スーパーのレジにて レジ待ちの女性編 【超短編小説/日常】スキマ小説シリーズ 通読目安:6分

私は苛立っていた。

スーパーのレジ打ちが遅く、かれこれ5分ぐらい、ほとんど動かない。

(まったく・・・ やけに時間がかかるわね・・・)

今日は疲れている。
仕事が忙しかったうえに、取引先から今日休みの担当者のクレームを受け、君は女だから分からないかもしれないがと、意味不明なとばっちりを受け、そのせいで自分の仕事が遅くなり、上司にぶつぶつ言われ、
それでも何とか終わらせて会社を出た。

昨日、一昨日と遅かったから、今日は早く帰って休みたかった。
今日は料理もする気もなく、サっと買い物を済ませ、帰ったらシャワーを浴びて、夕食を食べながら好きなお酒を飲み、海外ドラマの続きを見る・・・
そのために、イライラしながらも仕事を終わらせたのに・・・

(何なの・・・
 ・・・見たことないわね、あのレジの子・・・
 新人かな・・・ よりによって早く帰りたいときに・・・)

今レジの前にいるお客は、意地が悪そうな顔をした中年の男で、袋への入れ方に文句を言っている。
男が何か言うたびに、レジの女性は頭を下げる。

通常ここのスーパーは、新人がレジ打ちの場合、先輩がフォローに入っているが、一人でやっているところを見ると、人が少ないか、他で手を取られているのだろう。

(まだやってる・・・
 あのおじさんも問題ね・・・)

新人でも、お客からしたら関係ない。
それは確かにそうだ。
けど、ああして見ると、もう少し余裕を持って接してあげればいいのに、と思う。

(そういえば私が新人のころも、何度も失敗して怒られたっけ・・・
 もう5年も前か・・・)

ようやく中年の男が終わり、前に進んだ。
だが、順番が回ってくるまでに、あと4人いる。

(・・・あのおじさんを見てて不快になったけど、私も後輩に強くあたってしまうことあるな・・・
 今も、もしさっきのおじさんを見る前にレジに行ってたら、もしかしたら・・・)

そう思うと、いたたまれない気持ちになった。

早く帰りたいと思うこと、早く処理してほしいと思うことが悪いとは思わない。
イライラするのも、しょうがないかもしれない。
けど、それで彼女を責めるのは違う気がした。

「いらっしゃいませ。
 お待たせしてすみません・・・」

「・・・!」

ようやく自分がレジの前まで来ると、その子は言った。
顔を見ると、目に少し涙が溜まっている。

「・・・ゆっくりでいいわよ・・・」

「え・・・?」

「焦らないでいいから、ゆっくりやればいいの。
 変な人もいるけど、気にせずに目の前のことに集中して」

「はい・・・
 ありがとうございます・・・!」

(私も、その変な人になりかけたけどね・・・)

「ありがとうございました。
 またお越しください」

深々と頭を下げるレジ打ちの女性に、がんばってねと呟くと、私はスーパーを出た。

いいことをしたとか、そんなことを言うつもりはない。
ただ、もしあのまま文句を言っていたら、きっと家に帰ってから後悔したと思う。
だからこれは、自分のため・・・

「さ、帰ってシャワー浴びてドラマ見よ」

私は会社でのことも忘れて、家に向かった。

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