見出し画像

【開催報告】第1回アジャイルガバナンスラボ「今後必須となるCapabilityとしてのAgile Governance」

昨年実施したデジタルガバナンスラボの第二期「アジャイルガバナンスラボ」がついに始まりました!「デジタルガバナンス」から「アジャイルガバナンス」に焦点を移し、技術革新や社会変革など変化の激しい時代において、イノベーションの価値を最大化させるにふさわしいガバナンスのあり方を産官学民の知恵を持ち寄りながら模索していきます。今後はおよそ月に1度のペースで、異なる切り口のテーマについて計9回のセッションを行っていく予定です。各回のエッセンスを随時noteにて更新してまいりますので、ぜひ継続的におつきあいいただければと思います。

「今後必須となるCapabilityとしてのAgile Governance」と題した第1回目は、なぜこの時代にアジャイルガバナンスが不可欠なのか、アジャイルガバナンスを実装する上でたてるべき問いは何かなど、今後のラボの大きな方向性についての示唆を、アジャイルガバナンスラボ企画チームにも名を連ねてくださっている3名の有識者からいただきました。

開催報告

アジャイルガバナンスラボ
第1回 「今後必須となるCapabilityとしてのAgile Governance」
2022年7月20日@オンライン

登壇者(敬称略)

白坂成功(慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授)
南雲岳彦(一般社団法人スマートシティ・インスティテュート専務理事)
西山圭太(東京大学未来ビジョン研究センター客員教授)

<モデレーター>
隅屋輝佳(世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター)

ルールベースから脱却した環境適応の構造

西山氏には、アジャイルガバナンスモデルを踏まえたプロセス・関係性からのアプローチについてお話しをいただきました。

アジャイルガバナンスモデルを考える上で重要な視点は、主体としてのマルチステークホルダー手順としてのアジャイル構造としてのマルチレイヤーであり、この3つの視点は互いに関係し合っています。主体間の境界が明快だったこれまでと異なり、現在では個人レベルでも複数の組織に属するようになったり、また組織の垣根を超えて連携するプロジェクトが増えていくなど、主体間の垣根はすでに曖昧です。西山氏は、このような複雑な環境においては組織ごとにルールがあってもうまくいかないと警笛を鳴らし、ルールありきではなく、プロセスから考える、つまり、アジャイルなガバナンスが必要になってくると強調しました。

アジャイルなガバナンスが求められている顕著な事例がAIです。例えば、AIのディープラーニング技術は環境に適応して学習していきます。つまり、今までのように全体の枠組みを規定するのではなく、“部分”がまず存在し、その部分を環境に対応して変化させることを前提とするシステムの実装がすでに始まっているのです。全体像が規定できないなか、求められるガバナンスもプロセスに着目して行う必要があることを西山氏より改めて指摘いただきました。

西山氏プレゼン資料より

”手段”を超えたデジタルが生み出す循環

白坂氏からは「デジタル時代の社会・産業構造」というテーマで、「”手段”の枠組みを超えたデジタル」をキーワードにお話しいただきました。

まず、デジタルは単なるツールではなく、デジタルがあることで実現可能になる目的の設定という視点が提示されました。今まで目指せなかった目的を(デジタルを活用して)目指せるようになることをTransformation(変容)と言います。そしてこの新たな目的を新たな手段の活用によって実現する仕組みが、アーキテクチャです。

白坂氏プレゼン資料より

サイバーとフィジカルを融合させたシステム設計が進展している”Society5.0”においては、人間を介在させずに、サイバー空間とフィジカル空間を繋げることが可能になります。例えば、自動運転車の搭載システムと病院の予約システムが繋がることにより、渋滞で到着が遅れるときには自動的に予約時間が変更されるといった事例が考えられます。このように、Society5.0では本来は異なる目的のために異なる主体が作ったシステムが動的に繋がるということが起きてきており、これをSystem of systems(SoS)と呼んでいます。

白坂氏プレゼン資料より

SoSは当初の設計時にはどう繋がるか予想できない動的なものであり、AIはパターン認識で学ばせるためやってみないとわからないという確率的な性質を持ちます。つまり、SoSには全てのことをあらかじめ予測することは不可能であることが大前提なのです。だからこそ、運用を通じてガバナンスをアップデートし続けるというアジャイルガバナンスが必要になってくると白坂氏は指摘します。

SoSの持つ動的な性質を踏まえ、異なるシステム間を繋げるためには、業界や官民の垣根を超えたマルチステークホルダーの巻き込みが必要となります。白坂氏には、横串的な繋がりを持つレイヤー構造を設計し、新たな競争領域や協調領域を構築していく必要性を提示していただきました。

”スマートシティの目的”という難しさ

南雲氏からは「スマートシティ実務から考えるガバナンスの課題」というテーマで、スマートシティ視点からのガバナンスにまつわる課題についてお話しいただきました。

日本のスマートシティ実践における課題の1つに「目的の明確化」があります。西山氏や白坂氏が述べたように、新しい社会の「目的」はシステムや主体の連動により変化しうるものです。スマートシティでは「経済・社会・政治・生態系」という行動原理の異なる4つのシステムが複雑に絡み合っているために、一層難しさが増していると南雲氏は指摘します。互いの目的が相克する可能性を持つなかでこれをどう調整をしていくのかが、スマートシティの実践においては大きな課題となっているのです。

南雲氏プレゼン資料より

また南雲氏は、政府・コミュニティ・民間という主体が関わるスマートシティにおいて、産官学民に共通部分のアーキテクティングや運営能力が存在していないことも課題であると指摘しました。それぞれの主体が一つの町を超え、政府や産業といった大きな母体とも接続している一方で、全体との連動までを視野に捉えたメタガバナンスという壁が自走自立型のスマートシティの前に立ちはだかっていると南雲氏は言います。

多主体、多システムが複雑かつ自由に接続しうるスマートシティにおいて、フィジカル空間・サイバー空間・自然環境がどう変化していくかにより、皆が求める幸せ、つまりスマートシティ実現の目的が変わっていきます。マルチステークホルダー間の共通言語をマップ化し、議論を可視化していく努力の必要性を南雲氏からは強調いただきました。

おわりに

アジャイルガバナンスが現代の社会で必要とされている背景や理由について、それぞれ講師の専門的な目線からお話をいただきました。この数年、変化することを前提としたガバナンスのあり方やマルチステークホルダーでの運営は模索が続いていますが、今後はAIをはじめとしたデジタル領域に限らず、社会の幅広い領域や分野でアジャイルガバナンスが必要になってくると考えられます。今回の「今後必須となるCapabilityとしてのAgile Governance」として提示された考え方や視座を踏まえ、残り8回のアジャイルガバナンスラボでも引き続き学びを深めていきます。

Authors:世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター 隅屋輝佳、土居野渓心、甲谷勇平
Contributor:世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター ティルグナー順子(広報)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?