秋夜

 茜色の秋夜の下で、用水路に手を浸し、濡れた両腕を広げ、細い蒼白を銀翼へと変えて。山のそばの旧道を、駆けては駆けていきました。

 走りながら、ちらと足元に目をやれば、制服の真っ赤なリボンが、胸元でたなびいていて。スカートも、荒々しく波打っています。道に沿って並んでいる杉が生んだ影は濃く、仰向けば、暴れる前髪の縁が透明にまたたき、夕空の赤い心音は、群青の息遣いに呑まれて、溶けて。

 視線を前へと戻し、大股で、跳んでは飛んで、緩やかな上り坂を滑っていき、夕風と夜風の子を、二つの腕で連れてって。ローファーの底で空気を踏んで、どこまでもどこまでも、この細くて脆い翼で、上昇していくんです。

 そうしてたどり着いたのは、高いところ。山にある農村公園。フェンスにぶつかって、指を絡ませて。そこから町を見下ろせば、無数のガーネットが、深く深く、燃えていて。うんと向こうを流れている広い河が、昼の嘔吐物をすすっています。瓦はとろ火をまとい、刈られる直前の稲を蒸して、ふやかして。

 剥げた黄緑をきつく握り締め、激しく激しく揺すりながら、まぶたを閉じて。おでこを強く、押しつけました。汗をぼたぼた、落としながら。
                               (了)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?