電球を割ったら

 二度とつくことのない電球を片手に、あの濁り切った白い光を思い出して。一人、おののいています。用水路の金波に、青い足を浸しながら。

 足首に絡まる冷たさには底がなく、足裏で感じるざらつきと甘いぬめりが、切れた電球の艶を、濃くしていって。つるりという音が切っていきます。あぜ道のカエルの死骸を、バッタの足を、蛾の羽を。ぼうっと暗色を吐く電球は、玉にもなれず、珠にもなれず。そうして、それを撫でているこの指は、色の悪いままで。見つめれば、血管を、あぶくの通る音がして。

 腰を曲げ、用水路の縁で電球を叩き割り、そうして左の手の甲を、スッと裂いたらこぼれます。淡い光がとろとろと。流れに噛まれて破片は沈み、銀波になることもできず、ましてや金に染まることも敵わずに。痛みは酸化して散り散りとなり、なみだが一条、こぼれました。

 握っていた銀の渦巻きから指を剥がせば、はねる音。しゃがんで水を漁り、細かくなった白濁の残骸を拾い上げれば、手にできたのは、生きてるという、淡い四文字。

                               (了)

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