見出し画像

医療コンサルの活用方法

医療機関や介護施設でも「コンサル」が広まり、今では一つの組織に複数社のコンサルが入っているところも少なくないでしょう。しかしながら、必ずしもうまく活用しきれていないところが多いな、と感じています。そこで、本稿ではコンサルタントの経験を経て、病院の事務部長になった筆者から、コンサルをどう活用するといいのか、お伝えします。

筆者の背景
本論の前に、筆者のバックグランドをお伝えします。大学を卒業して最初に勤めたのが、日本の医療コサルティング業界では歴史が長く、規模も比較的大きい会社です。そこで3年間の経験を積み、紆余曲折の末、独立してフリーランスで医療機関向けのコンサルティングを3年間行いました。次の3年間は経営アドバイザーという役職で、コンサルティング会社から常駐型で急性期病院に出向しました(いわゆるハンズオン型)。その後、現職の谷田病院の事務部長として着任し、7年目になります。これまで関わってきた医療・介護機関数は50近くです。こうした背景があるからこそ見えてきた、コンサルの活用方法をみていきます。

コンサルを導入する目的は何か
まず「そもそもなぜコンサルにお願いするのか」ということを考えてみることが重要です。当たり前なことで「目的くらい明確になっているよ」と言われるかもしれません。収益増のため、材料費削減のため、雰囲気活性化のため、電カル導入のため、建替えのため、などの目的です。しかし、ここで考えてもらいたいのは、その目的を達成するうえで、その組織にとって「どの力が足りていないのか」ということです。
より具体的に考えると、目的を達成するにあたり回るはずの“PDCA”のうち、どこで根詰まりが生じているのか。P(PLAN:計画)はより詳細に「問題発見(分析)→解決策立案→計画策定」と分解しておきます。D(DO:実行)は策定された計画を動かすこと。C(CHECK:評価)A(ACTION:改善)は、実行をルーチン業務として組織内に定着させていく過程としましょう。
このプロセスのうち、どこを支援してもらいたいのかによって、どのようなコンサルを使うべきなのか、が変わってきます。そこがずれてしまうと「高いお金を払ったのに、コンサルは使えない」という残念な結果になってしまうケースを山のように見てきました。
例えば、増収を達成するためにコンサルにお願いするとしましょう。一般的に各種データが分析されて“PLAN”が提示されます。しかし、厚労省が診療報酬という仕組みで管理している日本の医療制度の下では、「どのように改善すればいいのか」は業界誌や学会のような場で発表される他院の成功例を見れば、計画策定はそれほど難しくありません。“コンサルにお願いすればきっと当院に特別な問題を発見してくれる”と期待して高いお金を払うのですが、膨大なデータを要求されて出てくる結果は「そんなこと知っているよ」という内容になってしまいます。組織内で増収に関するPDCAが回らないのは“増収計画”がないのではなく、その計画を“実行する力”が欠けているからだとしたら、PLANを改めて作ったところで実行は促進されません。計画で行き詰っているのか、実行で止まっているのか、その後のルーチン化ができていないのか、それによって、どのようにコンサルタントに関わってもらうかが変わってきます。

コンサルの種類
続いて、どんなコンサルを選ぶのかという視点で、コンサルのタイプを分類します。1つは①コンサルファーム型のコンサルです。筆者が最初に所属したような会社で、何人ものコンサルタントを雇っており、さまざまなタイプのコンサル案件を請け負っています。規模がある分、実績や社歴は長いのが特徴ですが、人がたくさんいるのでどの人が担当になるのかによっても成果が大きく変わってきます。
次に②フリーランス型のコンサルです。さすがに、独立してやるので経験を有した人が中心に活動しており、専門的な知識やネットワークが豊富だったりします。しかし、少人数で対応するのが一般的で、手とり足とり的な組織内の細かい動きをサポートしてもらうには力不足な面があります。
3つ目は③ハンズオン型のコンサルです。経営顧問、アドバイザー、M&A、人材派遣など形は様々でも、ほぼ常駐型でコンサルが配置されるタイプです。日々院内にいるため、いろいろな支援を受けられますが、うまくいくかどうかが配属された人材に依存するのがこのタイプです。完璧にこの3区分に分類できるわけではなく、一部は重なるところや、担当するコンサルタントによって変わることはあるでしょう。コンサルを選定するときの視点として考えてください。

目的に合ったコンサルを選ぶ
先述の目的と照らし合わせて、“PLAN”をやってもらいたいのであれば、①や②のコンサルが適しているでしょう。特に、タイムスタディなどかなり人手が必要な調査の場合は①の方が無難です。また、経営層や本部、自治体病院で議会、金融機関などに対して“厚めの第三者の報告書”が必要な場合は、他施設で使用したフォーマットをたくさん持っている①が適切です。ただし、①に所属するコンサルタントの多くは“DO”を現場で実際にやってみたことのある人は少ないので、提案書の解決策に並べられる項目は教科書的になってしまいがちです。
もし、その後の“DO”のプロセスを重視しており、体裁は特にこだわらない(薄い1枚の提案書でも構わない)のであれば②の方がいいでしょう。②のコンサルタントは医療現場などで実際に実行をしたり、相応の経験を有している人の場合が多いので地に足着いた提案をしてもらえる可能性が高いです。
PLANではなく“DO”ができていない組織の場合は、①や②ではなかなか難しいです。提案をしてもらっても実行する力が組織としてないわけで、一緒になってやってもらうしかありません。この場合は③であったり、現場にどのくらい入って一緒にやってくれるのか、が重要になります。②は知識や経験はあっても人手が少ないため病院にいる時間は短くなりがちです。①はそもそも実行したことがある人が少ないうえ、一人のコンサルタントが複数の案件を掛け持ちしているため、なかなか現場に来られない場合が多いです。どちらにしろ、実行を共にするわけなので、“PLAN”を依頼する場合よりも担当するコンサルタントの性格や手法が組織と合うか、ということがプロジェクト成功の大きなカギとなります。選定段階で「誰が」「何日」現場に来るのかを明確にすることをお勧めします。営業プレゼンの場には、デキそうな人が来るが、実際に担当するコンサルタントはレベルが低かった、という話もよくあります。プレゼンの際には担当者を同席してもらい、事前にコミュニケーションをとるといいでしょう。

以上のような視点で目的を明確にし、コンサル選びをすれば、きっと望んでいる成果を出しやすくなるでしょう。経営改善に限らず、コスト削減や電カル導入、建替えなども全く同じ視点で評価できます。過去に悪い経験をして、コンサル嫌いになっている病院も多いと感じています。しかし、活用の仕方を間違えなければ有用であるのは間違いないでしょう。たとえ、内部でできることでも、外部から指摘された方がスムーズにコトが進む場合も多々あります。外部リソースもうまく使いつつ、経営理念の達成をしていくことが経営者に求められることです。

筆者が所属する谷田病院の幹部で設立した医療環境総研株式会社では、実際に病院の現場を知り、育成された人材が経営支援を行っています。診療所や介護施設から中核病院まで、医療や介護の経営のことであればご相談ください。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?