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過去の災害を知る《5》斜面崩壊による列車の脱線〜京急本線土砂崩れ列車脱線事故(9月24日)~

 最近、数年に一度レベルの大雨があちこちで発生している印象を受けますね。鉄道はじめ、交通インフラにとって大雨で怖いのは川の増水、線路の冠水、そして斜面の土砂崩壊です。

 本日は、8年前に京急電鉄で土砂崩壊により発生した脱線事故をまとめます。

京急本線土砂崩れ列車脱線事故の概要
発生日時   :2012年9月24日23時59分ごろ(天候:雨
発生列車   :特急 三浦海岸駅行き
発生場所   :神奈川県横須賀市 京急本線追浜駅~京急田浦駅間
被害     :8両のうち前から3両までが脱線
        重傷9人 軽傷44人

 脱線事故発生当時び現場付近の天候は雨であり、激しく降っていました。気象庁や京急電鉄など様々な管理者が雨量計を管理していますが、事故現場付近では数十mm~最大で100mm程度の時間降水量がありました。

 この降雨により線路脇の斜面が崩落し土砂が線路内に流れ込み、列車は時速60km超で土砂に突っ込んだために脱線したとされています。

 今日は、土砂崩壊が発生した「線路沿いの斜面」に着目し、背景と対策を整理します。

背景:線路沿いに斜面が多い日本の鉄道

京急脱線

 事故現場の地図を見ると、等高線や街区の形から山がちな地形であることが分かります。京急電鉄は三浦半島の東岸を走りますが、三浦半島は海沿いまで山が迫る急峻な地形であり、京急電鉄も山の中を走り抜ける区間が多くなります。

 日本の鉄道、特に京急のような私鉄というと平野の都市部を走るイメージを持ちますが、斜面対策が必要不可欠な山間部を走る区間も結構あります。また、都市部であっても丘陵地帯を横切る際には土地を削る場合もあり、その場合でも線路沿いに斜面が生じてしまいます。

 起伏に富んだ国土を持つ日本では「斜面対策」は避けて通れないのです。

対応:ハード対策とソフト対策の組み合わせで対処

 鉄道会社が対策を必要とする斜面は多数にわたるため、ハード対策とソフト対策を組み合わせた効率的な管理が必要です。

 ハード対策としては法枠工など、斜面の安定化を目的とした土木工事が挙げられます。道路などでも見られる対策で斜面崩壊の防止に直接的な効果があります。

法枠工

写真の出店:阪急電鉄HP(https://www.hankyu.co.jp/cont/miraisen/entry/norimen-gouu.html)

 しかし、斜面は広大であるため、ハード対策だけでは崩壊の可能性を完全になくすことは困難です。ハードでカバーしきれない場合のソフト対策として、豪雨時の運転規制や監視が挙げられます。

 運転規制のためには雨量の計測が必要となるため、雨量計の設置が欠かせません。コストとの両立が課題となります。

 監視については、人だけでなく斜面の動きを感知するセンサーを張り巡らす仕組みも開発されています。

 京急電鉄でも、斜面崩壊が発生した箇所での対策工だけでなく、新たに運転規制の基準を設けました。こういったソフトとハードの組み合わせは、斜面崩壊への対策の基本形となっているのです。

今後の課題:鉄道会社の管理が及ばない斜面からの崩壊

太陽光パネル崩壊

写真の出典:毎日新聞Web記事(https://mainichi.jp/articles/20180908/ddl/k28/010/386000c)

 ここまで斜面崩壊への対策を具体的に挙げましたが、課題もあります。鉄道会社が所有しない敷地外の斜面からの崩壊は、運転規制以外では対処できないのです。

 2018年には、神戸市で敷地外の斜面に設置されたソーラーパネルが豪雨で崩壊し、その土砂が山陽新幹線の敷地まで流れ込みました(写真)。
幸いにも事故には至りませんでしたが、長期間の運転規制を余儀なくされました。

 自社の管理の及ぶ範囲で対策を行ってきた鉄道会社にとっては、敷地外からの崩壊は予想外です。また、その全てを対策することは困難となります。

 先の太陽光パネル崩壊では、対策として神戸市側が斜面への太陽光パネルの設置規制を検討しました。このように、鉄道会社の管理が及ばない範囲についてはその土地を所有する住民や行政等も巻き込んだ対策が今後は必要になると思います。

今後の方針:鉄道会社だけでなく住民や行政なども巻き込んだ防災対策の推進

 今後、雨の降り方はより激甚化すると予想されており、京急電鉄の脱線事故のような斜面災害が発生するリスクはますます増大すると見込まれます。

 事故を防止するためには、鉄道会社によるハード・ソフト対策に加え、行政なども巻き込んだ斜面崩壊の防災対策がますます欠かせなくなるのです。

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