DFFT白書発行!デジタル急伸国の対話から見える、データガバナンスの展望(タイ編)
世界経済フォーラムは、信頼ある自由なデータ流通(Data Free Flow with Trust:DFFT)の実現を目指し、デジタル経済の発展めざましい4カ国で、多様なステイクホルダーを招き、各国のデータガバナンスの現状と課題について対話するオンライン・ワークショップをホストしました。
その成果を白書「Advancing Data Flow Governance in the Indo-Pacific: Four Country Analyses and Dialogues」として2021年4月に発表しました。
今回は、その中からタイに関する議論をご紹介します。
(※他の3カ国はこちら:インド編、フィリピン編、ベトナム編)
好調なタイのデジタル経済
タイは、インターネットの利用可能率が75%と東南アジアで最も高く、モバイル端末の使用率が高い「モバイル・ファースト」な社会。
Eコマース分野が毎年10%ずつ成長するなど、東南アジアのデジタル経済を牽引するアクターとなっています。さらには、タイ銀行がQRコードを用いた国境を越えたデジタル決済の構想を打ち出すなど、タイでは国境を越えたデータ移転に関する動向が活発です。
個人情報保護の履行確保に向けて
タイでは、およそ15年に渡り議論が続けられてきたPersonal Data Protection Act(個人情報保護法)が2019年に採択され、2020年5月の施行を予定していました。しかし、新型コロナウイルスによる影響が懸念され施行が延期されました。
もっとも、同法は個人情報の保護基準を定めることで、越境データ移転の活性化の礎を築いたといえます。具体的には以下のような基準が想定されています。
(1) データ移転についてデータ主体の合意がある
(2) 特定の法的免除が適用される
(3) データ主体の権利が行使できるよう、データ移転先の組織が適切な保護措置を提供している
(4)データ移転先の組織が、国外データ移転に適用される「個人情報保護ポリシー」を採用している
越境データ移転に関しては、履行状況等を確認する機関であるPDPC(Personal Data Protection Commssion, 個人情報保護委員会)の監査が必要ですが、タイのPDPCは現在のところ確立されていません。
このような課題こそ抱えていますが、PDPAは他国とのデータ移転、ひいてはデジタル経済の活性化のために非常な重要な役割を担うことを期待されています。
他にも、タイは国際連携を推進中であり、例えば、二国間FTAやCPTPP、RCEP等の地域フォーラムの議論を通じてデータ移転に関する国際的な合意を目指しています。WTOのE-コマースに関する共同宣言にも参加しています。
官民連携でクリアな法執行へ!
オンライン・ワークショップに登壇したパネリストは、政府と民間セクターの連携が不足していることを指摘し、法令遵守の確実性と官民連携の必要性を強調しました。とりわけ、新設された個人情報保護法を遵守するための明確なガイドラインを用意し、大企業だけでなく中小企業も、個人情報保護を遵守しつつ、越境データ移転に参入できる明瞭な環境を作ることが重要であると主張します。
また、さらなる国境を越えたデータ移転を促進するために、CBPRの前駆体に当たるAPECのCPEA (Cross-border Privacy Enforcement Arrangement) へのタイの加入を勧める声もあがりました。
デジタル経済の発展がめざましいタイが個人情報保護を確保しつつ、国際的なデータ流通に貢献することができれば、今後のアジアにおけるDFFTをめぐる議論をリードできるだけの可能性を秘めています。
2019年の世界経済フォーラムの年次総会において日本から提唱されたDFFT構想。その具現化をすべく、2020年6月にロードマップを白書として公表し、今回、4カ国のデータガバナンスの現状と課題について共有する対話を行った成果を白書としてまとめました。
今後もこのイニシアチブを推進し、国境を越えたマルチステイクホルダー間の連携に貢献してまいります。
Co-author: 世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター 松下雄飛(インターン)、工藤郁子(プロジェクト戦略責任者)
Contributors:世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター 野田由比子(フェロー)、榊亮介(フェロー)、汪姗(インターン)、上原さら(インターン)、角南萌(インターン)
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