プロポーカープレイヤーだった私がメンタルコーチになった理由 part2 ~スカイステークスへの道と人生最大の逆境~
こんにちは。
マナベツバサと申します。
海外で「プロポーカープレイヤー」として活動後、今現在は日本で「メンタル・パフォーマンス・コーチ」としてコーチングを職業としています。
前回は、私が「プロポーカープレイヤー」として活動を始める直前までをまとめました。
前の記事:『プロポーカープレイヤーだった私がメンタルコーチになった理由 part1 ~ポーカーとの出会い~』
「プロポーカープレイヤーの世界へ」
大学を卒業と同時に「Pokerstrategy.com」とのスポンサー契約を結び、私は名実ともにプロポーカープレイヤーとしての本格的な活動を開始させました。
大学在学中の3年半の間で安定して$10/$20ドルのレートでプレイできるようになっていた私は、学生時代にはできなかった$25/$50の壁を超えるために時間をつぎ込めることや、トーナメントで世界をまわれることにワクワクしていました。
PokerStrategyの日本コミュニティのアンバサダーも担当し、在学中には出来なかったトーナメントの参加にも尽力、バルセロナ、ロンドン、ラスベガスなどヨーロッパや北米を中心に様々な場所を回りました。
プロポーカープレイヤーとしてトーナメントに挑戦し続けるという経験は私にとって貴重なもので、得るものが多かった1年間でした。
しかし一年間トーナメントをまわってみて、期待していたほどの結果が得られず、またキャッシュゲームの方も勉強にまとまった時間が取れないまま$10/$20で停滞していたことから、オンラインキャッシュに専念することを決断。
その後将来性を見据えてPLOにも移行し、順調に~1年で$25/$50のレートに到達することができました。私にとっては一定の環境下で集中して勉強できるオンラインキャッシュの方が向いていたという事だと思います。
オンラインに移行してからは、お金を稼ぐことよりも、とにかく強くなることに力を注ぎました。
ポーカーでは、稼ぐことの難しいプロ同士の戦いを避ける人も多いのですが、あえて短期的な金銭面での損失を度外視し、自分よりも実力のある相手に挑むことで経験を積むことも避けませんでした。(まあ、そのおかげで不必要にかなりの額を負けましたが。。。)
今振り返ると、そういう無謀とも言えるプロセスを踏んだからこそ、憧れの世界で戦うことができたと思います。
そして2012年から、ついに当時のオンラインキャッシュ最高レート(~$200/$400)のテーブルに座ることになります。
スカイステークスと呼ばれる、最も強いプロ達が戦う世界です。
常に利益を出せるエッジがあるとは感じてはいたものの、スカイステークスは自分にとって憧れのオリンピックのような場所です。
全力を出し切っても辿り着けるとは想像していなかったため、実際にプレイできることにワクワクすると同時に、「本当に辿り着いてしまったのか?」というどこか信じがたい気持ちもありました。
しかしここからの戦いは、これまである意味順調にレートを上げていけた私にとって、本格的な試練の始まりでもありました…。
「本格的な試練の始まり:ティルトとの戦い」
スカイステークスでプレイし始めてから、それまでは~数百万だった1日の勝ち負けの幅が1~2千万を超えるようになり、メンタルの負荷が急激に増えるようになりました。
金額の大きさに意識が向いてプレイに影響が出ることがあったり、負けが重なると早くその分を取り返したくなったりして、判断が鈍るということが起きるようになりました。ちなみに、このような状態のことをポーカーの世界では「ティルト」と呼びます。
心理的な影響は、些細な認知バイアスの話のことが多く、明らかなミスではない場合も多いのですが、スカイステークスでは、勝てるプレーヤーと負けるプレーヤーの境目になったりもする重要な要素です。
この「ティルト」をどう扱うかが、プロポーカープレイヤーとしての私の命題でした。
冷静な判断が必須だと分かっている状況でも、プレッシャーがかかるとそれができなくなるのが人間の難しいところです。
Jared Tendlerといった有名なメンタルコーチやスポーツ心理士のコーチングも受け、彼らのコーチングにはどこか違和感を感じつつも必死に内容を実践しましたが、結局「ティルト」の解決には至りませんでした。
例えば、練習で常に9秒台のタイムを出せる陸上選手が、本番では全く実力を発揮できないという事があったとします。
私の受けたコーチングは、本番でも練習と同じようなメンタルを持つ事の重要性を説くワケですが「それを実践するにはどうすればいいのか」といった解決方法の具体的な提示はありませんでした。
簡潔に表現すると、陸上選手に「本番で緊張する必要もないし、してしまうと結果も悪化するから、なぜしない方が良いかを徹底的に頭に叩き込んで納得しましょう」と指導するアプローチです。
しかしこのように頭で分かっていることを全て実践できるのであれば、こんなにメンタル面で悩む人はいないですよね。
今でこそ「メンタル・パフォーマンス・コーチ」として、その課題の解決方法を知っていますが、その当時はティルトをどう扱うべきか、本当に頭を悩ませていました。
「1日で4000万円以上の損失」
そうした中で、人生で最も衝撃的な出来事が起こりました。
24時間で35万ドル(当時のレートで4000万円以上)を失ってしまったのです。
当時のことは、今でもはっきりと覚えています。
その日は、午前中から、いつも通りキャッシュゲームを始めました。
まず$50/$100のレートのPLOで10万ドルの損失。額は大きく感じますが、スカイステークスではありうる金額のマイナスです。
その後、普通にプレイを続行。一時その金額分を取り戻しましたが、そこからまた10万ドル程度のマイナス。
プレイの質は悪くなかったと思いますが、先ほども言った通りこのレートでは、この程度の上下は日常茶飯事。普段であれば、単なる1日として捉えることが出来たはずです。
しかしプレイを続けている内に「なぜ取り返した時点で止めなかったんだろう」、「もう一回取り返してやる」などと考え始め、気づかない内にメンタルがブレ始めました。悪戦苦闘しながらも、致命的ではない程度の損失でその日は一旦プレイを終えました。
しかし、残念ながら私の衝撃的な1日は続きます。
高レートのテーブルは普段あまり立つことがないため、そうしたテーブルが立った時には時刻に構わず連絡をもらえるよう私は普段から手配していました。
その日に連絡がきたのは深夜になります。
日中のプレイのせいで、その日はいつも以上に疲れており、冷静な判断が出来ていればプレイすることはなかったかもしれませんが、その時はなぜか再開してしまったのです。
テーブルに着いた瞬間から違和感はありました。しかしそれを無視してプレイし続けた結果、運の要素も相まって格下のプレイヤー相手にさらに数万ドルを失います。
そこで自分の中の何かがプツンと切れました。
テーブル数を増やす、格上の相手に勝負を挑む、最適なプレイじゃないと分かっていても分散の高いプレイを選んでしまう、など冷静な判断を完全に捨てて感情に飲み込まれました。
結果、その日のゲームは朝まで続き、気づけば私はバンクロール(自己資金)の約三分の一を失っていました。
このティルトがもたらした出来事が、私の人生にとっての大きなキッカケとなり、今現在「メンタル・パフォーマンス・コーチ」としての活動につながっているのです。
次の記事(『プロポーカープレイヤーだった私がメンタルコーチになった理由 part3 ~ティルト克服への道~』)に続く
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