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 詩人にとって言語は恐らく私たちがまったく気がつかないでいる価値に満ちあふれたものなのだ。わずか10語に見たないような言葉で何らかのメッセージを表現しようとする場合、私たちはただ意味を正確に伝えたいと思うものだが、詩人は表現そのものにおいて実際の生の流れ、情緒的な鼓動を扱うのである。

G.H.ミード『精神・自我・社会』山本雄二 訳 みすず書房 2021年

おもいでが 音もなく
ながい巻物をくりひろげる。
わたしは嫌悪のこころをもって
おのれの生涯を読みかえし
身をおののかせ のろいの声をあげ
なげきつつ にがいなみだを流す。
けれども悲しい記録のかずかずは
もはや消し去るよしもない。

『プーシキン詩集』金子幸彦訳 岩波書店 1953年


こわいんです。生きてることが、
でも、死ぬことも、こわいんです。
   宗宮 彰子(岐阜県、15歳)

丸岡町文化振興事業団 『日本一短い手紙 大切ないのち』角川書店 2002年


わたしは肉体を認知するのがこわい
わたしは魂を認知するのがこわい
深い 心もとない財産 
所有物、自由意志のきかない

疑うことをしない相続人に
勝手に課せられた 二重の財産
不滅の問の君主にして
未開拓の、神。

『エミリ・ディキンスン詩集』中林孝雄 訳 松柏舎 1986年


いやだ と言っていいですか
本当にからだの底からいやなことを
我慢しなくていいですか
我がままだと思わなくていいですか

親にも先生にも頼らずに
友だちにも相談せずに
ひとりでいやだと言うのには勇気がいる
でもごまかしたくない
いやでないふりをするのはいやなんです

大人って分からない
世間でいったい何なんですか
何をこわがっているんですか

いやだ と言わせてください
いやがっているのはちっぽけな私じゃない
幸せになろうとあがいている
宇宙につながる大きな私のいのちです

谷川俊太郎『さよならは仮のことば』新潮社 2021年


ナザレに着いたとき
  私は半分死んでた
とにかく横に
  なれる場所が欲しい
私は男に尋ねた
  “泊まれる場所は?”
彼はニヤリと笑い
  ただ一言“知るもんか”
 
荷物を下ろして
  自由になりなさい

荷物を下ろしなさい
 
そして その荷を
  私によこしなさい

”THE WEIGHT” by THE BAND
『イージーライダー』監督 デニス・ホッパー アメリカ 1969年


いのちがおわるときも、
夏休みがおわるときのように、
短かったと思うのかなぁ。
   緑川 なつみ(神奈川県 14歳)

丸岡町文化振興事業団 『日本一短い手紙 大切ないのち』角川書店 2002年



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