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太宰治の作品年表

読んだ太宰治作品を年代順に、感想を添えてまとめます。
リンクは私の朗読に飛びます。

太宰治(1909〜1948)


大正14年【1925】

3月
『最後の太閤』
太閤秀吉の臨終間際を描く。太宰治15歳!
見事な人生ダイジェストな短編。

大正15年【1926】

11月
『モナコ小景』
モナコの賭博場で顔の青さを競う私とフリッツ。そこへ同じく青い顔の娘・ニイがやってくるが…。

昭和4年【1929】

2月
『鈴打』(小菅銀吉)
太鼓持が若旦那に語る形の独白。
哀愁と滑稽さの表裏。

昭和8年【1933】

2月
『列車』
いけすかない友人が捨てた女性・テツさんが故郷に帰されることになる。
本当の愛だと思っていたものも、身分の違いにより崩れる。
その女性を駅で見送る私と妻。

3月
『魚服記』
滝壺に落ちる男、目撃した少女。
親と娘の関係性。魚になりたい。

『魚服記に就て』
「魚服記」の謂れと執筆動機。魚になりたかった。

4・6・7月
『思い出』
少年時代の思い出の記。
女中との恋、服装へのこだわりなど。

昭和9年【1934】

4月
『断崖の錯覚』0401
作家になりたい私が、嘘ついて大変な事になる話。殺人の告白、という、いつもの太宰治のムードがありながらほんのりミステリーな作品。
初期作品で、名義は黒木舜平となっている。
『葉』
断片的に色んな所に飛ぶ文章。
後半の花売の外国人の話が印象的。
咲くように。咲くように。

7月
『猿面冠者』
文学に触れすぎて筆が進まなくなった男のもとに、3通の風の便りが届くのはどうだろう、という小説。

10月
『彼は昔の彼ならず』
大家をしている青年と、借家に住む青扇との交流。彼と我との間に、どれほどの差があろう。

11月
『ロマネスク』
昔話調に語られる、三人の男の半生。
太郎、次郎、三郎がラストで…。

昭和10年【1935】

5月
『道化の華』
心中で一人生き残った葉蔵が、海辺の療養院で仲間と共に過ごす。
このときから、このテーマに向き合ってたのか。

7月
『玩具』
赤児の頃の記憶を書こう!と面白い事を思いついた作者が苦悩する。作者介入スタイル。

『雀こ』
故郷の言葉で書かれた、響きに味わいある作品。子供の遊ぶ風景。

9月
『猿ヶ島』
どこかに漂着した私は一匹の猿と出会い…って所からすごい転換。そう来たか!

10月
『ダス・ゲマイネ』
私・佐野次郎の語りで紡がれる、
友人の馬場との交流の物語。
二人で雑誌を作る計画をし、佐竹、太宰治とクセモノたちが合流し…。
個性豊かな人物たちの、容姿の描写がまた細かくて面白いです。

11月
『逆行』
三篇の小品から成る。
2つ目の「決闘」が、コミカルな太宰節。

『人物に就いて』1123
乃木将軍の事をよく考える。からの、通とは、という話。三人の通を紹介。

12月
『「地球図」序』
『ダス・ゲマイネ』で散々な批評を喰らって、その体験をもとに『地球図』を書いたよ、という序文。

『地球図』
日本にやってきて捕縛された宣教師・シロオテの記録。

昭和11年【1936】

1月
『めくら草紙』
マツ子とのエピソードを中心にしながら、小説を書く私の苦悩が噴出。花の名前の列挙などで喘ぎ喘ぎ幕へ。

4月
『陰火』
短編集的な。尼が夜に訪ねて消えてゆく話面白い。

5月
『古典龍頭蛇尾』
日本語とか日本の古典について。
だめだ、小説を書きたい。

『雌に就いて』
男二人が「こんな女がいたら死なないなぁ」という理想の女の話をする。やがて空想旅行へ。岸田國士の『紙風船』を思い出す。

7月
『虚構の春』
太宰治の元に届いた手紙をひたすら並べていく。本物創作取り混ぜて浮かび上がる、太宰治という人。

10月
『創生記』
あっちへ行ったりこっちへ行ったりな作風。
途中で別の作品が挿入されたり。
芥川賞の話が面白い。
『喝采』
演説っぽく語られる身の上話。
友・中村地平の話に集約していくが話題ころころ。
チェーホフ『タバコの害について』をどことなく彷彿とさせる。

『狂言の神』
山での首つり未遂について。始めは距離を取り描くも、たまらず本人の語りへ。
山へ入ってからの情けない疾走感。

11月
『先生三人』1101
自分は良い師に恵まれた。井伏、佐藤、菊池。

昭和12年【1937】

1月
『春夫と旅行できなかつた話』0101随筆
何か怨念こもってる短文。
『音に就いて』0120随筆
様々な物語に登場する「音」について考える太宰。
『二十世紀旗手』
支離滅裂的に並べられる言葉の数々とそこに宿る勢い。と思って声に出して読んだらリズムがべらぼうに良い。『走ラヌ名馬』に似てる。作家の魂の咆哮。

3月
『あさましきもの』
タバコ屋の娘、夜道のキス、嘘の咳。
エピソード3つ。

4月
『HUMAN LOST』
精神病院に入れられた経験を、日記形式で描く。

9月
『檀君の近業について』0901随筆
檀君の仕事についての賞賛。

10月
『燈籠』
「牢はいったい誰のためにあるのです。お金のない人ばかり牢へいれられています」
付き合っている男にいい水着を着せたい一心で水着を万引きし、捕まり、演説をぶち、男には学問のない女と見下される、さき子の独白。

12月
『思案の敗北』1201随筆
愛についてなど色々考える。笑いは強い。
『創作余談(こわい顔して)』1210随筆
創作余談…困っちゃう…作家は見栄を張りたい。

昭和13年【1938】

2月
『「晩年」に就いて(他人に語る)』2.1
「美しさは、人から指定されて感じいるものではなくて、自分で、自分ひとりで、ふっと発見するものです。」

3月
『一日の労苦』3.1
生活そのままを書く、というスタイルを自己肯定していくスタイル。

5月
『多頭蛇哲学』5.1
ゲシュタルト心理学、全体主義、象徴。伝えようとして伝わらぬ、もどかしさ。

9月
『満願』
医者と友達になる。そこに見舞いにやってくる奥さんの辛抱に美しい光景を見る。何の辛抱か、何のさしがねか。

10月
『姥捨』
不義理を行った妻と、生きていけなくなり、心中の旅へ。二人とも心中し損ねて、男は別れを決意。
心中に踏み切るまでの、女は生かそう、という心理描写。からの、別れの決意が光る。

『富士に就いて』10.6
富嶽百景の短い版みたいな感じ。

12月
『九月十月十一月』
御坂での滞在と甲府の街のこと。

昭和14年【1939】

2月
『I can speak』
女工と、その酔っ払った弟との会話。
大切な光景。太宰再起への、忘れられぬ景色、歌声。

3月
『富嶽百景』
御坂峠で太宰が出会う、色々な富士とその記憶。
富士に、励まされる。
『黄金風景』
昔いじめ抜いた女中・お慶との再会。幸せそうな光景に、自らも再起の力を得る。美しい短編。

4月
『女生徒』
女生徒の、朝起きてから寝るまでの感情のジェットコースター独白。絶品。

5月
『当選の日』
「黄金風景」で賞を受賞した太宰先生の、幸せな気持ち。ほのぼの。
『秋風記』
死にたい私と女Kの湯河原・熱海旅行。
役に立たないものを上げる遊びが印象的。物寂しい雰囲気が全体に漂う。
『花燭』
どうにも人をもてなしてしまう男爵は、昔女中だった娘と再会する。彼女は今女優なのだが、結婚についての悩みを相談され、彼女の弟に会い…。不思議な余韻がある作品。

6月
『葉桜と魔笛』
若くして病死した妹と、手紙のやりとりをしていた男と、自分と、父。優しい嘘の話。切ない。

10月
『美少女』
甲府滞在中、湯村の温泉で素晴らしい美少女を見た。
後に床屋でも出会い、なんだか嬉しい気持ちになる、悪徳物語。ほのぼの。

『畜犬談ー伊馬鵜平君に与えるー』
犬が怖い、憎いとさんざこき下ろしていた作者が、犬に襲われぬようにへつらっていたら逆に好かれてしまい、犬を飼う。愛情すら感じる。
「弱者の友なんだ。芸術家にとって、これが出発で、また最高の目的なんだ。」

『ア、秋』
作家の創作ノートから、「ア」の部が披露される。

10月
『デカダン抗議』
幼少の頃に一目見て惚れた芸者に、大人になって再会する。ロマンチシズム。

11月
『おしゃれ童子』
太宰治、幼少期のおしゃれ黒歴史。
『皮膚と心』
できものが身体中に出来てしまった女の独白。
集合体恐怖症的な所から美しさが命、まで。
皮膚の潔癖、心の潔癖。ぐるぐる考えてぽかんと解決。
「女は、肌だけで生きて居るのでございますもの。」

昭和15年【1940】

1月
『困惑の弁』1.20
この雑誌の読者は、私のような正体不明の作家の物は読みたくないであろう。志は高い方がいい。私には、こんな風になっては駄目だと言う事しか出来ない。

『心の王者』1.25
学生は神のそばにいる権利がある。
何者にもなってはいけない、自由を謳歌せよ。

『このごろ』1.30
パラオの従兄の話、戦地の友人の話、犬が怖い話。

『俗天使』
あんまり良いものに触れてしまって己の無力さを知る。書けない、という所から過去が噴き出し『人間失格』の構想まで語る。その後、『女生徒』の女の子で自分を励ます。「おじさん、元気でいて下さい」

『鷗』
これ、とても好き。戦地に行っていない自分は戦争の事は書けないけど、それでも、誇りを持って文学を続ける。という作家の精神がビシビシ来る。「待つ」という言葉が輝くラストに、印象的に響く汽車の音。傑作。

3月
『酒ぎらひ』3.1
お酒を沢山飲んだ話。酒は汚らしくて家に置いておきたくない、整理しよう、と酒を飲むかわいい人。

『知らない人』3.1
正月に出来物で苦しんだ話から、知らない人の追悼文を読んで、その人を奇跡のように思う。人に迷惑をかけない、人。

『老ハイデルベルヒ』
学生時代の良い思い出の詰まった三島を再訪し、昔と違った感覚に襲われ、陰鬱な気持ちになる。
こういう事、ありますね…。

『作家の像』
随筆は苦手だ、何を書いたらいいか取捨選択がまるで出来ない、という話。

4月
『義務』
義務によって生かされている。
書ける時には依頼は断らない。メロス的リズム。
『誰も知らぬ』
41歳の安井夫人が語り始める、若かりし日の、一瞬の心の燃え上がり。あれは何だったのでしょう。
『善蔵を思う』
三鷹へ引っ越し、百姓女風の者からバラを売り付けられ断れない。
故郷の名士を集める会合にうっかり出席してしまい、
故郷に錦を、という思いと、
自分は誰にも相手にされない、
という思いとの間で引き裂かれ、
酒を飲み、暴言を吐く。
名誉を、諦めろ。
後日、バラは大層いいものだと友人に聞かされる。
「まんざら嘘つきでもないじゃないか」
嘘から出る美しさも、ある。

5月
『走れメロス』
教科書でもお馴染みの走れメロス。
素直に味わうもよし、ツッコミを入れて読むも良しのリズムの化物作品。
『大恩は語らず』発表は昭和29年7月1日
恩讐について書いて、と頼まれて案の定うまくいかない太宰治。4〜5枚のエッセイばっかり書きたくない!

6月
『『思ひ出』序』0601
私の仕事はこれからだ。

『女の決闘』(1〜6月の連載)
オイレンベルグの同名小説に解説と加筆する形で書かれたもの。素材は調理しなければ、という太宰論。素材のままではいかん。

『三月三十日』
満州に住む人に向けたエール。
自身を「国策型で無い無力な作家」と書くなど、戦争の影も濃い。

7月
『盲人独笑』
「葛原勾当日記」盲人で箏曲家の葛原の日記の中から、最も多感なある一年を抜粋・脚色したもの。木活字で書かれた日記の風を出すためにひらがなが多く、独特の風情がある。

8月
『貪婪禍』8.5
ある地方の宿に泊まって。風景を見ても生活を考え、楽しめない。楽しみに悲しみを、悲しみに無を。

9月
『失敗園』
不格好な庭に精一杯生きている植物達が語り出す。
面白い。

10月
『一燈』
芸術家の持ち物は鳥籠一つ。この例えがグッとくる。皇太子の誕生時のエピソードと、これからの戦争の時代へ。
『砂子屋』10.30
砂子屋書房の山崎剛平を褒める。褒め方下手か!
『パウロの混乱』10.31
人にさんざん人身攻撃を受けたパウロの物語を、今官一くんが書いているらしい。激しく応援したい。


11月
『リイズ』
ラジオ放送用として。画家の杉野くんとその母、そしてやってきたモデルの話。見当違いのモデルを連れてきてしまった母の真意が、じんわりと来る作品。
『きりぎりす』
女の独白。画家の旦那が、自分にしか理解できぬ天才だと思っていたが、めきめき売れ、その様子がまるで愚物のようになっていく。お別れします、という。「心の中で、遠い大きいプライドを持って、こっそり生きていたいと思います。」「この世では、やはり、あなたのような生きかたが、正しいのでしょうか。」

12月
『田中君に就いて』12.15
田中英光の『オリンポスの果実』への序文。文学は人を堕落させるものではない。生活は弱く、作品は強く。

『ろまん燈籠』昭和15年12月〜昭和16年6月
入江家の五人兄妹がリレー形式で綴る物語、滲む家族の人柄。暖かい雰囲気が満ちる一作。

昭和16年【1941】

1月
『東京八景』
これまでの半生振り返り、みたいな作品。
芸術は、私である(笑)
ラストの見送りのエピソードがとても暖かい。
こんな私だからこそ、力になれる!
『清貧譚』
贅沢を嫌う貧乏な男が、ある困窮した姉弟に出会い、自分の家に住まわせる事にする。
弟は菊を育てるのが大層上手で繁盛し、男に優しくしようとするのだが…。

『みみずく通信』
学校へ講演に行った時の話を手紙で。
講演、イタリア軒、佐渡へ行きたい。
「他に何をしても駄目だったから、作家になったとも言える。」

『佐渡』
新潟に講演に行った後に向かった佐渡のこと。何もないのが分かっていても見たくなる、人生もまた。
島を勘違いしたかと狼狽える様がかわいい。

2月
『犯しもせぬ罪を』0220
宮崎譲の詩集『竹槍隊』に寄せる序文。シンパシーが感じられる。同時代の人。

5月
「『東京八景』あとがき」0503
読者よ、解説に頼りすぎないでくれ。短編集へのあとがき。


6月
『令嬢アユ』
友人・佐野君の恋の話。
釣りをしていて出会った時に出会った令嬢との清々しい恋の話と、オチ。アユって、そういう事か…。
徴兵へのチクリと刺さる一言も。

『「晩年」と「女生徒」』6.20
本の売れ行き。富をむさぼらぬように気をつけなければ!

7月
『新ハムレット』
シェイクスピアの『ハムレット』に題材を取りながら、そこここに太宰イズムが取り入れられたドタバタ劇。翻弄し、翻弄される人々の行きつく先は…。

11月
『風の便り』
作家同士の手紙のやり取りとして書かれる、太宰治の作家論・仕事の流儀。

12月
『誰』
学生にサタンよばわりされ、自分は悪魔なのかと心配になり研究しまくる私。先輩のもとも訪れ、結果自分はサタンではなく馬鹿だ、という所に落ち着くが…。

昭和17年【1942】

1月
『或る忠告』0101『新潮』
ある詩人が来て自分に吐いた辛辣な言葉、という体で描かれる。自身の内なる声?
『食通』0105『博浪沙』
食通って大食いの事だと思ってた、という話。故に我は大食い。
『恥』
女性一人称。小説家の書く内容を信じ込んで手紙を出し、家を訪問し、小説に書いてある事とまるで違う、嘘つき!と感じた出来事を友人に語る。こわい(笑)

『新郎』
一日一日を大切に、新郎のような気持ちで生きる。やたらに前向きなエネルギーを持つこの作品が書かれたのが、日米開戦の日だという。染みる。滅びを前にした、輝きか。

2月
『十二月八日』
英米との開戦が報じられた日の、日本の一主婦(太宰の妻)の行動と思考の記録。『新郎』と対をなすかのような作で、こちらは生活感がすごい。女性一人称で綴られる、民衆と戦争。

『律子と貞子』
姉妹のどちらと結婚しようか迷っている、という相談を受ける。姉は真面目、妹はよく構ってくれる。
聖書を引用して「妹」という印象をつけるも、男は姉と結婚。なんたることだ!

4月
『一問一答』0411『芸術新聞』
インタビュー形式。正直であること、愛、キリスト教のこと。
「『風の便り』あとがき」0416
責任の加重を感じる、大事な時期だ。

5月
『水仙』
世辞で持ち上げられているのか、本当に才能があるのか。その狭間で狂気に落ちた人妻の話。蜆を食べる太宰がかわいい。
「『老ハイデルベルヒ』序」0520
懐郷の思いの作品を集めたよ。戦時の紙不足。

6月
『正義と微笑』
少年時代・芹川進が役者を志し成長していく爽やかで瑞々しい長篇。
『待つ』
駅のベンチで「何か」を待ち続ける女性の独白。
『無題』0628『現代文学』
きっちり456字の原稿を依頼されたことへの文句(笑)
「『女性』あとがき」0630
女性語りを集めたよ。タイトルは簡潔に。

7月
『小さいアルバム』
来客モノ。客をもてなす方法がなく自分のアルバムを見せる。人生振り返りのような感があり、自分の事をやや距離を取って見ている哀愁がある。

『小照』0713『新日本文学全集14』の月報
井伏さんの事を書けと言われたが、書かないって約束したんだよなぁ…。こわいなぁ。

8月
『炎天汗談』芸術新聞
太宰治の修行論。
進歩がないと言うが、退歩しないというのはたゆまぬ努力の成果である。面白い。

9月
『天狗』0901『みつこし』
凡兆・芭蕉・去来の連句に茶々を入れて、彼らの句のリレーの心境を解説する。去来が愛すべきディスりを受けていて面白い。こんな事を言ってる私は天狗になってる、と鮮やかに結ぶ。

10月
『花火』後に『日の出前』と改題(昭和21年12月)
実際にあった日大生殺し事件にインスピレーションを得たとされる小説。放蕩で家族に迷惑をかける兄を必死で支える妹。だが、彼女の幸福とは…。
三人称視点で描かれる冷たい作品。

昭和18年【1943】

1月
『黄村先生言行録』
黄村先生と書生の私の記録。
山椒魚にはまった先生が巨大山椒魚を探し求める
メインエピソードがとにかく面白い。

『禁酒の心』
太宰治、禁酒を語る。
戦時下の酒回り事情が活写されている作品。

『『富嶽百景』序』
生き様がテーマ。

『金銭の話』
お金が貯まらないのです。

『花吹雪』雑誌未発表
黄村先生二作目。
先生、武術こそ男の道、と言い始める。
軟弱な私の自己批判が挟まり、
入れ歯と花吹雪事件でオチ。おもしろ。

2月
「櫻岡孝治著『馬来の日記』序」
序文。戦地に行った友人の本。

4月
『鉄面皮』
『右大臣実朝』の宣伝をしつつ、偉人とは、訓練に出て思わぬ褒め方をされた話など。

7月
『小さいアルバム』
来客に話すネタが何もないので自分のアルバムを見せる、という語り作品。人生振り返り的な所もあり。

10月
『不審庵』
黄村先生最終作。今度は先生からお茶会のお誘い。
茶道の勉強をして臨んだ私だが、先生の不審な茶会にはルールも通じず…ドタバタ茶会の様が面白い抱腹絶倒シリーズ最終作。

『作家の手帖』
七夕の願い事の話、曲馬団の話、タバコの火を貸す・借りる話。生きづらい人である。

昭和19年【1944】

1月
『佳日』
結婚する事になった学生時代の友の為に右往左往する私。「名誉の家」という感覚。表現がまずい、という感覚。
『革財布』
落語のいわゆる「芝浜」のあらすじ説明から始まり、その典拠を論ずる鴎外の話、そして自分が考えた新設定の自慢に繋がる軽妙な一篇。

3月
『散華』
亡くなった二人の友人のこと。
特に、アッツ島で玉砕した詩人の三田くんの事。三田くんの手紙を遺したい心。

4月
『芸術ぎらい』0401
雑誌「映画評論」に書いた文章。
映画は「芸術的」雰囲気を追うことをやめなければ!
太宰の創作論もあり。

5月
『雪の夜の話』
女性一人称語り。
美しい雪景色を見て、それを目玉に焼き付け、姉に見せてやろうとする妹の話。
『一つの約束』とほぼ同様の、海に飲まれた男のエピソードが登場。

8月
『郷愁』
津村信夫追悼の文章。詩人は嫌いだが彼は好き。
いい家、笑顔、思い出、天国と地獄。別れ。
亡き人への想いの詰まる暖かい文章。好き。

9月
『東京だより』【青空文庫で読む】
戦時中、工場に行った時の話。
皆が同じ顔に見える中、一人だけ顔つきの違う少女と出会った私は…。

昭和20年【1945】

1月
『新釈諸国噺』
井原西鶴の作品から着想を得て太宰が綴る、色々な物語集。『貧の意地』から始まり、カラーの異なる様々なお話が展開される。
『竹青』
人生上手くいかず烏になりたいと願った男が、本当に烏になる。烏の美女の竹青と結ばれて上機嫌だが…。
生きてゆくことのままならなさ、面白さ。
硬さと柔らかさの見事な融合、この作風、面白い。

10月
『お伽草子』
太宰が練り直すお伽噺たち。こぶとり爺さん、浦島太郎、カチカチ山、舌切り雀。桃太郎は諦めたらしい(笑)どれも爆笑の類だが、舌切り雀になんとも言えぬ味がある。
『パンドラの匣』10月〜翌1月
結核療養所に暮らす青年の爽やかな手紙。周囲の人々や淡い恋模様。

昭和21年【1946】

1月
『庭』
青森に疎開し、終戦。兄と草むしり。
太閤と利休の話、兄と自分。ゆったりした雰囲気。
『親という二字』
終戦後、死んだ娘の口座から酒代を出すじいさんに会った話。

2月
『嘘』
疎開先で聞いた、脱走兵にまつわる話。
村の名誉職は脱走兵の妻に事情を話にゆくが…誰のための嘘か、何のための嘘か、ラストに仄めかされる男女の色々。

『貨幣』
百円紙幣に女性の人格を持たせ、その視点から見た戦中・戦後の混沌と、そこに生きる人の強さを描く。
最も卑しいとされる者の、最も美しい行為。

3月
『やんぬる哉』
疎開先で自分の知り合いだという男の家に呼ばれ、疎開者は図々しい、工夫が足りない、との言葉を延々と聞かされる。

5月
『津軽地方とチエホフ』
チェーホフの『ワーニャ伯父さん』『三人姉妹』『桜の園』の台詞を引用して太宰が語る、最近の津軽の「人」
『未帰還の友に』
出征した友人の一時帰還。彼と飲むうちに、昔、酒欲しさに飲み屋の娘と彼をくっつけようとした話になり、娘も彼も本気だと分かる。
しかし彼は死ぬ身ゆえ、あれは全部先生の計画だと断った。これじゃ僕が悪者みたいじゃないか。

7月
『チャンス』
チャンスによる恋など下卑たもの!
雀焼き食べたいの一念。

9月
『同じ星』【青空文庫で読む】
自分と同じ誕生日の詩人・宮崎譲氏からお手紙を貰った話。
とても好い人だった。この誕生日の人に幸せな人はいないと思っていたのに。

10月
『雀』
復員してきた幼馴染から聞いた話。戦時の暴力の「二日酔い」を日本で見せてしまった嘆き。戦争は悪いものだ、という言葉が確かに肉を帯びる。

11月
『たずねびと』
あの時の乞食は、私です。
雑誌に投稿された、戦争の際に自分を救った恩人に対するメッセージ。投稿された文章の形で進むのが面白い。
『薄明』
甲府疎開のスケッチ。

12月
『日の出前』昭和17年10月の『花火』を改題発表

『男女同権』
おっさんが演説をしながら話題が逸れていく、チェーホフみたいなモノローグ。

『親友交歓』
訪ねてきたヤベェ友人に応対する私。

昭和22年【1947】

1月
『同じ星』1月1日
同じ年、同じ誕生日の詩人と飲んだ話。
『新しい形の個人主義』1月1日
新しい主義を肯定せねば。
『織田君の死』1月13日
織田作之助の死へ。
『『猿面冠者』あとがき』1月20日
短篇集のあとがき。『新ハムレット』のクローヂヤスについての言及がある。
『トカトントン』
何かに夢中になりかけるとトンカチの音が聞こえてきて、たちまち冷めてしまう男の、助けてくださいという手紙。虚構。
『メリイクリスマス』
久しぶりに再会した知人女性の娘と、恋の勘違い。変わったもの、変わらないものの重さが染みる短編。

3月
『母』
若い生意気な友人・小川くんの家に泊まった夜の事。妙に艶めいた女中を見て、この家は宿だけではない、などと邪推していた所…夜、隣室から声が聞こえてきて…。

4月
『父』
父がいるから子が育たぬ、と己の罪業を背負いながら、それでも地獄の思いをしてまで遊んでしまう自分。

5月
『女神』
友人が突然、お前は兄弟だ、俺の妻から生まれた兄弟だ、と言って訪ねてくる。
私はその妻のもとにとりあえず彼を送り届けようとするが…。

6月
『『姥捨』あとがき』6月10日
過去の生活がひどい集。
『『パンドラの匣』あとがき』6月25日
出版事情に触れるあとがき。

7月
『フォスフォレッスセンス』
夢と現実は続いている。
『朝』
夜這いの危機。危険なのはお前だ。
『『ろまん燈籠』序』7月10日
甘い作品を集めたよ。

10月
『おさん』
疎開から帰って夫と暮らし始めた妻。女の影が見える夫にやきもきしながらも、どうせならどっちも幸せにするように振舞え、と前向きな精神を見せる。が、ラスト…。革命はもったいぶらず、考え方一つでがらりと変えるもの。
『『女神』あとがき』10月5日
わりと軽いタッチの物を集めたよー。

11月
『わが半生を語る(文学の曠野に)』11.01
太宰治が語るその半生。生きづらさが文字の間からこぼれ落ちる。
『小志』11月17日
死んだら良いパンツを履かせてね、妻よ。

12月
『斜陽』
あらすじなどはこちらのリンクへ。

昭和23年【1948】

1月
『犯人』
金が原因で、思うように恋人と過ごせない男が、姉に金を借りに行き、断られ、逆上し、包丁で刺す。
世間から逃げ回った挙げ句、服薬自殺。
姉は死んでいなかった。若干、『罪と罰』感?
『饗応夫人』
どんな無礼を働かれても誇り高く客をもてなす夫人を、その女中の視点から語る女性独白体。
『酒の追憶』
冷や酒がぶ飲み、チャンポンの恐ろしさなど酒の恐ろしさを描く。丸山定夫との飲みエピソードには心暖まる。戦時下の、人の暖かみ。

3月
『美男子と煙草』
先輩文学者にへこまされる太宰。
上野の浮浪者見物に連れていかれる太宰。
妻のマジボケ。
『眉山』
行きつけの飲み屋のトシちゃんという女中を煙たく思いながらも「眉山」と呼んで馬鹿にし、話のタネにしていたが、やがて姿を消した彼女を思う。切ない。

4月
『女類』
私は女を殺しました、という告白から始まる。編集者の私は屋台のおかみと好い仲になるが、担当する作家からその関係をボロクソに言われ、女の愛を試す意図もあって女に別れ話をするのだが…。
『渡り鳥』
えらく軽そうな編集者の男が、色んな人におもねりつつ「マネしてなんぼ」と文学論をぶち、飲み代の借金を鮮やかに人に払わせる。心の声、みたいな書かれ方をしてる地の文が面白い。

5月
『桜桃』
夫婦の話。涙の谷。子供よりも親が大事。
ほとんど必死で、楽しい雰囲気を創る事に努力する。悲しい時に、かえって軽い楽しい物語の創造に努力する。

7月
『黒石の人たち』
黒石に行った時に出会った色んな人たち。思い出。
じいさんに叱られたのが嬉しい。

『豊島與志雄著『高尾ざんげ』解説』
おそらく『高尾ざんげ』新潮文庫への解説か。
教養人、とは。

8月
『家庭の幸福』
ラジオで政治家の演説を聞いて頭に来た、という所から想いを政治家の家庭にはせ、さらに家族を大切にする男を空想し、それゆえに人に無慈悲になってしまう結果他人に哀しみが起こる、という所にたどり着き、
家庭の幸福=諸悪のもと、と結ぶ。鮮やか。

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