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怪しの話

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You Tubeのの星野しづくさんのチャンネル「不思議の館」と、ツイキャス(You Tube)の「怖い図書館」に投稿した、不思議な話や怖い話をほぼ週1回のペースで掲載しています。
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記事一覧

これはYさんという50代の男性から聞いたお話です。 Yさんが40代だったある年の6月のことです。 その日、朝のうちはよく晴れていて、天気予報でも雨の確率が低かったので、Yさんは傘を持たずに出勤しました。 しかし、午後から雲行きが怪しくなりはじめ、彼が仕事を終えて自宅の最寄り駅に着いた午後9時頃には、雨は本降りになっていました。 駅から自宅までは歩いて15分ほど。 タクシーのりばを見ると、数人の列ができていましたが、タクシーは一台もいない状況でした。 列に並ぶか、濡れる

今回は昔、大阪のとあるバーで働いているK子さんという女性から聞いたお話です。 K子さんは高校卒業後、地元の会社に就職しましたが、肌に合わず、2年ほどで退職して大阪に出てきたのだそうです。 たいしてお金もなく、かといって別に新しい就職先の宛もなかったK子さんは、とりあえずの働き口として水商売を選んだのでした。 彼女は店にほど近い安アパートの一室を借りて、そこで暮らし始めました。 各階3部屋ずつの2階建てアパートで、K子さんは2階奥の角部屋でした。 古いアパートでしたが間取

二階の窓

今回は数年前に、とある蕎麦屋でノゾミさんという40代の女性から聞いたお話です。 ノゾミさんが大学時代のことです。 彼女は、住宅街の一角にある学生マンションに住んでいました。 周辺は古い一戸建ての住宅が多く、狭い道路と用水路が縦横に交差する、昭和の面影が残る街並みでした。 マンションを出て、いくつか角を曲がると、歩いて10分とかからずにコンビニやスーパーのある大通りに出られます。 そんな大通りへの道の途中に、T字路が一箇所ありました。 そのT字路を右へ曲がって少し行くと、最

スナックよみぢ

10年ほど前、とあるバーのカウンター席で、隣で飲んでいた中年の男性がこんな話をしていました。 その男性(仮にYさんとしておきます)は機械修理の仕事をしているらしいのですが、ある日、県北の町に出張にいったときのことだそうです。 当初は日帰りの予定でしたが、近くの事業所からも修理以来があったので、ついでにそちら寄ってほしいという連絡が会社からあり、その日は急遽一泊することになりました。 途中で軽く食事を済ませ、Yさんが小さなビジネスホテルに着いたのは午後8時頃。 フロントで

深夜の交通誘導

この話は数年前、我が家の前の道路工事現場で交通誘導をしていた警備員のおじさんから聞いた彼の体験談です。 そのおじさん(仮にAさんとしておきます)が30代だった、ある年の夏のことです。 彼は、とある道路工事現場の交通誘導にあたることになりました。 指示された現場は片側が崖、片側が山の二車線の道路でした。 片側交互通行の誘導ですが、道が崖側に大きくカーブしている箇所で、見通しが悪いために、Aさんのほかに若いBくんと年配でベテランのCさんの、3人体制で誘導にあたることになったの

肩の両手

今回は昔よく通っていた喫茶店の常連客の男性から聞いたお話です。 その男性(仮にAさんとしておきます)が30代だった1978年(昭和53年)6月のことです。 その日Aさんは出張のため東京に来ていました。 午後9時頃に仕事を終えたあとは、同僚たちと2軒ほど居酒屋を回り、気づけば時刻は午前零時近くになっていました。 ホテルへと戻ろうと、同僚たちと別れて、西日暮里の駅に向かっていたAさんでしたが、ふと一軒のラーメン屋台が目についたのだそうです。 〈このままホテルに帰って、コンビ

お守り

これは私が小学校1年生の時のごく短い些細なエピソードです。 その日私は、同級生のMくんといっしょに自転車遊びをしていました。 ふたりとも自転車に乗れるようになって、まだまもない頃のことでしたが、この時期は乗れば乗るほど運転技術が上達していく頃でもありました。 遊んでいるうちに自然と二人乗りができるようになり、ふたりとも嬉しさで夢中になって、ひとつの自転車をとりあうようにして漕ぎ回っていました。 そうやって遊んでいた、何度目かの二人乗りのときのことです。 Mくんの運転で、

角を曲がる女

今回は先日、病院の待合で偶然会った知人から聞いた話です。 事の起こりは、彼(仮に田中さんとしておきます)が20代のはじめ頃、今から40年ほど前のことです。 その日田中さんは、隣の市にある喫茶店で友人と会う約束があり出かけたのですが、途中で道に迷ってしまいました。 携帯電話がまだない頃のことです。 田中さんは友人から聞いた大まかな住所と、喫茶店の名前だけを頼りに、見知らぬ街を歩きまわっていました。 待ち合わせの時間が迫り、焦る田中さんでしたが、ふと前を行く一人の女性に目がと

翳りゆく部屋

これは荒井さん(以下すべて仮名)という50代の男性から聞いた、彼の若い頃の体験談です。 今から30年ほど前の春に、荒井さんはそれまで住んでいた1Kのマンションから、2DKの部屋へと引っ越したのだそうです。 引越し先は通称寺町と呼ばれている、閑静な町の一角にある新築のマンションでした。 荒井さんの部屋は四階でしたが、寺町という呼び名のとおり、窓からの景色は、高いビルが少なく、寺院の黒い屋根瓦があちこちに見える、昼間でも静かで落ち着いた雰囲気の一室です。 南向きに大きな掃き出

白星(シラボシ)

これはAさんという30代の看護師の女性から聞いたお話です。 5年ほど前の4月のある日のことでした。 その日は春らしい暖かな陽気で、仕事が休みだったAさんは近所の散歩に出かけたのだそうです。 近くの土手の道や公園などをのんびりと散策して、自宅のマンション近くに戻ってきたときのことでした。 とある一軒の家の前でなにやら人だかりができています。 なんだろうと思って覗いてみると、近所の主婦や老人たちが、家の門のあたりにずらりと並べられた花や植木の鉢を、あれこれと吟味していて、ち

長屋のはな見

今回は建設作業員をしている、Uさんという50代の男性から聞いた、彼の若い頃のお話です。 昭和50年代の後半、Uさんは17歳で高校を中退して、家出同然で大阪近郊の街に出てきたのだそうです。 わずかなお金を持って飛び出してきたUさんでしたが、住む場所も働き口のあてもなく、駅前の牛丼屋でとりあえず空腹を満たしつつ、これからどうしようかと考えていました。 そんなUさんに声をかけてきたのは、牛丼屋で隣に座っていた建設会社社長のYさんでした。 Uさんの事情を聞いたY社長は、うちで働い

4月1日の贈り物

これは数年前、Sさんという30代の女性から聞いたお話です。 事の起こりは2012年だったといいます。 その年、Sさんは大学を卒業して、某有名企業への就職が決まりました。 そして、大学時代は実家から通学していましたが、就職を期に新たにマンションを借りて一人暮らしをすることになったのだそうです。 3月中旬に引っ越しを終え、ようやく全ての荷物の荷解きを済ませて一息ついた4月1日のことです。 その日は日曜日で、Sさんは翌日の初出勤を控えて、緊張と期待の入り混じった落ち着かない心持

トーテムポール

今回は私が通っていた小学校の思い出話です。 その小学校は1893年、明治26年創立の古い学校でした。 学校の敷地の北側には広い県道が通っていて、私が通っていた当時は、学校の正門はその県道に面した側にありました。 正門を入るとすぐ右側に、二宮尊徳像があり、その背後には木造の講堂が建っていました。 学芸会や映画鑑賞会、入学式や卒業式のほか、室内運動場として体育館がわりにも使われていた大きな建物です。 その講堂の北側、学校のブロック塀との間に、庭とも呼べないようなわずかなスペ

ダッコちゃん

これは昔、私よりも10歳以上年上の従姉妹から聞いた、彼女の職場の先輩の話です。 時代は昭和36年…1961年3月のある夜のことです。 その先輩(仮にA子さんとしておきます)は、怒りながらひとり自分の部屋の片付けをしていました。 それというのも、ついさっき一年ほど付き合った彼氏と別れたばかりだったからです。 彼氏(B夫くんとしておきます)の、付き合うほどに目立ってきた偉そうな物言いや、A子さんへの強い束縛、それに反していざとなったときの頼りない態度などなど、これまでずっと我