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国民はデジタル・トランスフォーメーション(DX)の進捗や効果をどのように知ることができるのか?

この記事は世界経済フォーラム第四次産業革命日本センターアジャイルガバナンスチームによって執筆されました。

各国では国家のデジタル戦略や行政のDXロードマップを掲げ、DXをサポートする関連法案を施行しています。それらが発行、施行されたあとはどのように進捗や効果が共有されているのでしょうか。英国とシンガポールの取り組みを紹介したいと思います。

英国政府のデジタル・バイ・デフォルト実現への道のり

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英国では、2017年2月にGovernment Digital Service (GDS)がデジタル・バイ・デフォルトの実現に向けて、人材、データ、ツール、共有プラットフォームなどの構築や改善をする戦略Government Transformation Strategy 2017-2020 (政府変革戦略2017-2020)を発行しました。その戦略では、行政サービスを改革し、デジタル化によって以下を可能にすることをビジョンとしています。

・市民、企業、その他利用者が政府サービスを利用する際に、より優れた一貫性のあるユーザーエクスペリエンスを提供する
・サービスと情報を迅速に提供することで政策目標を達成し、意図した結果をもたらす。また、規制が変更された場合には迅速にサービスを変更する
・行政サービスの構築、変更、運営にかかるコストと時間を削減し、公的資金を節約することで、社会経済的および政治的変化への対応にリソースを投入できるようにする
・市民と行政の間に信頼を構築し、個人データが安全かつ市民の期待どおりに使用されていることを市民に確信してもらう。政府の活動をより透明にし、公共にある非個人データを必要に応じて再利用する
・デフォルトで安全なシステムを構築し、DXのすべての段階においてサイバー犯罪に対する保護を確実に行う

(以上、英語原文からの要約)

英国政府のデジタル戦略が発行されてから一年後の2018年2月にはThe Government Transformation Strategy - one year onと題して、以下のような振り返りと先12か月の優先事項を公開しています。

・GOV.UK Notify(政府や自治体からの通知をEmailやテキストで送信する機能), GOV.UK Pay(公共部門のオンライン決済)などGovernment as a Platformとして共通機能を提供
・GovWiFiによって法廷、学校や病院等に単一WiFi環境を提供し、公務員の業務効率向上をサポート
・技術規範やデジタルサービス標準の更新
・GDSアカデミーで公務員のスキルアップコンテンツを提供

これらは導入されたサービスのごく一例ですが、ビジョンとデザイン原則に基づいて継続的な改善が行われています。

めまぐるしく変化するサービスや情報をアップデート

GDS公式ブログでは取り組みを一年ごとに毎月のストーリーで読むことができます。毎月多くのサービスが開始、更新され、プロモーション活動、進化していくサービスや情報を時系列で追うことができます。ブログ形式だと少し肩の力が抜けた感の記事になっているので、形式的なレポートを読むより親しみが持て、記憶に残るのではないでしょうか。

シンガポール スマートネイション構想は着々と現実のものに

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シンガポールでは2014年からスマートネイション構想の下に、デジタルイノベーションを原動力とする先導的な経済と、多様に変化するニーズに対応する世界的な都市を目指しています。デジタルエコノミー、デジタル政府、デジタル社会をスマートネイションの柱にしています。また、主要な国家プロジェクトを特定し、2023年までのマイルストーンを可視化し、市民に共有しています。

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利用者満足度では順調な指標を示すデジタル政府

このスマートネイション構想を受け、シンガポールGovTech(政府技術庁)が発表したデジタルガバメントブループリントでは、具体的数値によって政府サービスのDX成果目標が設定されています。

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政府が実施する政策の多くは、将来を明確に予測できず、政府に対する市民の期待も変化するため、数値目標を設定するのは容易ではありません。しかし、具体的な数値を設定することで、何を目指しているのかを示し、市民の期待に沿っているのかコミュニケーションを行うことが可能になります。

数値目標を設定することで達成「できた」「できない」だけではなく、どれだけ達成したのか、設定は妥当だったのか、トレンドはどうなのか、なども客観的に見ることができ、更なる段階に進む際へのベースラインにも活用できます。

毎年の報告書では、デジタル化されたサービスへの満足度調査結果を公開しています。例えばFY2019/2020報告によると、政府のデジタルサービスに「とても満足」または「非常に満足」と回答した国民は86%、企業からは77%でした。(それぞれ1,500回答数)
これは政府が2023年まで達成するKPIを上回っており、期待通りに行政DXが推進されているという1つの指標になります。また、この報告書では一年間で達成したことや推進されているプロジェクトの進捗、プロジェクト担当者の紹介もあり、こういった「人」の部分を知ることでDXをより身近に感じることができます。

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日本のデジタル庁設立に国民の注目と期待、関与、認知度が向上

日本では行政のDXを加速させるためにデジタル庁の準備が進められています。デジタル庁はGovernment as a Startupとして従来の常識にとらわれないマインドセットで準備プロセスもオープンにされています。創設のプロセスの一部である対話会議や勉強会などのコンテンツはYouTube等で公開され、平井卓也デジタル改革担当大臣のメッセージで進捗共有がなされています。
また、デジタルの日が創設され、2021年1月にはデジタル庁に従事する人材募集も行われました。

DXは私たち一人ひとりが向き合うこと

DXは政府や行政、企業、社会コミュニティなどの組織が推進するだけではありません。DXがもたらす恩恵を、一人も取りこぼすことなく誰もが享受できるようにするためには、私たち一人ひとりが当事者意識を持ち、改善点について声をあげる、デジタルに不慣れな知り合いをサポートするなど、積極的に関与することが成功につながります。そのためにはDXのプロセスや成果に対して透明性があることは非常に重要です。

Author: 世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター アジャイルガバナンスプロジェクトフェロー 高田紀子

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