日本型雇用「三種の神器」は時代遅れ

2019年は「働き方改革関連法」の大企業への実施が行われ、言わば雇用改革元年となりました。

その効果のほどは後々評価されていくことになるでしょうが、2020年4月からは中小企業へも対象が広がるため、これまで以上に残業時間の管理や生産性の向上に向けて各企業が注力していかなければいけない時代がやってきます。

ここで、改めて日本型雇用の「三種の神器」について考えてみたいと思います。2020年代を、そして令和の時代を賢く生き抜くためにも旧態依然とした制度や慣習を見直すきっかけになれば幸いです。

日本型雇用の「三種の神器」とは

筆者が言う日本型雇用の「三種の神器」とは

●新卒一括採用

●終身雇用制度

●年功序列賃金体系

です。一般的な日本雇用の特徴は「終身雇用」「年功序列」に加えて「企業別組合」ですが、組合の話は今回は触れません。それ以上に新卒一括採用の方が個人的には疑問符なものでして。

新卒一括採用

もはや日本の大学生の風物詩ともなっている、「就活生」。皆さん真新しいリクルートスーツに身を包み真剣な表情で説明会に出席する。大学時代の経験を絞り出しながら一生懸命面接に取り組む。

何だか微笑ましい光景でもありますが、何とも違和感が満載です。

ご存知の通り、大学とは本来高等学校以上の専門的な教育を受ける場です。本来、学生の成果というのは「いい会社に入社すること」ではなく、どれだけいい論文が書けたかです。現在の日本は、大学が溢れかえってしまい、選ばなければ大学に入学することはそこまで難しいものではありません。

したがって、大学側も生き残る必要が出てきて「就職実績」や「大手への入社実績」という謎の指標を大学のウリにしています。大学の存在意義は就活の予備校ではないはずです。

そもそも、新卒一括採用をしているのは企業側の論理を優先させているからに過ぎません。みんなが一斉に入社するなら採用活動も楽ですし、その後の研修や配属についても楽だからです。

この企業側の論理と大学側の変な価値観が混ざり合ってできあがっているのが現在の新卒一括採用という風習です。

経団連の自主ルールも撤廃されて、今後の新卒一括採用の方向が益々混乱する様相が見受けられる中、わざわざこの制度を続ける意味は果たしてどこにあるんでしょうか?

みんなが一斉にスタートすることの意味もよくわかりません。大学生の早い段階で内定を貰っていてもいいでしょうし、卒業後色々とやってから会社員を目指してもいいじゃないですか。要は本人のやる気次第ですし、本当に優秀な人材ならば企業側が放っておかないだけです。

何か抗いがたい謎の大きな力が働いて一斉に就活を始めているように思えて仕方がありません。

年功序列の賃金体系

その大きな力の一つが「年功序列」です。

要は在籍期間に応じて基本給が上がっていき、一定の水準に達したら管理職になれるような仕組みです。

昔はどれだけ仕事ができなくても、ある程度在籍してれば課長職くらいまでにはなれた時代もありました。もちろん、今はかなり落ち着いてきていて年功序列制度が廃止されていたり、職能給などと組み合わせて運用しているところがほとんどです。

しかし、「在籍年数=仕事の経験を積んだことにする」という価値観そのものはなかなか廃れてはいません。

この価値観と新卒一括採用の親和性が非常に高いのが問題の一つでもあります。

新卒からずっと在籍していれば偉い!みたいな価値観は皆さんの会社にもないでしょうか?

裏を返せば、中途社員や派遣社員などに対して差別意識を有している職場です。

こういう場合、新卒で入社してずーっとやっていればそこそこの地位や賃金を手にすることができる訳です。一方で、転職組や派遣社員といった「外部の血」に拒否反応を示し、『ウチにはウチのやり方がある』とか『よそではそれで通用したかも知れないけど、ウチではダメだから』などと言って自分たちが正義だと思い込んでいるような従業員がチラホラ。

こういった純血主義的な価値観に収まってしまうのは何とももったいない話です。これだけ社会の環境変化が激しい世の中ですから、外部の血やよそのやり方というのは積極的に取り入れるくらいの姿勢が求められます。

新卒で入社してとにかく在籍してさえいれば何とでもなるような会社はこれからの社会では生き抜くことは難しいでしょう。とは言え、このような環境になるにも理由があります。

終身雇用制度

いわば日本型雇用においてはラスボスのような制度がこちら。

終身雇用というくらいですから、入社したら定年退職するまで(場合によってはそれ以降も)会社が面倒を見ますよという約束です。

新卒で入社させて、自社の環境にどっぷり浸からせて、最後まで働いてもらう。一見すれば非常にいいシステムのようにも思えます。

しかし、現状の日本で終身雇用制度が実態として残っている会社はごくごく少数です。トヨタですらこの制度を現実的なものではないと発言しているくらいですから、今後は絶滅危惧種的な存在になっていくでしょう。

しかし、制度がなくなったとは言え価値観はバッチリ残っています。それが「転職アレルギー」です。

先ほどの年功序列のところでも触れましたが、とかく日本は純血主義がはびこっています。というより、一社で新卒入社から定年退職まで勤め上げるのが美徳という価値観がまだまだ根強い。

転職しようものなら、両親から「そんなんじゃダメだ」と言われ、上司や先輩から「ウチで通用しないならよそでも通用しないよ」と言われたりします。まして独立・起業しようものなら「失敗するからやめとけ」などと余計なお世話を焼かれる始末です。

個人的には色んな経験を積んだ方が人材としての価値は上がると思っていますので、転職はどんどんすればいいと思っています。一つの企業で培われたやり方や価値観も大切ですが、それ以上に様々な価値観ややり方を知っている方が絶対に役に立ちます。

一方で、企業側も辞めてほしくないならば相応の努力をすべきです。キャリアパスを柔軟にしたり、部署内異動を積極的に行ったりして社内の流動性を持たせておく。従業員側も会社側もお互いに切磋琢磨していく方が確実にプラスになると思います。

大きな壁「解雇制度」

ここまで読んでくださったならご理解いただけるかと思いますが、筆者は雇用流動性は高い方がいいと思っています。

転職アレルギーも純血主義も雇用の流動性が高ければ起こり得ない問題だからです。転職することにアレルギーが発生しないのであれば、新卒一括採用の意味も薄れていきます。別に一括で入社させるメリットがなくなるからです。

しかしながら、日本の雇用流動性を高めるために大きな壁が存在しています。それが「解雇制度」です。

よくも悪くもという話になりますが、日本の解雇制度は非常に厳しくできています。これは労働者保護という観点から企業側が簡単に解雇できないようにしているという意味合いですが・・・

解雇できないために「年功序列」と「終身雇用」が蔓延することとなり、それを支えるために「新卒一括採用」が幅を利かせている原因になっています。

ところで、簡単に解雇できないということはいいことなんでしょうか?

例えば、問題社員がいたとしても企業側はなかなか解雇することができません。必要な指導・助言を行って教育をし直して・・・という努力を相当数重ねないと不当解雇として訴えられる可能性があるからです。

「御恩と奉公」ではありませんが、従業員に多少難があっても解雇せずに雇い続けて定年までは面倒をみるから会社に貢献してね!という環境が用意されていたため企業側も従業員側もある意味のんびりとできたというのは事実でしょう。

この厳しい「解雇制度」が終身雇用を下支えし、年功序列や新卒一括採用を肯定するための材料になっている側面は否めないと思います。

現在日本社会が晒されている国際競争において、ぬくぬくと定年まで働き続けられる環境が用意されているというのは果たして本当に幸せなことなのでしょうか?

雇用の流動化は必ず高まる

もはや若年層においては転職することに抵抗感は薄れてきています。雇用の流動化はひと昔前に比べればかなり高まってきていると言えるでしょう。

今後企業はかなり高い水準の雇用環境を用意できない限り、従業員から愛想をつかされていくようになります。

概念として「終身雇用」が残っているとしてもそれをありがたがる人が減っていくわけです。

勘違いして欲しくないのは、高い雇用環境を用意するということは、従業員に媚びへつらうということではありません。従業員が求める環境をただ提示するだけでは全くもって本末転倒です。

あくまで、企業が競争に勝てるような環境に基づいて定着率を向上させるための努力を続けていくというだけの話です。

今後競争が激化することは必至ですので、この競争に振り落とされないように従業員の質を上げていかなければいけません。そのための投資を積極的にできる企業が生き残る。

そうじゃなければ競争に敗れるか、従業員が辞めていくかという話です。

ここで問題になるのが、「解雇制度」の規制です。

従業員の質を向上させて競争に勝たなければならないとなると、当然それについていけなくなる人も出てきます。

これは能力の問題ではなく、適性の問題が大きいのですが現実的にはかなりの確率でついていけないという人が発生してきます。

その時に、その会社にしがみつかせるのは果たしていいことでしょうか?

個人的にはあまりいいとは思いません。転職すれば本人が輝ける環境があるかも知れませんから。

転職を繰り返してでも、自分に向いている環境や仕事に出会える方が長期的に見れば幸せです。一生を合っていない環境で過ごすよりもよほどいい。

少なくとも、20代くらいは色々とチャレンジしてもいいかと思います。その方が、様々な経験を経ることができますから。

そうなると、新卒入社~定年退職までというこれまでの価値観は消え去っていくでしょう。

新卒で入社させて徐々に鍛えていきながら成長を待つよりも、転職で様々な経験を積んだ社員を雇う方が企業にとってもメリットはあるのではないでしょうか?

(まずあり得ませんが)もしも「解雇制度」が抜本的に改革された暁には、雇用流動化は一気に高まるでしょう。これは何も悪いことではなく、様々なキャリアを積みながら自分が一番輝ける環境を探すことができるということです。

日本型雇用の「三種の神器」が徐々に時代遅れになっている今。もしかしたら一気に雇用環境が変わる可能性があります。そうなった時に慌てるよりも、今から少しずつでも可能性について考慮しておく方がスマートというものです。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?