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「ポワロ」の魅力

私のTwitterをフォローしていただいてる方ならご存知だと思うが、私は今海外ドラマ『名探偵ポワロ』(1989〜2013)に絶賛どハマりしている。
『名探偵ポワロ』はタイトルが示す通り、世界的に有名な名探偵エルキュール・ポワロを描いたドラマシリーズであり、このドラマシリーズの特筆すべき点は、ほぼ全ての原作を映像化したというだけでなく、主役のポワロを演じたデヴィッド・スーシェの徹底的な役作りによる完璧な演技であると言えよう。
元々ミステリーや推理小説を読むのは大好きで、小学生の頃は専らシャーロック・ホームズだった。エルキュール・ポワロの名前は聞いてはいたが、当時はあまり読む気にはなれなかった。
それがなぜ、今はどハマりしたか。
多分ポワロの持つ、計り知れない魅力の所為だと思う。

ポワロについて

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↑『名探偵ポワロ』(2013)

エルキュール・ポワロは、ミステリーの女王、アガサ・クリスティが生んだ世界に誇る名探偵の一人である。
ポワロの友人で相方のアーサー・ヘイスティングス大尉は、ポワロをこう表現している。

ポアロ(原作では「ポアロ」表記)は風変わりな小男だった。背丈は五フィート四インチそこそこ(およそ160cm程度)だが、物腰は実に堂々としている。頭の形はまるで卵のようで、いつも小首をかしげている。口髭は軍人風にぴんとはねあがっていた。身だしなみに驚くほど潔癖で、埃ひとつついただけでも、銃弾を受けた以上に大騒ぎをしそうだった。

(『スタイルズ荘の怪事件』(早川書房、2020年)40ページ)

この表現だけでも、ポワロの奇特な人ぶりが伺える。

ドラマでは、そのポワロの奇特さぶりにますます磨きがかかっている。
まず、彼の祖国・ベルギーへの愛国心が強調されている。
ベルギーを馬鹿にされると激怒し、またベルギーの母国語がフランス語であることから彼自身もフランス訛りの英語を喋るのだが、そこからフランス人と勘違いされることもあり、その場合も激怒する。

さらに、潔癖症気味な性格も描かれている。
屋外のベンチに座るときは必ずハンカチを敷いてから座るなどというのは序の口。
酷い時は、ヘイスティングスと一緒に夕食後お皿を洗っていた時、ヘイスティングスが洗ってくれたお皿を自分の基準に合わないからか何度も突き返したり、依頼人が自身の部屋の飾りを触ったりしていた時(触るというよりは握りしめるという感じだったが)、わざわざ本人の目の前で丹念に飾り物を拭き取るという暴挙に及んでいる。

それだけでは飽き足らず、自身を「世界最高の名探偵」と自負し、誰もが自身のことを知っているという壮大な自惚れ屋である。
また、「秩序と方法」をモットーとし、曲がったことは大嫌い。整理・整頓を怠らず、少しでも物の配置が曲がっていたりすると直さずにはいられない。

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↑ポワロのある日の朝食。寸分の乱れなく、真っ直ぐだ。

また、どこからどう見ても肥満体なのだが、その事実を断固として認めず、スーツの上着が小さくなった時はテイラーの寸法がいい加減なせい、もしくはクリーニング屋のせいにしたりするなど、良く言えば自信家、悪く言えば頑固な性格が強調されている。

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↑ポワロ自身は「完璧な身体」と言うが。。

そもそも論、なぜクリスティはポワロをベルギー人という設定にしたのか。疑問が浮かんだらキリがないが、ともかくクリスティが作品作りに相当苦労しただろうことは伺える。
事実、クリスティは一作目の時点でポワロを嫌いになったらしく(プライドが高く、ややこしい性格で、高慢で嫌味なキャラを書き続けていたらそりゃ嫌いにもなるだろう)、半ばウンザリしながら執筆活動を続けていたとクリスティの孫も証言している。

事実、ポワロは33の長編、54の短編、1つの戯曲に登場するなど、クリスティを代表する人気キャラとなっているが、長編ものはシリーズ後半になるにつれて評論家の評価もあまり芳しくないものになってきている(個人的には後期の作品が好きなのだが)。
それに後述する作品一覧を見ていただいてもわかる通り、後期になるにつれ新作を発表するのに早くて2年、遅い時には3年以上も経っているのがわかる。
この間、クリスティはミス・マープルシリーズなど他の人気作に意欲的に取り掛かっており、ここからクリスティがポワロに興味を失いかけていたということが読み取れる。

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↑『名探偵ポワロ』(1992)

ただ、彼の洞察力や推理力はホンモノである。
事実、私は原作やドラマを見ていて幾度となく、ポワロの推理力(というか、クリスティの想像力)に感嘆したものだ。

彼の推理の特徴として、物的証拠より事件関係者の「心理」に重点を置くところである。
シャーロック・ホームズなどはそれこそ「猟犬」のように地面を這いつくばり、物的証拠などを探し当てそこから推理を展開していくのだが、ポワロの場合、物的証拠を見逃しはしないが、彼はそういう捜査の仕方を好まない。

彼の捜査方法は、事件関係者一人一人との尋問や対話に重きを置き、その会話の内容から、容疑者の思考・行動を推察する。そういう心理的推理と物的証拠を組み合わせ、これまで数々の事件を解決してきた。
(事実、ポワロは事件関係者との対話を重ねるだけで事件を解決したことが幾度かあった。『死との約束』『五匹の子豚』『複数の時計』『象は忘れない』『カーテン』など)

そのため、側から見ると無関係な事柄を喋っているだけに見えるらしく、事件を共に担当した警部からは「ベルギーではどうやって事件を解決してきたんですか?」と疑わしげに聞かれていた。

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↑一見無関係に見えても、ポワロなりの思考があるのだ。


ポワロを取り巻く人々

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↑左から、ジャップ警部、ポワロ、ミス・レモン、ヘイスティングス

さらに、ポワロシリーズはポワロを取り巻く人々も、魅力の一つである。

まず、ワトソン役であるアーサー・ヘイスティングス大尉

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退役軍人で、ポワロがイギリスで一番最初にできた友達である(実際は、ベルギー警察時代にすでに出会っていた)。

性格はジェントルマンな英国紳士そのもので、正義感が強く、生真面目でお人好し。
ポワロはヘイスティングスのお人好しな性格を「あまりに人を信じやすい美しい性格」と表現している(『カーテン』(早川書房、2011年)330ページ)。
また、美人な女性に弱い一面もあり(ドラマではブロンドの美女に弱い傾向あり)、事件関係者にそれに該当する人物がいると、感情移入してしまい、豊かな想像力を働かせた結果、トンチンカンな迷推理を披露し、ポワロに呆れられている。

また、ドラマ版では幾度となく株に投資をしているが、商才に乏しいためか、失敗ばかりしている。後述の結婚によりアルゼンチンへ移住後、原作ではそのまま永住するのに対し、ドラマ版では鉄道会社に多額の投資をして失敗。結果として破産し、イギリスに戻ってきている(その後、またアルゼンチンへ戻った模様)。

長編2作目で、めでたく運命の人を見つけ結婚。南米はアルゼンチンへ移住し、そこで農場経営に勤しむことに。
なので、原作での出番は意外と少ない。アルゼンチン移住後も、一時帰国してはポワロと冒険を共にすることはあった。
だが、14作目『もの言えぬ証人』以降、出番はパタリと途絶え、最終作『カーテン』までその登場を待つこととなる。

ヘイスティングスの結婚&移住によって、心理的にも物理的にも二人の間には長い長い距離ができたわけだが、ポワロにとってヘイスティングスがかけがえのない友人であったことは事実だ。

イギリスでは、なんといってもわたしの最初の友人だ-そうだとも、そしていまでも最愛の友だ。

(『マギンティ夫人は死んだ』(早川書房、2019年)9ページ)

続いて、ロンドン警視庁のジャップ警部

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ベテラン刑事で、優秀な刑事として描かれている。
ポワロとはポワロがベルギー警察に所属していた頃から、幾度か仕事を共にしたことがあるらしい。

そのため、ポワロの捜査能力には一目置いており、捜査においてもポワロに積極的に協力する。
ドラマ版では、これに関して感動的なエピソードがあり、講演会ツアーを開催した際、他の私立探偵たちは『厄介な存在であり、社会に適応できずにいるしがない人生の落伍者であり、おせっかいなトラブルメーカーである』とこき下ろしたものの、ポワロに関しては例外的にこう絶賛している。

エルキュール・ポワロは、二十世紀の最も独創的な人物の一人です。
知的、勇敢、繊細、頭の回転の速さ。
エルキュール・ポワロは、あらゆる点で他のいかなる探偵よりも際立って優れた存在です。

(第2シリーズ第6話『二重の罪』)

また、意外にも植物や草花に関心がある一面があり、植物採集や研究等に没頭し、ヘイスティングスからは「おっそろしく長ったらしいラテン語名のついた草花について説明するときの張りきりようときたら、事件の捜査にたずさわっているとき以上だった」と形容されるほどである。
(短編『マーケット・ベイジングの怪事件』119ページ)

ドラマ版では、恐妻家の一面が描かれており、妻が職場に買い物を頼む電話をかけ、それを律儀にメモに取っている様子が描写されたり、家では妻が仕事の話を嫌うため、容易に殺人の話もできず、この調子でよく27年間もやってこれたものだとこぼす場面もあった。

性格は大雑把で、一度妻が実家に帰った際、必要最低限の家事を行わないため、シンクに大量の洗い物が積み重なっている状態だった。その後ポワロの好意でポワロの邸宅に泊めてもらったことがあったが、神経質なほど繊細なポワロと大雑把なジャップ警部の二人では価値観や食事などからして全く合わず、お互いに苦労している場面もあった。

また、たびたびポワロの捜査方法や推理作業に関しては「あんたはなんでも物事を複雑にしたがるんだ」とたびたび不満をこぼす場面もあるが、それでも信頼と実績のエルキュール・ポワロには深い信頼を寄せており、また良き友人として接している。ドラマでは『ビッグ・フォー』でポワロが自身の死を偽装したとき(仲間たちはその事実を知らなかった)、「旧友だから」とポワロの友人・知り合いに向けて葬儀の案内を全て直筆で書き上げた。

さらに、秘書のミス・レモン

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原作ではミス・レモンはこのように説明されている。

(中略)ポアロはミス・レモンを、一度も女性と考えたことがなかった。彼女は人間の形をした機械-精密無比な道具である。その能力たるや、恐るべきものがあった。年は四十八歳で、想像力はいかなる種類のそれもまったく持ち合わせないという幸福な女だったのだ。

(短編『スペイン櫃の秘密』108ページ)

また、このように説明されてもいた。

ミス・レモンは四十八歳。愛嬌たっぷりとはいいがたい、いかつい風貌の女性で、骨をひとからげにして無造作にくくったという感じがした。ポアロにひけを取らぬくらいの整理魔で、思考力は大したものだったが、命じられない限り、それを役立てなかった。
(中略)
彼女は完全な機械といってもいい人柄で、人事一般には徹底して関心がなかった。ミス・レモンの人生における情熱は、他のすべての分類整理法を無意味にするような完璧な書類分類法を案出することだった。そうした方法を夢に見ることさえあった。

(短編『あなたの庭はどんな庭?』82-83ページ)

簡単に言えば、人間味がなく、完璧なファイリングシステムの構築にしか興味がない、有能な秘書ということだ。

このようにポワロに負けるとも劣らぬ異常性を持ったミス・レモンだが、ドラマでは人間味のある女性として描かれている(完璧なファイリングシステムの構築にかける情熱は変わらず)。

家族構成は母と姉が確認されており、姉は『ヒッコリー・ロードの殺人』にて登場する。
また、占星術や催眠術など「非科学的」な物に興味を示しており、一度は催眠術でポワロの捜査を助けようとしていた(ちなみに、ミス・レモンを演じた女優ポーリーン・モランは、実際に占星術師としても活動している)。
猫好きな一面も描かれており、晩年はポワロの元を去り、愛猫と静かに余生を過ごしている様子が確認できる。

「ポワロさんが関わった以上、(未解決事件に)新しい光は十分期待出来ますわ」という言葉から、雇い主のポワロには全幅の信頼と尊敬を寄せていることが伺える。

アリアドニ・オリヴァ

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著名な女流推理作家で、ポワロの友人。

モデルは作者であるクリスティ本人と言われている。オリヴァ夫人の代表作は、フィンランド人探偵スヴェン・ハーセンシリーズであるが、フィンランド人、ベジタリアン等々の奇抜な設定を持て余し、執筆活動に苦労している様が伺える。この点がクリスティに似ている。先ほども述べたように、クリスティ自身もポワロシリーズの執筆に悪戦苦闘していた。

彼女がポワロシリーズに出てくるのは13作目『ひらいたトランプ』から、そこから24作目『マギンティ夫人は死んだ』、27作目『死者のあやまち』、30作目『第三の女』、31作目『ハロウィーン・パーティ』、32作目『象は忘れない』と計6作の長編に登場し、特に『第三の女』から3作連続で登場するなど、ほぼ準レギュラーのような扱いになっている。

夫人の外見はこう説明されている。

(中略)洋服の着こなしはちょっとだらしなかったが、澄んだ目とガッチリした体格を持つ愛想のいい中年の夫人で、なかなか美人でもあった。髪は白髪まじりだが豊富で、髪の形には、いつも工夫がこらされていた。ある時は、髪を後ろへひっつめにして額をすっかり出し、首のあたりまでまるめて-いわば理智的な髪型をしたかと思うと、次の日には、突然、ちょっと乱れた巻き毛を額の上にのせた聖母マリア型で現れるといった風なのだ。

(『ひらいたトランプ』(早川書房、2018年)22ページ)

また、オリヴァ夫人と切っても切れないものの中に、リンゴがある。
所構わずリンゴを齧り、食べては芯をそこらに放り投げる場面が登場する。

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オリヴァ夫人は、良くも悪くも、自我の強い女性だと思う。

(中略)それに熱心な女権論者で、大きな殺人事件が新聞の紙面を賑わす時には、きまって彼女の意見を問う記事が出た。ある時の彼女は“女性が警視総監でさえあったなら....”と嘆いたと報じられた。彼女は、女性の持つ直感を固く信じている。

フェミニストな側面はドラマでも描かれており、また彼女は自身の直感に絶対的な信頼を置いている。その直感を頼りに、事件に直面した際は推理をめぐらし彼女なりの犯人像を導き出している。
決して推理は合ってはいないのだが、それでも探偵作家らしく、時には鋭い指摘をしてポワロに事件解決のヒントを与えることがある。
ただ、彼女なりの独特な発想は時たまポワロを困惑させることもある。

そして、従僕のジョージ

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こちらもオリヴァ夫人と同じく、準レギュラー的存在で、原作では比較的早い段階から登場していたが、ドラマは第10シーズン4話『満潮に乗って』が初登場。

ちなみにポワロの邸宅はこのシリーズを境にインテリアがガラッと変わっており、ポワロはいつの間にかしれーっと引っ越しし、しれーっと従僕まで雇っていたようだ。

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↑シリーズ初期(第1〜7シリーズ)のインテリア。左奥にダイニング、ミス・レモンの部屋。

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↑シリーズ後期(第10〜13シリーズ)のインテリア。左奥にポワロの書斎。

典型的な英国人タイプである。背が高く、顔色は蒼く、感情を表に出さない。

(短編『負け犬』208ページ)

また、料理の腕もピカイチらしく、ポワロも腕前を絶賛するほど。
ポワロの片腕として、事件に関する調査も担当する。
理想の従僕だ。


とまあ、ここまで長々とポワロに関して書き連ねてきたが、このまま書き続けると永遠に終わらなさそうなので、ここで一旦筆を置く。

少しでも興味を持っていただけただろうか。
持っていただけたら、この文章も書きがいがあったというものだ。
原作もドラマも面白いこと間違いなしなので、日常生活のお供にいかがだろうか。

最後に、ポワロの登場作品一覧と、自身がおすすめする作品ベスト10を紹介して終わりにしようと思う。

では、また。


登場作品


長編

・『スタイルズ荘の怪事件(The Mysterious Affair at Styles)』(1920年)
・『ゴルフ場殺人事件(The Murder on the Links)』(1923年)
・『アクロイド殺し(The Murder of Roger Ackroyd)』(1926年)
・『ビッグ4(The Big Four)』(1927年)
・『青列車の秘密(The Mystery of the Blue Train)』(1928年)
・『邪悪の家(Peril at End House)』(1932年)
・『エッジウェア卿の死(Lord Edgware Dies)』(1933年)
・『オリエント急行の殺人(Murder on the Orient Express)』(1934年)
・『三幕の殺人(Three Act Tragedy)』(1935年)
・『雲をつかむ死(Death in the Clouds)』(1935年)
・『ABC殺人事件(The ABC Murders)』(1935年)
・『メソポタミアの殺人(Murder in Mesopotamia)』(1936年)
・『ひらいたトランプ(Cards on the Table)』(1936年)
・『もの言えぬ証人(Dumb Witness)』(1937年)
・『ナイルに死す(Death on the Nile)』(1937年)
・『死との約束(Appointment with Death)』(1938年)
・『ポアロのクリスマス(Hercule Poirot's Christmas)』(1938年)
・『杉の柩(Sad Cypress)』(1940年)
・『愛国殺人(One, Two, Buckle My Shoe)』(1940年)
・『白昼の悪魔(Evil Under the Sun)』(1941年)
・『五匹の子豚(Five Little Pigs)』(1943年)
・『ホロー荘の殺人(The Hollow)』(1946年)
・『満潮に乗って(Taken at the Flood)』(1948年)
・『マギンティ夫人は死んだ(Mrs. McGinty's Dead)』(1952年)
・『葬儀を終えて(After the Funeral)』(1953年)
・『ヒッコリー・ロードの殺人(Hickory Dickory Dock)』(1955年)
・『死者のあやまち(Dead Man's Folly)』(1956年)
・『鳩のなかの猫(Cat Among the Pigeons)』(1959年)
・『複数の時計(The Clocks)』(1963年)
・『第三の女(Third Girl)』(1966年)
・『ハロウィーン・パーティ(Hallowe'en Party)』(1969年)
・『象は忘れない(Elephants Can Remember)』(1972年)
・『カーテン(Curtain: Poirot's Last Case)』(1975年)

短編
・『戦勝記念舞踏会事件(The Affair at the Victory Ball)』
・『グランド・メトロポリタンの宝石盗難事件(The Jewel Robbery at the Grand Metropolitan)』
・『クラブのキング(The King of Clubs)』
・『ダベンハイム氏の失踪(The Disappearance of Mr. Davenheim)』
・『プリマス行き急行列車(The Plymouth Express)』
・『<西洋の星>盗難事件(The Adventure of 'The Western Star')』
・『マースドン荘の悲劇(The Tragedy at Marsdon Manor)』
・『首相誘拐事件(The Kidnapped Prime Minister)』
・『百万ドル債券盗難事件(The Million Dollar Bond Robbery)』
・『安アパート事件(The Adventure of the Cheap Flat)』
・『狩人荘の怪事件(The Mystery of Hunter's Lodge)』
・『チョコレートの箱(The Chocolate Box)』
・『エジプト墳墓の謎(The Adventure of the Egyptian Tomb)』
・『ヴェールをかけた女(The Veiled Lady)』
・『ジョニー・ウェイバリーの冒険(The Adventure of Johnnie Waverly)』
・『マーケット・ベイジングの怪事件(The Market Basing Mystery)』
・『イタリア貴族殺害事件(The Adventure of the Italian Nobleman)』
・『謎の遺言書(The Case of the Missing Will)』
・『潜水艦の設計図(The Submarine Plans)』
・『料理人の失踪(The Adventure of the Clapham Cook)』
・『消えた廃坑(The Lost Mine)』
・『コーンウォールの毒殺事件(The Cornish Mystery)』
・『二重の手がかり(The Double Clue)』
・『クリスマスの冒険(Christmas Adventure)』
・『呪われた相続人(The Lemesurier Inheritance)』
・『負け犬(The Under Dog)』
・『二重の罪(Double Sin)』
・『スズメバチの巣(Wasps' Nest)』
・『四階のフラット(The Third-Floor Flat)』
・『バグダッド大櫃の謎(The Mystery of the Baghdad Chest)』
・『二度目のゴング(The Second Gong)』
・『あなたの庭はどんな庭?(How Does Your Garden Grow?)』
・『船上の怪事件(Problem at Sea)』
・『砂に書かれた三角形(Triangle at Rhodes)』
・『厩舎街の殺人(Murder in the Mews)』
・『死人の鏡(Dead Man's Mirror)』
・『謎の盗難事件(The Incredible Theft)』
・『黄色いアイリス(Yellow Iris)』
・『夢(The Dream)』
・『ヘラクレスの冒険(The Labours of Hercules)』(短編集)
  ・『ことの起こり(Foreword)』
  ・『ネメアのライオン(The Nemean Lion)』
  ・『レルネーのヒドラ(The Lernaean Hydra)』
  ・『アルカディアの鹿(The Arcadian Deer)』
  ・『エルマントスのイノシシ(The Erymanthian Boar)』
  ・『アウゲイアス王の大牛舎(The Augean Stables)』
  ・『ステュムパロスの鳥(The Stymphalean Birds)』
  ・『クレタ島の雄牛(The Cretan Bull)』
  ・『ディオメーデスの馬(The Horses of Diomedes)』
  ・『ヒッポリュテの帯(The Girdle of Hippolyta)』
  ・『ゲリュオンの牛たち(The Flock of Geryon)』
  ・『へスペリスたちのリンゴ(The Apples of the Hesperides)』
  ・『ケルベロスの捕獲(The Capture of Cerberus)』
・『二十四羽の黒つぐみ(Four-and-Twenty Blackbirds)』
・『スペイン櫃の秘密(The Mystery of the Spanish Chest)』
・『クリスマス・プディングの冒険(The Adventure of the Christmas Pudding)』

戯曲
・『ブラック・コーヒー(Black Coffee)』

このうち、何作かの短編は、のちに他の作品に焼き直されたものがある。

・『プリマス行き急行列車』→『青列車の秘密』
・『マーケット・ベイジングの怪事件』→『厩舎街の殺人』
・『潜水艦の設計図』→『謎の盗難事件』
・『クリスマスの冒険』→『クリスマス・プディングの冒険』
・『バグダッド大櫃の謎』→『スペイン櫃の秘密』
・『二度目のゴング』→『死人の鏡』

よって、これらの作品は『プリマス行き急行列車』を除き、ドラマシリーズではそれぞれ焼き直されたものの方で映像化されている(『クリスマス・プディングの冒険』は、アメリカで出版された際の米題『盗まれたロイヤル・ルビー(The Theft of the Royal Ruby)』で映像化されている)。
また、『呪われた相続人』もドラマ化には向いていないと判断されたのか、こちらも映像化されていない。


個人的おすすめ作品ベスト10

1. 『五匹の子豚
  いわゆる「過去の事件」を解決するお話。
  事件発生から十数年が経ち、頼りになるのは、5人の事件関係者の証言
  と記憶のみ。
  その「五匹の子豚」たちの証言と回想を頼りに、ポワロが真犯人を導き
  出す様子は天晴れの一言。
  ファンの間でも屈指の名作と人気が高い。
2. 『葬儀を終えて
  富豪の死をきっかけに、葬儀に集まった一族の人々。
  遺言発表の場で故人の妹が放った一言「だって彼は殺されたんでし
  ょ?」
  その翌日、その妹が惨殺された。
  一族の犯行か?それとも部外者の犯行か?
  状況設定から我々が抱きがちなステレオタイプを、クリスティが見事に
  裏切った隠れた名作。
3. 『死者のあやまち
  田舎の名家が開催したお祭りの「殺人ゲーム」の催しで、死体役の少女
  が絞殺死体で発見される。
  殺人ゲームの構想を任されていたオリヴァ夫人は、「実際に人が死ぬ気
  がする」という直感から、ポワロに未然に防いでほしいとお願いしてい
  た。
  また、その名家の当主の夫人も行方不明になる。
  ドラマシリーズでは一番最後に撮影されたこの作品は、個人的に好きな
  作品の一つだ。
4. 『ABC殺人事件
  言わずと知れた、クリスティ作品の名作の一つ。
  ポワロの元に届いた怪文書通り、Aの街でAのイニシャルの人物が、Bの
  街でBのイニシャルの人物が、Cの街でCのイニシャルの人物がそれぞれ
  殺害される。
  異常性格者の犯行なのか?それとも?
  犯人の深層心理に迫った、トリックも鮮やかな名作。
5. 『ひらいたトランプ
  謎の人物シェイタナ氏からパーティに招待され、赴いたポワロ。
  招待客はポワロを含め、計8人。
  そのうちの4人は、シェイタナ氏曰く「摘発されていない殺人犯」たち
  だった。
  食後、二組に別れてトランプのブリッジゲームに興じていた最中、
  当のシェイタナ氏が刺殺体で発見された。
  外部からの人の出入りはなかったため、容疑者は「殺人犯」の4人のう
  ちの1人に絞られた。
  ポワロがブリッジの点数表から犯人を導き出していく、隠れた名作。
  ただ、ブリッジのルールに馴染みがない人にはややちんぷんかん。
  (かくいう私もそう)
6. 『複数の時計
  秘書紹介所に勤める女性が依頼人からの要請で家に赴くと、そこで見
  知らぬ男の刺殺体を発見。
  そして、現場には複数の時計が。
  だが、家の持ち主の老婆は秘書紹介所に電話をかけた覚えはなく、また
  複数の時計も自分のものではないという。
  一方、イギリス海軍のとある重要書類が盗まれた。
  秘密諜報部員のコリンは、この事件を追って亡くなった同僚の残したメ
  モを頼りに、書類が隠されているであろう家を探し当てている最中に、
  この事件に遭遇。
  父の旧友であるポワロに事件の捜査を依頼し、ポワロは自宅にいながら
  提供された情報だけで事件を解決してみせると宣言する。
  ポワロの「安楽椅子探偵ぶり」が光る、個人的に好きな作品。
7. 『ナイルに死す
  こちらも、クリスティ作品の名だたる代表作。
  エジプト・ナイル川を下るクルーズ船で、婚約を発表したばかりの大富   
  豪の若い女性が銃殺された。
  彼女の婚約者は、彼女の親友の婚約者だった男で、その親友はショック
  から被害者に付き纏っており、またピストルを持ち出して「これで彼女
  を撃ってしまいたい」と公言していた。
  クルーズ船に乗り合わせたポワロが、事件解決に挑む。
  こちらも、名作ならではの複雑なトリックが新鮮な驚きを誘う。
8. 『死との約束
  ポワロ作品に数回登場する「中近東もの」のうちの一つ。
  最近、野村萬斎主演でドラマ化されたことを覚えている方も少なくない
  のではないか。
  「いいかい、彼女を殺してしまわなきゃいけないんだよ」という男女の
  やりとりを偶然耳にしたポワロ。
  その男女は兄妹であり、彼らの母親は富豪でサディスティックで支配的
  な性格で、子供たちを囲っていた。
  その母親が、死んでいるのが発見された。
  自然死か、はたまた他殺か?
  ポワロは、事件関係者の尋問から、24時間以内に事件を解決できると言
  うが。。
  こちらも意外な犯人像に、驚きを覚えた記憶が。
  だが、関係者たちへの尋問を繰り返しながら、関係者の嘘を探り出し、
  そこから推理をしていくポワロの灰色の脳細胞が冴わたる一作となって
  いる。
9. 『雲をつかむ死
  フランス・パリからロンドンへ向かう飛行機の機内で、ハチが飛び回り
  はじめた。
  その後、乗客の1人の老婦人が死んでいるのが発見され、首筋にはハチ
  に刺されたような痕があった。
  だが、のちに毒矢筒が発見され、殺害されたことが明らかに。
  しかも、その筒は、あろうことかポワロの座席の近くで発見された。
  狭い機内で、誰が大胆にも殺害を実行したのか?
  疑いの目を向けられるポワロが、名誉回復のために行動する。
  ポワロの着眼点に唸らされる名作。
10. 『杉の柩
  ポワロシリーズ唯一の法廷もの。
  婚約者のロディーが別の女性・エミリーに心変わりしたことで、エリノ
  ア・カーライルは狂おしいほどの心理的苦痛を感じていた。
  その後、彼女が作ったサンドウィッチを食べたエミリーが死亡。
  体内からはモルヒネが検出された。
  動機面や状況面からしてあらゆる証拠がエリノアに不利な中、唯一彼女   
  の無罪を信じる彼女の亡きおばの主治医・ピーターは、ポワロに真相究
  明を依頼する。
  圧倒的に容疑者に不利な状況証拠を丹念に調べなおし、齟齬を見つけ、
  そこから真相にたどり着く様は、法廷ものという設定も相まって、
  心理的盛り上がりが楽しめる。

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