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DFFT(Data Free Flow with Trust): 信頼性のある自由なデータ流通

データは誰が管理する?データ・ガバナンスモデルの現状と必要性

私たちの身の回りには、ありとあらゆるデータがあふれています。多くの人が使っているスマートフォンからは位置情報や健康に関するデータが取得できますし、企業による長年の活動で蓄積された製造に関するデータもあります。あるいは、公的機関によって把握されている私たちの所得もデータの一つです。

さて、こうしたデータは誰が管理・利用に関する決定権を持つのでしょうか?

データは私たちを源泉として取れるものだから、個人が決めるのでしょうか。それとも、データを取得管理している企業や研究機関でしょうか。公共の利益ために活用するなら、政府でしょうか。また、国境を越えてデータを流通し利活用を進める場合はどうでしょうか?

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このようなデータ・ガバナンスに関する議論は、個人のプライバシーや企業の価値に直結する問題が複雑に絡み合っています。規制等の問題が存在することはもちろん、「データを巡る収集から利用までの一連のプロセスに対する不信感」というトラストの問題も横たわっています。

2018年に適用開始されたEU一般データ保護規則(GDPR)はこうした議論の結晶の一つと言えますが、世界全体に目を向けると、データ・ガバナンスについての合意は道半ばと言っていいでしょう。個別の課題について議論はなされているものの、あらゆる側面から、グローバルなステークホルダーが議論する機会は、まだ稀です。

しかしながら、データの安全かつ適切な活用が社会的に大きなベネフィットを生むことも事実です。私たち個人の生活を考えても、地図アプリを使って目的地まで誘導してもらった経験がある人がほとんどだと思います。データの活用が難しかったほんの十数年前には考えられなかったことです。こうした利便性はデータの活用があるからこそ実現しているのであり、したがって、私たちの社会をより豊かにし続けるためには将来にわたってデータと上手く付き合っていく必要があるのです。

世界経済フォーラム第四次産業革命日本センターは、データ・ガバナンスに関するモデルを確立し、第四次産業革命による恩恵を最大化することを目的として活動を行っています。

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Data Free Flow with Trust:第四次産業革命時代のデータ・ガバナンス像

大阪G20を、世界的なデータ・ガバナンスが始まった機会として、長く記憶される場と致したく思います。Society5.0にあっては、もはや資本ではなく、データがあらゆるものを結んで、動かします。大阪G20を、データ・ガバナンスに焦点を当てて議論するトラック、大阪トラックとでも名付けて、この話合いを始めようではありませんか。

Data Free Flow with Trust(DFFT:信頼性のある自由なデータ流通)は、2019年1月にダボスで行われた年次総会において安倍晋三首相(当時)の演説により提唱され、同年6月のG20貿易デジタル大臣会合において採択された新たなデータ・ガバナンスの枠組みです。

2019年のG20サミットでは、開催地である大阪にちなんで「デジタル経済に関する大阪宣言」が発出されました。これを契機に、DFFTを含む一連のデジタル経済、とりわけデータ流通や電子商取引に関する国際的なルール作りを進めていく「大阪トラック」が始まりました。

DFFTは、プライバシー・データ保護・知的財産権・セキュリティに関する課題に対処しつつデータの自由な流通を促進し、消費者およびビジネスの信頼を構築することによって、デジタル経済の可能性を最大限発揮することを目指します。

世界経済フォーラム第四次産業革命日本センターは、以下の3つに取り組んでいます。

(1)国境を越えた自由なデータ流通(Cross Border Data Flows)

(2)個人・企業・都市間の自由なデータ取引市場(Data for Common Purpose Initiative:DCPI)

(3)規制・ルールのアップデートによるトラストの再設計(Agile Governance/Governance Innovation)

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DFFT(1):国境を越えた自由なデータ流通

周知のとおり、データは様々な場面で正しく活用されることによって、私たちの生活をより豊かにする可能性を秘めています。そして、収集可能なデータの量はインターネット接続可能な端末やインフラの発展とともに急増し、その膨大なデータ(ビッグデータ)を処理する技術が向上したことで、データの活用可能性も日々大きくなっています。

こうした技術的革新の恩恵を最大化するためには、より多く・より多様性を持ったデータを活用することが理想的です。そしてそのためには、国内のデータに留まらず、グローバルにデータ流通することが非常に重要になります。しかし残念なことに、国境を越えた自由なデータ流通が行われているとは言えないのが現状です。その背後には、データ・ガバナンスに関する各国の法制度の違いや曖昧さが横たわっています。

ただし、だからといって中央集権的にデータ・ガバナンスに関する規定を設定し、押し付けることは望ましくありません。異なるバックグラウンドや現状により、各国で法制度が異なるのは当然だからです。そういった中でも国家間の自由なデータ流通を実現するためには、「各国家のルールのギャップを補う架け橋」の整備が重要になります。

各国が自国ルールについて相手の理解を得られるよう責任をもって説明し、相互に接続するには何が必要であるかを定義することで、この架け橋の基礎は築かれていきます。包括的な標準化を行うのではなく、相互接続のためには何が必要かを定義し実装する。こうしてインターオペラビリティを確保することで、国家間のルールの壁を打ち破り国境を越えて自由にデータを流通することを目指すのが、「国境を越えた自由なデータ流通」です。

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DFFT(2):個人・企業・都市間の自由なデータ取引市場

DCPI(Data for Common Purpose Initiative)は、「共通の目的のためにデータを活用するにあたって、決定権をどの主体に設定するか」という問題に対する解決案を提示する取り組みです。

例えば、疾病予防や防災といった社会全体の「共通の目的」のために、私たちのデータを第三者(医療機関、研究機関、行政、企業、消防団や防災ボランティアなどNPO)が活用する場面を想像してみてください。アクセスに対する決定権やルールはどうなっているのでしょうか。

DCPIは、アクセス・コントロールをより洗練させることで、問題の解決を目指しています。アクセス・コントロール権は、個人情報の場合、データの源泉である個人(データ主体)が、第三者によるデータへのアクセスについて、その都度アクセスの可否や程度を決定することができる権利です。

アクセス・コントロールをさらに発展させたものとして、第四次産業革命センターが提唱するのが、APPA(Authorized Public Purpose Access)です。これは、社会的合意に基づく公益目的のデータアクセスを意味します。アクセス・コントロール権、APPAについては以下の記事で詳細に解説されています。

同時に、データを取引する基盤となる市場やルール、システムの設計も重要です。現状として、発生源となった個人や企業の承諾無く、データが流通している場合があります。それは、社会を改善するのに役立つ一方、データの発生源となった個人のプライバシーや企業の利益の源泉を侵害していることもあります。こうした弊害を防ぎつつデータの活用を進めるためにも、データを生み出す主体・管理者・データを利用する第三者それぞれが納得し、ベネフィットを得られるデータ取引市場やルール、システムの整備が必要です。

世界経済フォーラム第四次産業革命日本センターは、そのグローバル・ネットワークを活用し、政府、企業、アカデミアなど多様な主体が関わるマルチステークホルダー方式の下、データ取引市場の実証実験を推進しています。

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DFFT(3):規制・ルールのアップデートによるトラストの再設計

(1)国境を越えた自由なデータ流通、(2)個人・企業・都市間の自由なデータ取引市場を実現するためには、信頼の再構築に向けて、現在の各国・地域の法規制やルールについて理解した上で、これらを変更または新たに設計する必要があります。つまり、「規制・ルールのアップデートによるトラストの再設計」です。

例えば、データ流通・利用に関するインターオペラビリティを確保するには、法整備を行うだけでなく、標準化など技術的な仕組みを取り込んだり、アーキテクチャによって法の機能を代替させたりする必要があります。そのために、常にデジタル時代の規制として相応しいものにガバナンスの仕組みをアップデートしていくことが重要です。

こうしたルールの整備・調整によって、データに関わる全ての主体が安心してデータを流通・利用することが可能になり、社会全体としてデータ流通・活用に対するトラストを構築することができるというわけです。

世界経済フォーラム第四次産業革命日本センターは、世界の先進事例に基づく知見を共有し、ステークホルダーをつないで議論の場を提供し、アジャイルガバナンスに貢献できるよう日々活動しています。

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DFFTの実装に向けて

データ・ガバナンスの骨格としてDFFTが提唱されてから2年弱、その実装に向けて様々な活動を推進してきました。2020年1月にダボスで開催された年次総会でもセッション「Building Trust in Data Flows」を実施。同年6月には、世界中の企業、国際機関、学術界のリーダーたちとともに、政策立案者や企業が利用できる手法をまとめ、白書「DFFT:自由かつ信頼しうるデータフローへの道筋」を発行し、目標達成に向けた枠組みの提言を行いました。

活用の仕方次第で私たちの生活を便利にしてくれるデータだからこそ、価値観やライフスタイルの異なる人たちそれぞれが信頼できるデータ・ガバナンスモデルの確立を目指し、プロジェクトを日々進めています。現在取り組んでいることも、公表できるタイミングを迎えましたら、随時お知らせしていきます。


Co-author: 世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター 松下雄飛(インターン)、工藤郁子(プロジェクト戦略責任者)

Contributors(五十音順): 世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター 岡本雅子(フェロー)、鈴江康徳(フェロー)、隅屋輝佳(アジャイルガバナンスプロジェクト・スペシャリスト)、野田由比子(フェロー)、堀井洋一(フェロー)

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