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年次総会(通称ダボス会議)2022 - 社会のためのAI

2022年5月、世界経済フォーラムの年次総会が開催されました。約2年半ぶりとなるスイス・ダボスでの開催です。公開配信されたセッションのうち、データ・AIエコシステム関連のものをいくつかご紹介します。

今回は、現地時間で5月25日午後に行われたセッションResponsible AI for Societal Gains(社会的利益のための責任あるAI)です。


官民データ連携に関するセッションはこちら↓

デジタル経済に関するセッションはこちら↓


登壇者

下記のスピーカーの皆さんにご登壇いただきました(敬称略)。

Kriss Deiglmeier - Chief Social Impact Officer, Splunk Inc.
Omar Sultan Al Olama - Minister of State for Artificial Intelligence, Digital Economy and Remote Work Applications, Office of the Prime Minister of the United Arab Emirates
Stuart Russell - Professor of Computer Science, University of California, Berkeley
Vilas Dhar - President and Trustee,The Patrick J. McGovern Foundation
Joanna Shields - Chief Executive Officer, BenevolentAI


官民連携で進む、責任あるAIの開発・利用

セッション冒頭で、モデレーターの Deiglmeier 氏から「AIの危険性に対処するために、何が必要か?」という問題提起がありました。
同氏がCSIOを務める Splunk 社は、データを分析してインサイトにするソフトウェアを提供しています。

Kriss Deiglmeier - Chief Social Impact Officer, Splunk Inc.


Shields 氏は、Facebook (現・Meta)で役員を務め、また、英国においてインターネットの安全性について政務を行っていた経験を振り返り、これまでもテクノロジーと安全性は注目されてきたとコメントしました。

その上で、AIに関する倫理指針を打ち出し、専門家や政府も巻き込み、対応する組織を立ち上げるべきであるとし、自身が共同議長を務める Global Partnership on AI (GPAI)などの取組みを例に挙げました。
なお、GPAIは、「人間中心」の考えに基づく責任あるAIの開発と利用に取り組む国際的イニシアティブで、G7を中心とする15カ国・地域が設立者となって2020年6月に創設されており、日本も参加しています。

同氏がCEOを務める BenevolentAI 社AIによる創薬で有名ですが、そうした事業内容に触れつつ、人間である科学者たちにヒントを与えるAI・機械学習のツールを設計していること、AI倫理に則ったビジネスをしていることを強調しました。

Joanna Shields - Chief Executive Officer, BenevolentAI


AIやデータサイエンスの発展に向けた寄付や助成などの活動を行う Patrick J. McGovern 財団の Dhar 氏は、AIが社会に大きな影響を与えることは明らかなものの、人道支援や環境問題など、社会的問題と向き合う最前線の人々がAIの恩恵を十分に得られていないと指摘します。

そこで同財団は、新たに7500万ドルを非営利団体に助成することを決定したと述べました。こうした投資により、公益のためのAI活用を推進でき、社会課題の解決につながると述べました。

Vilas Dhar - President and Trustee,The Patrick J. McGovern Foundation


リーダーに求められるAIリテラシー

こうした動向を踏まえて、政府はAI活用をどのように進めるべきでしょうか。アラブ首長国連邦(UAE)のAI担当大臣を務める Olama 氏は、インフラストラクチャー関連事業や新型コロナワクチン普及などでAIを活用したことを紹介しました。

また、政策決定者のAIリテラシーの向上は必須だと主張。同国の政府担当者などをオックスフォード大学の短期コースに留学させ、AIの技術と倫理についてスキルアップを図った結果、よりよい意思決定ができるようになったと語りました。

Olama 氏は、政府が科学技術を率先して活用する重要性についても指摘し、変化を後追いする受動的な行政サービスを、状況を率先して変えてゆくような行政サービスに変革すべきと述べました。

Omar Sultan Al Olama - Minister of State for Artificial Intelligence, Digital Economy and Remote Work Applications, Office of the Prime Minister of the United Arab Emirates


こうした指摘を踏まえ、コンピューターサイエンスの研究者である Russell 氏は、AI教育に大規模投資が必要であり、多様なセクターの協力が必要だと述べました。

また、機械学習は近年著しい進展を遂げているものの、「知能不足」問題があるとも指摘しました。例えば、ウェブ広告において、掃除機を購入したら2台目は不要ですが、ワインの広告は何度表示されても問題ありません。しかし、現在実装されているAIは、両者の区別がつかず、掃除機の広告を出し続けていると説明しました。

加えて、近年研究が進められている「確率論的プログラム言語」(probabilistic programming language)を取り上げ、この技術が教育やヘルスケアといった重要な分野にAIを活用するうえで大きく影響するだろうという展望を Russell 氏は示しました。その上で、AI を進歩させる技術開発には大きな投資が必要となると述べ、資金を分散させるのではなく、集合的な投資が必要だと主張しました。

Stuart Russell - Professor of Computer Science, University of California, Berkeley


AIへの投資を促進する多国間連携

社会課題の解決に貢献する責任あるAIの開発には投資が必要です。より多くの資源・資金が集めるために何が必要かを問われた Dhar 氏は「参加」と答えました。
誰もに影響を与えうるAIですが、テクノロジーの未来に関する意思決定に携わる人数は少ないと指摘し、より多くの人が意思決定に参加できるようにするべきだと主張しました。

Russell氏の「ウェブ広告」の話題に関連して、Olama 氏は「AIを社会的利益のために重要な課題解決に活用するための経済的インセンティブがないことが問題だ」と指摘しました。だからこそ、いわば「どうでもよい」分野であるウェブ広告など、直接経済的利益につながるものにばかりAIが活用されている現状があると言います。

Olama 氏は、インセンティブを作るには、多国間の連携組織が必要だともコメントしました。例えば、歴史を振り返れば、気候変動という社会課題に世界が連携し、多くの国が投資をすることができたのは、インセンティブに関して政府間連携があったからです。AIに対しても同様に、政府間で連携をとり、インセンティブの合意をするべきだと Olama 氏はまとめました。

Kriss Deiglmeier and Omar Sultan Al Olama


人道的危機と社会課題に向き合うAI

セッションは質疑応答に移りました。
最初の質問は、 「ウクライナ侵攻のような非常事態に陥った時、AI倫理は危機に陥ると思うが(例:顔認証で敵を攻撃するなど)、テクノロジー・AIの秩序をどのようにして守っていくべきか?」です。

 Dhar 氏は、非常に重要な問題であるし、過ぎ去ってから後悔しては遅く、いま正しい判断をしていかなければならないとの姿勢を示しました。
その一つの良い例として、米国では、痛みを伴いながらもIT企業と規制当局が交流していることを挙げました。政府関係者がAIについての理解を深める必要があるとしています。

Shields 氏は、AIの秩序を守る一つの側面として、自分の意思によって、「機械に自己をコントロールされない権利」を選択できることが今後さらに重要になってくるだろうと述べました。

Questions from the participants


次の質問は、「複雑な課題を解決するためにAIを活用した事例を教えてください」です。

Shields 氏からは、インターネット関連の犯罪に子供たちが巻き込まれないように、子供の行動パターンをAIにより分析し、予防する事例が紹介されました。
Olama 氏は、野生動物の保護に活用されるAIを挙げ、人間の常識では予測できない動物の行動分析にAIを導入していると述べました。

AM22 session "Responsible AI for Societal Gains"


責任あるAI開発への投資を促進する、DPCI

ダボスにおける年次総会での議論も踏まえ、DCPIチームは、白書の執筆やグローバル・ワークショップの開催などを進めていく予定です。
ご関心のある方がいらっしゃいましたら、ぜひご連絡いただければ幸いです。


執筆:佐山優里(世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター インターン)
企画・構成:世界経済フォーラム第四次産業革命センター(サンフランシスコ) 中西友昭(フェロー)、堀悟(フェロー)、同日本センター 工藤郁子(プロジェクト戦略責任者)

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