年次総会(通称ダボス会議)2022 - デジタル経済
2022年5月、世界経済フォーラムの年次総会が開催されました。約2年半ぶりとなるスイス・ダボスでの開催です。公開配信されたセッションのうち、データ・AIエコシステム関連のものをいくつかご紹介します。
今回は、現地時間で5月24日午前に行われたセッション「Strategic Outlook on the Digital Economy(デジタル経済に関する戦略的展望)」です。
官民データ連携に関するセッションはこちら↓
年次総会(通称ダボス会議)2022の全体概要はこちらから↓
登壇者
下記のスピーカーの皆さんにご登壇いただきました(敬称略)。
パンデミックで変わる、働き方
デジタル経済の展望に関する最初のトピックは、パンデミックで変わった働き方についてです。
Accenture 社の Sweet氏は、同社が行った調査「Accenture Future of Work Study 2021(アクセンチュアによる未来の働き方調査2021)」から得た知見を紹介し、オフィスで働くか、リモートで働くかの議論ではなく、「人」に注目した議論をするべきだとコメントしました。
加えて、世界各国の9,000人以上の従業員を対象に実施された当該調査では、オフィスで働くよりも、リモートで働いた方が「人とのつながり」を感じる人が多い、という興味深い結果が出ていることも紹介されました。
データの資産的価値とインサイトの重要性
続いて、話題はデータの重要性に移りました。
Hewlett Packard Enterprise 社の Neri 氏は、今日データは最も重要な資産であると指摘しました。その上で、ビジネスだけではなく社会課題に対してデータやインサイトを活用し、社会をよりよくしていくべきであり、企業にはその責任があるとコメントしました。
加えて、データは利益を生み出し、また、コストカットに大きく寄与していると分析しました。そのため、データはほかの有形の資産と同様に企業にとって大きな価値のあるものであり、バランスシートに載せるべきだとの主張を展開しました。
Google 社の Porat 氏も、実際にバランスシートへの記載を実現するかは別とした上で、データの価値に関しては賛同しました。そして「Google 翻訳」を例に挙げつつ、データを賢く使っていくべきとコメントしました。
これに対して、モデレーターの Thompson 氏から、たしかにデータの価値は高まっているが、データの価値は企業の能力にも左右されるとの指摘がありました。すなわち、膨大なデータを持っていても、分析などを通して価値に変える力がなければ意味がないとの問題提起です。
これを受けて Neri 氏は、データの管理にもコストが掛かることを念頭におくべきとの指摘をしました。他のビジネスと同様に、コンプライアンスや管理など、データにはもはやバリューチェーンのすべてがあると述べました。
産業用メタバースによる社会的価値の実現
次の話題は、B2Bデータに基づく産業用メタバースの潜在的価値についてです。
Nokia 社の Lundmark 氏は、産業用メタバースについて、デジタルツインの世界ができるようなものだと説明しました。例えば、原子力発電所内における工事といった研修のデジタル化が可能になると言います。
産業機器は膨大な量のデータを生み出しているものの、私たちはまだ十分に活用しきれていないと Lundmark 氏は指摘します。そして、データをAIの力でつなげ、活用することができると言います。
その上で、こうした取組みが、持続可能な社会を作っていく上で重要であると主張し、地球にやさしい社会はデジタル化なしでは作れないと述べました。
Lundmark 氏は、生産性と持続可能性をデータの力でより上げていくべきであり、これは人間にとっての平等性にもつながると述べています。
Sweet 氏は、メタバースの課題は、人・モノ両方のアイデンティティを、どう守り・作るのかにあると指摘しました。そして、まだ初期段階にあるメタバースにおける秩序形成を提案し、企業だけではなく政府も巻き込むべきで、世界経済フォーラムの出番でもあると述べました。
Porat 氏も、メタバースの倫理の重要性を強調しました。もしもメタバースが現実世界の単なるレプリカになってしまうと、差別を再生産してしまう恐れがあると分析しています。社会科学などの多様な観点を取り入れ、「何を守らなくてはならないのか」を話し合うべきだとコメントしました。
※ なお、世界経済フォーラムは、5月25日、メタバースに関する官民の国際連携枠組みを立ち上げたことを発表しました。Meta(旧・Facebook)、ソニー・インタラクティブエンタテインメント、電通など60以上の企業や組織が参加し、倫理的で包括的なメタバースを作成する手法についてガイダンスを提供することを目指します。
デジタル経済を気候変動問題の解決につなげるには?
こうした流れの中、話題はデータの力と気候変動に移りました。
IBM 社の Krishna 氏は、気候変動に対して何をすべきか考えるためにも、まずデータを集めることが必要と強調しました。
例えば、メディアや政治の影響を受けており、気候変動問題の原因は主に交通手段にあると考えがちであるが、交通手段は原因の16%しか占めていないと Krishna 氏は指摘します。つまり、セメント、鉄、農業などほかのさまざまな大きな要因が実際には存在しているのです。
データをサステナビリティに関する課題解決に役立てた事例として、オーストラリアの銀行の取組みが紹介されました。Krishna 氏によると、同銀行のすべての支店に簡易なセンサーを導入したところ、エアコンが作動しているうちの30%の時間は、誰も人がいない夜間の時間であるという事実が判明したといいます。
Porat 氏からも、AIと空間データを利用して環境への影響を検討した事例が共有されました。Googleは、ユニリーバ社と提携して、同社のサプライチェーン全体を分析し、森林破壊にどのような影響を出しているのかAIで分析したそうです。
こうした事例を踏まえて、Accenture 社の Sweet 氏は「社会貢献 VS ビジネス」の二項対立ではなく、相乗効果の関係にあると指摘しました。つまり、物流や生産過程はデジタル化を通して効率化する一方で、持続可能な社会づくりについて人々が考える時間を増やすといったビジネス変革が、持続可能な社会へ確実に近づく鍵になります。
しかし、現状ではまだそのような転換ができている企業は少ないとも Sweet 氏は述べます。その理由は、企業がそれぞれ独立してしまっており、連携が不十分であるためだと分析しました。
デジタル経済における重要ステークホルダーとしての中国
モデレーターの Thompson 氏から「データの活用を社会課題解決につなげるために、中国の協力なしに進めることは可能なのか?」との投げかけがありました。
IBM 社の Krishna 氏は、8割のデータがあれば課題解決という点では十分だと指摘。また、一つの事例を実現さえすれば、政治問題や法的規制の問題もすべて解決できると考えると述べました。例えば、アメリカやブラジルで一例を作れば、中国も後を追い、同様の動きをするのではないかと「楽観視」しているとコメントしました。
対して、Hewlett Packard Enterprise 社の Neri 氏は、中国内の企業と連携する方がよいと自分達は判断したとコメントしました。その上で、議論の整理として、データの共有の話ではなく、そこから得られるインサイトを共有することについて議論するべきと提案しました。
加えて、公共部門が追いつけないほどのペースでイノベーションが進んでいることを背景に、民間部門は公共部門と協力する責任があると指摘しました。
Accenture 社の Sweet 氏も、議論の整理が必要としました。すなわち、「中国 VS 他の国」という議論もできるし「同一の産業内で共同するために、どのように多くの企業を巻き込めるか」という議論もできるはずと分析しました。
そして、同様のテーマに対してオープンなプラットフォームをつくれないだろうかと提案しました。企業利益は多少減ってしまうかもしれないとしても、インサイトを共有し、協働していけば、社会課題は解決に向かうと思うと主張しました。
同時に、Sweet 氏は、こうした取組みは全ての企業がやる必要はないとの見方も示しています。最初の10社または3か国が実践できれば、あとは一気にグローバルに広がっていくとの展望を示しました。
Google 社の Porat 氏は、リスクマネジメントでも同様のことが当てはまるとコメントしました。そして、サイバー攻撃など、様々なリスクがあるが、協力して対処するべきと主張しました。
また、データ連携のリスクについても話題になりました。
Krishna 氏は、データやインサイトを共有する際にはそれが悪用されるリスクがつきまとうことを認めつつ、進んだり後退したりを繰り返すしかないと述べました。また、サイバー攻撃は人間の戦いではなく、機械同士の戦いになるだろうとの予測も示しました。
そのほか、分散型デジタル、量子コンピュータ、デバイスのインプラントなどに関する質問も寄せられ、活発な議論が行われました。
セッションの最後に、Porat 氏は、今日のトピックは子世代・孫世代の世界を変えるものだと指摘した上で、技術変化には波があって変動性があるものの、リーダーは常に先を見続けて投資を続けるべきと述べました。
責任あるデジタル経済の推進を支援する、DPCI
ダボスにおける年次総会での議論も踏まえ、DCPIチームは、白書の執筆やグローバル・ワークショップの開催などを進めていく予定です。
ご関心のある方がいらっしゃいましたら、ぜひご連絡いただければ幸いです。
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