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転職面談で「降りれない人」と言われた話



「なんかね、あなたは、"降りれない人"っていうふうに見える」


転職活動の面談で、初めて会った人にそう言われた。


それは先週、とあるメディアサービスの会社からWantedlyで連絡をもらい、カジュアル面談に行ってきたときのことだった。


人事の方はコルクで一時社会人インターンをしていたとのことで、コルクラボのことなんかも話しつつ、自分の志向性、会社のこと、文学のことなど色々話した。優秀な人事の人と話すと居心地の良さと悪さが同時発生する。こちらの言葉をきちんと受け止めてくれている安心感と、揺り動かされるような緊張感。

面談の終盤、その会社の「本質的な社会課題を解決する」という理念にマッチしているかに関して、次のようなことを聞かれた。


「一つあなたについて気になっているのは、人々の課題…ユーザー調査とかそんな表面的なことじゃなくて、人々の切実な悩みを解決していくってことに、本当に興味を持っているのか


「あなたは、"降りれない人"っていうふうに見える。ピカピカのコンサルとかで働いているイメージはすごくわくんですよ。でも、実際に自分とは全然違う人たちのもとに降りていって、その人たちのために仕事をする、ということに本当に興味を持てるのかな」


それは仕事に対してだけではなく、世界との関わり方に対する問いだった。あなたは自分とちがう文化レベルで生きている人々の、生々しいどうしようもなさに寄り添うことができるのか? 整備された安全地帯から頭良さげなことを言うだけじゃなくて、その人とともに苦しみ、その人のために泥だらけになれるのか?


降りられますとは答えられなかった。




まずそもそも私は他人に対する共感性が低く、人と深くかかわることが苦手な、愛着回避型というやつだ。

この「愛着回避」という自己認知を手に入れたのは、去年参加したコルクラボ合宿がきっかけだった。

※ちなみにそのときに書いたnoteがこれ。


初対面の人とコミュニケーションをとることは苦手ではない。でもそういう普通に仲良く話す関係から一歩踏み込むのがなかなか大変で、人に急に近づかれるとスッと距離をとってしまう。

(ちなみにストレングスファインダーでも、「共感性」「調和性」「包含」とか、やさしそうなやつ軒並み低い)

人に興味があるか、と言われたら、ある。でも私は人間を、自分の知的好奇心を満たす対象物として捉えているきらいがある。ってちょっととんでもねえ言い方だけど。映画を見たり音楽を聴いたり、コンテンツを味わう、それと同じ感覚で「この人面白い! もっと話したい!」って思っちゃってるのかもしれない。


旅をしているときもそうだった。私は世界の色んな文化や宗教について知りたくて、見たことない景色を見て、嗅いだことのないにおいを嗅ぎたくて国々をまわっていた。
でもその好奇心が結局は、安全地帯から異文化を観察しているだけだとうすうす気づいていた。

道端でいきなり現地の人と仲良くなっても、ローカルな屋台で怪しい食べ物を食べても、インド人と汗がまじりあうくらいぎゅうぎゅうになっても、私は「降りて」なかった。自分で作ったちいさな足場から世界を眺めているだけだった。いや、その経験が自分にとってかけがえのないものだったことは確かなんだけれど、それはまるで、サファリパークの柵のついたバスから外を眺めてはしゃいでいるようなものだったのかもしれない。


社会全体に対してもそうで、今起こっているたくさんの社会問題に関して、私は憤慨する。やるせなく苦しくなる。でもそれが、虐げられている誰かに寄り添えているからなのか、たんに自分の思想に抵触しているからなのかは、わからない。自信がない。



私はこのちっぽけな足場を降りることができるだろうか。

これは仕事においても対人関係においても、理不尽な社会問題に対してどう向き合っていくかということにおいても、私がこれから乗り越えていくべき問題なのだと思う。

でもやっぱり、近くにいる人たちはもちろん、そうではない人たちにも寄り添えるようになりたい。ぬかるみに足を突っ込んで、誰かの役に立ったりしたい。クリーンな足場にのっかって、外の世界を眺めて好奇心を満たし、何かをわかった気になって生きていたくない。降りないと何も感じられないし、何も作れない。何も変えられない。



みたいなことを話すと、その人は

「そのために今日からできることってありますかね」

と聞いてきた。私は少し考えて、

「母に電話してみようと思います」

と答えた。

電話して、母の愚痴や下らない世間話をちゃんと聞こうと思った。母は、クリーンな世界を保つために遠ざけてきたものの象徴だったから。



そんな感じで(どんな感じや)面談は終わった。帰り道、阿佐ヶ谷駅の改札を出たところで母に電話した。今度二月に一回実家に帰ること、この前もらったルピシアのお茶がおいしかったことを伝えた。母からは、三日前にテレビで中央線特集がやっててあんたの家の近くが映ってたよと言われた。それ以上話すことがなくて電話は2分ほどで終わった。


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