派のスタイルである。建築物や絨毯といった人工物ではなく、「石」という自然のものからエネルギーを得ようとする発想は、古代ペルシア時代に当地で発祥した「ゾロアスター教」にも通じる思想だ。

 見様見真似で、五体投地のごとく這いつくばっていると、「お祈りはこうするんだ」とか「一緒に写真を撮ろう」とか「このあとうちでお茶を飲んでいけ」など、四方八方からの手厚いもてなしを受けた。

 「なんて、みんな親切なんだろう」果てしなく続く星空の下で、思わず溜め息が出た。

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イランのおすすめの宿

 私が宿泊したTaha traditional hostelは、シャワーが壊れてた(冷水がチョロチョロ流れてくるだけ)ものの素晴らしくホスピタリティに溢れた宿で、イラン旅行を計画している方には是非ともオススメしたいホステルである。つーかそもそもイランの安宿でシャワーノズルからお湯が出てくることはまずないので、滝行だと思って冷水を浴びていただければ幸いである

 まず、常に何かしらの飲食物が提供される。どれもすごく美味しい。

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 次に、宿のオーナー(女性)がめちゃくちゃよく喋る。「トルコ航空のパイロットの彼氏が、フライト先で遊びまくっているのだがどう思うか」などという、自由恋愛禁止のイランとは思えぬぶっ飛んだ発言をするかと思えば、「男は馬鹿だからしょうがない」とドイツ人宿泊客、「写真を見せろ、写真を」とオランダ人宿泊客、万国共通の盛り上がりを見せた。

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 さらに、宿から車で少し行ったところには、イラン版ウユニ塩湖がある。Tahaのオッチャンが車を飛ばして連れてってくれるうえ、インスタ映えする写真の撮り方に関してもやたら熟知しており、そういう意味でもやはりTahaは非常にオススメである。

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 宿の近くにはサンドイッチの移動屋台がおり、9歳の少年が美味しいサンドイッチを手作りしてくれる。トングをつかむ右手にビニール手袋をし、パンをつかむ左手が素手なの、ツッコミどころしかないけど、かわいい。

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 なお余談だが、この純朴な少年と同年代にして、ものすごい完成されたイケメンにクルミ屋さんで出会ったので、この場を借りてご紹介したい。小学生にしてこの完成度。流石である。

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まとめ

 イランは人との触れ合いに富んだ、地球上最後の楽園だと私は思っている。ここでは省略したが道端で仲良くなったファミリーのホームパーティーにお呼ばれしたりとか、イスファハン大学の学生たちのピクニックに混ぜ込んでもらったりとか、なかなかに濃厚な体験を積んだ2週間だった。

 何か目的を持たずとも、あなたが能動的に動かなくても、きっと向こうからそっと手を差し伸べてくれる。イランには旅人を温かく迎え入れる牧歌的な空気が今もなお残っており、この素晴らしい文化が今後も消えずに受け継がれていくことを心から願いたい。

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