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2021年4月6日、第1回グローバル・テクノロジー・ガバナンス・サミット(GTGS)が開幕しました!注目セッションの一部をレポートします。

■  テクノロジーガバナンスの展望

登壇者:
中西宏明(日本、日立製作所取締役会長兼執行役)
マーク・ベニオフ(米国、セールスフォース会長兼最高経営責任者)
ビビアン・バラクリシュナン(シンガポール、外務大臣兼スマート・ネーション・イニシアティブ担当大臣)
スーザン・ウォシッキー(米国、Youtube 最高経営責任者)

菅内閣総理大臣(ビデオメッセージ)

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セッション冒頭で登場した菅首相。デジタルテクノロジーの社会実装に向けた議論を促進するGTGSへの期待を表明した上で、デジタル時代に政府が果たすべき役割として(1)政府自らがデジタル投資で大胆な一歩を踏み出すこと(2)健全な競争環境を整備すること(3)国際秩序づくりに貢献すること、の3点を挙げ、具体例としてデジタル庁の創設や日本が提唱する「DFFT」へのイニシアチブを強調しました。

世界ではデータを囲い込む保護主義が見られますが、その背景にあるのは信頼の欠如です。各国が等しくデジタル経済の恩恵を受けるために、今こそ、日本が提唱した「データ・フリーフロー・ウィズ・トラスト(DFFT)」を具体化するルールを作るときであると考えております。

さらに「デジタル化」に並び、日本経済のもう1つの原動力として「グリーン」を掲げ、昨年表明した2050年カーボンニュートラルの実現に向けた政府の継続的な取り組みを約束。法整備、投資、イノベーションといった柱を紹介しながら、「誰ひとり取り残さない社会をつくる」ためにテクノロジーの力を最大限活用するという姿勢を繰り返し強調していたことが強く印象に残るスピーチを行いました。 

セールスフォース・ベニオフCEO

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テクノロジー活用において最も注目する分野として気候変動(Climate change)を挙げたベニオフ氏。2020年に始まった1兆本の木を植える取り組み「1t.org」への賛同や、環境保護ビジネス起業家(Ecopreneurs)などのイニシアチブに期待を寄せ、テクノロジーによって環境、海洋、森林など様々な世界的な課題に対処できると力強く語りました。

日立・中西会長

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日本の提唱する「Society 5.0」に触れた中西会長は、第4次産業革命のゴールは何か?という問いに対し、それは課題解決であると明確に指摘。

技術を人間の問題の解決につなげる必要がある

さらにデータ活用のためには「トラスト」の再構築が不可欠であると繰り返し強調し、そのためにどんな道筋をつけ、どのようにトラスト構築をしていくのかを議論、目標設定するのがGTGSだとの期待を表明しました。

Youtube・ウォシッキーCEO

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昨年、Youtube利用者の75%が何か新しいことを学ぶために利用したとする研究を紹介したウォッシキー氏。Youtubeは「グローバルな公共ビデオライブラリー」であり、誰もが学びたいことを学べるプラットフォームであると自負しました。

ただし、このタフなトピックをどのように取り組めばよいのか――しかもグローバルに、しかも一貫した方法で?

一方で現在の規模の大きさが複雑で意図しなかった結果を招いていることを認め、コンプライアンスを担保していくためのテクノロジー活用や専門家との連携についても言及。そのうえで、合法でも人を傷つけるものに対する原則づくりや、パッチワークになりがちな各国の対策について「デジタルトランスフォーメーションは、新しいコラボレーションとパートナーシップを必要としている」と述べました。

シンガポール・バラクリシュナン外務大臣

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COVID-19パンデミックは社会のストレステストだった―― 95%の政府業務をオンラインで行い、ペーパーレスかつキャッシュレスな運用を実現しているシンガポール。バラクリシュナン氏はテクノロジーは「希望の芽吹き(Green shoots of hope)」とし、よりグリーンな(Greener)、より公正な(Fairer)、より賢い(Smarter)社会への道を拓くと述べました。かつてない規模と速度でリアルとデジタルが融合していくなか、「インターネットの神話をリセット」する時期にあると指摘。公益という観点からルールを見直していく必要性を問いかけました。


■ 物流のガバナンス【マッキンゼー・アンドレ会長、デンソー・加藤CTO登壇!】

新型コロナウィルスが起因となり発生したEコマースの急激な利用増加やサプライチェーンの混乱は、現在多くの国々の物流システムに大きな負荷をかけています。パンデミック後も物量の増加によりラストマイル物流の危機的状況が予想される中、セキュリティや持続可能性、テクノロジーの実装例や必要な政策についての議論が交わされました。

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AgilityのGroup Chief Marketing OfficerであるMariam Al-Foudery氏は、物流の現状と新型コロナウィルス が与えた影響について言及すると共に、持続可能なラストマイル物流への変革の原動力となり得る要素と障害について説明し、現状をどのようにアップデートしていくかが重要であると訴えました。

マッキンゼーアンドカンパニー東京オフィスのAndré Andonian会長は、ドライバー不足など、物量の増加に伴い発生する問題を具体的な数値に言及しながら説明すると共に、高齢化と過疎化の影響についても主張しました。また、加速するデジタライゼーションに向けて、社員のスキルアップ(Reskilling)がビジネスにおいては求められるようになるだろうと力説しました。

デンソーの加藤良文CTOは、IoTやブロックチェイン、量子コンピューターなど、既に導入が進んでいるテクノロジーについて、ラストマイル物流への効果も併せて説明しました。

セッションを通じて、危機的状況といわれるラストマイル物流の現状を機会として捉え、新技術の導入や持続可能性の追求、労働者のスキルアップの提供などについて終始前向きな議論が交わされていました。最後に、これらの可能性は物流業界だけでなく、社会全体にとっても利益をもたらすものであるという結論をもって、セッションが終了しました。


■ 行動のトランスフォーメーション:テクノロジーリーダーシップ【行政改革担当・河野大臣登壇!】

デジタル時代に、アジャイルな組織を率いるリーダーには何が必要なのかーー第四次産業革命による社会構造の変化や技術開発の急速なスピードと日々向き合い続けている企業や政府のリーダーが、これからの時代に求められるガバナンスのありかたや、マインドセット、求められるリーダーシップについて議論しました。新型コロナ感染症への対策を進める一環として、政府・民間といった複数のステークホルダーにおける協働・協力が一段階進んだこと、そして今後も官民が連携して取り組んでいくことの重要性が改めて示されたセッションとなりました。

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河野行政改革・新型コロナウイルスワクチン接種担当大臣は、アジャイルガバナンスが求められる一例としてワクチン接種に向けた取り組みを紹介。中央省庁・地方公共団体・医師が一体となってワクチン接種プログラムの展開にデジタルを活用するべく連携していることを紹介しました。

「ワクチンに関する情報を紙ベースからデジタルで記録しなければならない。機敏に物事を進めるために機敏なシステムが必要。3カ月だが学びの毎日」

また、行政における意思決定をより迅速に行うための取り組みとして、新しく創設されるデジタル庁についても言及し、国民からの反応を踏まえながら迅速にデジタル化を進めるために、行政組織内にデジタル人材を配置することが重要であると語りました。

「技術者を政府内に導入することで、政府内でものごとを進められるようになればスピードアップできる」

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マレーシアでデジタル化を推進するマレーシア・デジタルエコノミー公社(MDEC)のSurina Shukri CEOは、企業でデジタル化が急速に進んでいる一方、政府におけるデジタル化が遅れている現状について指摘し、マインドセットを変えて、よりアジャイルに対応することが重要であると強調しました。

セッションの最後には、イギリスのビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)からCallanan卿が登壇し、日本・イギリスを含む計7か国によって構成されるAgile Nationsについて触れ、規制改革など、ガバナンスのイノベーションを促進するための各国政府による新たな国際協力の枠組みについて紹介しました。新しい技術の可能性を最大化し、同時にリスクを軽減するには、政府間、また政府企業間でインサイトを共有し、ルールを共にデザインすることが必要だと指摘し、セッションは終了しました。


■デジタル資産への課税【ITUC・バロー書記長登壇!】

国境を簡単に超えてしまうデジタルサービスに対する適切に課税とは?そもそも世界共通の合意とメカニズム設計は可能なのか――デジタルサービス税(DST)に関する議論は、もはや机上ではなく、リアルなテーマとなりました。グローバルアプローチ不在といわれるなか、規制当局、ビジネス、働き手、グローバル税務のプロフェショナルなど、さまざまな立場からスピーカーが集結した非常に注目度の高いセッションになりました。

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デジタル化により「生まれた価値・公共サービスに課税する」という原則が脅かされていることに対し、フランスはEU諸国とともに課税制度の再構築を目指してきたとCédric O仏電子通信大臣は語ります。ただし単発の主導ではなく、今後の本格的な多国間的(Multilateral)による解決に期待を寄せました。

EYで国際税務政策責任者を務めるBarbara Angus氏も、国際的なアプローチの希求を支持。国ごとにデジタルサービス税の対象となる活動を定義すれば、結果として単一の利益が複数の税の対象となる場合があると指摘。G20でのInclusive Framework Approachにも触れながら、近い将来にグローバルアプローチに関する進展がみられる可能性に言及しました。

寡占もしくは独占的な立ち位置にある企業の行使しうるパワーは、デジタルサービス税を課す際に考慮されるべきだというO大臣の指摘に対し、規制を「される」側にあたるZoomからは、国際政策・政府関連責任者のJosh Kallmer氏が反応。デジタル経済の変化によって課税システムが変化していくことは認めつつ、Angus氏が指摘するような企業に対する二重三重の課税や、全体の利益を鑑みない収益への課税は避けられるべきだと主張し、ビジネスのイノベーションや小さい企業の成長を妨げてはいけないと述べました。

こうした収益と課税の議題に対し、国際労働組合連合のバロー書記長は「現在のルール下では企業が利益を巧みに操り課税を逃れている」と一言。市民視点をサポートするという明確な立場に立ったうえで、オンラインサービスで莫大な利益を得る企業からの富の分配と同時に、大企業に頼らざるを得ない小さなビジネスを支えるための枠組みに一刻も早く合意すべきだと力強く語りました。

▼登録不要|視聴はこちらから(終了後オンデマンド配信あり)

▼GTGS Day 2はこちら

執筆
世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター
ティルグナー順子
大原有貴(インターン)

モビリティチーム 山上修吾(インターン)

アジャイルガバナンスチーム 伊藤龍(インターン)

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