見出し画像

お迎え

先日、私の家の前で、女子中学生たちが数人集まってこんな話をしていました。

近所に、とある交差点があります。
4メートル幅の道が交差する、十字路と言った方がいいような小さな交差点ですが、小学校の通学路になっていることと幹線道路の抜け道となっていて、朝夕の車通りが多いため、信号機と横断歩道のほかに歩道橋まで設置されています。

その歩道橋の階段下には、近ごろは珍しくなった公衆電話の電話ボックスがありました。
その電話ボックスに幽霊がでるという噂が中学校で広がっているのだとか。
午前2時を過ぎるころになると、無人の電話ボックスから女の話し声が聞こえてくるというのです。

「そんでな、ウチの部活の先輩のお兄さん、大学生なんやけど、その人がすんごいこの噂に食いついてさぁ、俺がその幽霊の正体をあばいちゃる。
動画に撮ってYou Tubeにあげちゃるんじゃ、言うて夜中ひとりで行ったらしんよ」

しかし、そう都合よく幽霊が出てくれるわけもなく、明け方4時ごろまでねばりましたが、ついに何の怪異もおこらなかったそうです。
ところがこのお兄さん意地になったらしく、絶対に幽霊を撮るんだと、それから毎夜、電話ボックスに通い始めました。

そして、その思いが通じたのか、6日目か7日目の夜ついに幽霊が現れました。
噂どおり、午前2時を過ぎたころ、電話ボックスから女の声が聞こえ始めたそうです。
最初は小さなつぶやきのような声でしたが、しだいに大きくなり離れていてもはっきりと聞こえるくらいになりました。

何を言っているのか、内容まではわかりませんが、若い女性が電話でなにか話しているような感じです。
電話ボックスの中に人影はありません。
ただ。女性の話し声だけが聞こえてきます。

お兄さんはとても怖かったのですが、女性の声がやけに明るく快活な感じで喋っていることもあって、勇気をだして近づいて行ったそうです。
スマホを構えながら恐る恐る寄って行っても、話し声はまだ聞こえています。

ボックスの扉の前に立って、思い切ってドアを開けようと手を伸ばしたしたとき、女性の話している内容がわかったそうです。
「あ、お迎えが来たみたい。それじゃあネ」
その声と同時に扉を開けましたが、もちろん誰もいません。

そのあとは女性の声はしなくなり、ただ青白い蛍光灯に照らされた電話ボックスがあるばかりです。
お兄さんは改めてゾッとして、慌てて逃げ帰ってきたのだとか。

「それで動画はうまいこと撮れてたん?」
「ううん。誰もおらん電話ボックスの映像や、お兄さんのたてる物音とか声はとれてるんやけど、肝心のの声は全然入ってなかったんやて」
「うわぁ、ダメじゃん」

「でな、このごろはな、部屋の中や車ん中なんかで、お兄さんが一人でおると、耳元で急にあの女の声がするんやて。明るい声で話しかけてきたり、笑ったりするらしいわ」
「あ~、それアカンやつや~」
「完全についてきてますねぇ」
「お迎えって言うとったんは、お兄さんのことやったんや~」
彼女たち一同、大爆笑でこの話題は終わったのでした。

初出:note 2022.12.28


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?