【開催報告】第2回アジャイルガバナンスラボ「アジャイルな事業モデルの必要性」
「アジャイルな事業モデルの必要性」と題した第2回は、都庁のデジタル改革と、Airbnb社の民泊事業の日本展開という2つの事例から、アジャイルに事業を展開するためのドライバーついて学びを深めました。
アジャイルガバナンスラボの目的や概要については、こちらを参照ください。
開催報告
登壇者(敬称略)
行政改革のベストプラクティスへ、「シン・トセイ」
巻嶋氏からは「シン・トセイのアジャイル・ガバナンス」というテーマで、都庁のデジタル行政改革についてお話しいただきました。シン・トセイでは、スピード、オープン、デザイン思考、アジャイル、見える化の5つのキーワードをもとに、7つのコアプロジェクトと各局リーディングプロジェクトを発足させ、都政サービスの向上を図っています。5つのキーワードのなかに「アジャイル(確認と改善のプロセスを絶えず繰り返すこと)」があるように、シン・トセイは、今回のテーマである「アジャイルな事業」を行政が行っている先進事例の1つです。
オープン×デジタルを目指すシン・トセイ
都政の構造改革であるシン・トセイでは、2025年度を目処にした「デジタルガバメント・都庁」の基盤構築を目指し、さまざまなプロジェクトを実施しています。まずその基本となるユーザーとの双方向コミュニケーションについては、都民だけではなく都庁の職員も同じ1ユーザーであるという視点を掲げていることが巻嶋氏からシェアされました。
具体的には、都民向けのSNSのほか、ポータルサイトの作成やシン・トセイについてわかりやすくまとめたnoteでの情報発信など、積極的な情報提供を通した理解や対話の促進を行っています。また職員に対しては「デジタル提案箱」を設置し、行政改革に必要な現場の声や提案の声を集める工夫を実施しています。
「まず実践」への解きほぐしと、「あるべき論」との戦い
シン・トセイでは、数々のプロジェクトを迅速に立ち上げて運営しています。その秘訣は「ユーザーとの対話の徹底、数値化、逆転の発想、実践農中から構造的な課題に切り込む、改革のスピードアップ」という、シン・トセイ2(2022年2月に出した計画)を作成するにあたって重視した5つのスタンスにあります。取り組みをまず実践し、得られた気づきを共有・反映させながら実行していくプロジェクト形態は、まさにアジャイルガバナンス・ループの実践です。
行政改革のさらなる加速化がが打ち出され、勢いのある東京都ですが、そこにはやはりさまざまな課題や悩みがあるようです。例えば、シン・トセイ戦略でとっている「まず実践、実践によって課題を特定し、解決するべく制度や仕組みを変革する」というアプローチの中で、「まず実践」を解きほぐし、より多くの周囲を巻き込んでいくことが今後の課題だと巻嶋氏は言います。さらに、プロジェクトの目標やプロセスなどについて「東京都としてはこうあるべき」というところからスタートする考え方に対し、「まず実践」との意識の差を縮めていく「あるべき論との戦い」についてもお話がありました。
シン・トセイ3に向けて
2021年2月に始まったシン・トセイ戦略は、これまでペーパーレス70%削減や紙のFAX98%削減など、アウトプットをKPIにしてきましたが、シン・トセイ3(仮称)に向けて今後はより実質的な変化を示すアウトカムに近づけていきたいということでした。。また巻嶋氏は、デジタルガバメントが何をしたいのかについての解像度を高め、都庁の枠を超えたサービスをデザインしたいという思いを共有して締めくくりました。
企業組織におけるアジャイルな事業モデル
渡部氏からは「アジャイルな事業モデルの必要性― For the best informed decision」というテーマで、民間企業においてアジャイルな事業モデルを目指す必要性や、アジャイルは利益につながるのか、について、Airbnb社での個人の体験をもとにお話をいただきました。
Aribnb とUber の事例から
アジャイルな事業モデルを考える上で学びの多い事例として、Uber社とAirbnb社が事例として取り上げられました。
Uber社とAirbnb社のアプローチの違い(なお、どちらが正しいか否かではなく、トレードオフとしての選択の違いにすぎません)として、現地の法律や市場環境に対して柔軟かつ迅速に対応できる体制を現地に上手に構築できたかが日本市場を考える上で重要であったかもしれないと振り返ります。両社とも市場参入を試みた時期はほぼ同じでしたが、Airbnb社が日本人弁護士を採用したのは2015年の早い時期でした。
現地の市場における競合の点でも違いがあったかもしれません。例えば、「日本はタクシーの初乗り運賃が高い」という独自の調査に商機と公共政策的訴求を見出した当時のUber社でしたが、実際は既にタクシー初乗り運賃の値下げや、配車アプリ、相乗り制度の導入など、国内事業者が国と協議しながら(良い意味での)模倣、導入、実践を行い、論拠を1つ1つ打ち消すという戦略を採用していたように感じられます。このようにかわりゆく外部環境にどのように適応していくかは、リアルタイムで必要な企業としての成長条件といえるでしょう。
Informed Decision と「ルールは変えられる」という信念
企業組織にとってアジャイルな事業モデルは、組織の迅速かつ十分な情報に基づく賢い意思決定(Informed Decision)のために必要です(渡部氏)。特にアジャイルガバナンスの二重ループを企業組織に適用した際に、ゴール設定、評価、運用のいずれにおいてもInforned Decisionが必要になります。
さらに、Informed Decisionには「ルールは変えて育てる(Help the law to grow)」という共通の認識があり、リスクを立体的に捉えるために、法律の専門家などに徹底的に情報提供を求めるそうです。
Informed Decisionを繰り返し、アジャイルに行うことで、環境変化にフィットしたクリエイティブな企業が生まれます。官僚的で古い体質の組織にいる場合でも、アジャイルな意思決定を重ねることで、少しずつ柔軟性のあるビジネスモデルを築いていくことができると渡部氏は強調しました。
おわりに
行政と民間のアジャイルガバナンスの実践事例を議論するなかで「外部環境(ステークホルダー)との相互関係」について気づきがありました。アジャイルな事業モデルは、一行政や一企業といった単体組織だけで実現するものではありません。東京都の巻嶋氏の例でいうと都民、職員、地域企業などとの相互関係のなかで実践されており、渡部氏の場合は法律やルールという外部環境と向き合って実践されています。アジャイルな事業モデルを実現していくためには、外部環境との接続が重要になってくるようです。
もちろん、内部環境も重要です。「まず実践しよう」という共通認識の構築、「ルールは変えられる」という共通認識の構築が重要だという示唆があったように、こうした内部環境の整備もアジャイルな事業モデルを構築する上では大切になってくることがわかりました。
VUCAと呼ばれる現代において、変化する外部環境とうまく相互接続しながら、内部環境に働きかけていくという両輪が、アジャイルな事業モデルを構築していくための1つの最適解なのかもしれません。
今回の具体事例の学びを踏まえ、第3回目は「CPS(サイバー・フィジカル・システムズ)とアジャイルガバナンス」をテーマに開催します。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?