アスファルトと三日月と

 濡れたアスファルトを足でかじりながら、夜空を仰げば煙る三日月。

 誰もいない川沿いの遊歩道に響くのは、欲と願いの影法師が落としていく、足音だけで。

 左手で鎖骨を押さえ、荒い真白を撫でたって、溶けない溶けない。胸元の冷たさは。

 淡い星影と月影で瞬く足元の黒は、どうにもならない望みと、それらが羽織った虚しさのように、浅く息をして。

 凍り損なったしずくの子のように、凍てつくことを許されなかった靴底の濡れのように、濁っていく。肌の震えが。

 軋むことと軋まないことのあいだをそぞろ歩き、かすんだ黄色の薄さに嗚咽して。川沿いの自然林みたく立っていることのできない足の、折れる幻聴を聴いた。

 夜を虫食いにする雲はたなびき、ますます引きちぎられ、うつむけば、夜の小虫の鳴き声がわなないて。

 背中を丸めてさまようことを強いられ、口にできるのは地面の暗色だけで、いくら目玉を放っても、三日月には届かずに。

 そういう生が、ただ眼前に。

                               (了)

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