スーパーのレジにて レジ打ちの女性編【超短編小説/日常】スキマ小説 通読目安:5分

私は焦っていた。

三日前からスーパーでバイトを始めて、今日は初めてのレジ打ち。
ここから逃げ出したい気持ちを抑えて、足の震えを感じながら、レジでお客様を迎える。
怖いけど、先輩がいてくれるから大丈夫・・・

「おい、そうじゃねぇだろ!
 それを下にしたら潰れちまうだろうが!!」

「申し訳ありません・・・!」

先輩は、欠員が出たためにそちらのフォローに追われており、何かあったら呼んでと言い残し、私はレジ打ち初日にして、一人で対応することになってしまった。

「早くしろよっ!!
 まったく、どんくさいな・・・
 うちの会社の新人より使えない・・・」

「申し訳ありません・・・」

怖い・・・

ダボダボのスーツを着たその男性は、すごい剣幕で言葉を浴びせてくる。

「・・・」

涙が出そうになる。
でも、泣いてる場合じゃない・・・!

すぐに対応しようとするのに、手が震える。
落ち着こうとするほど、焦ってしまう。

(レジ打ちの操作は教わった・・・
 大丈夫、できる・・・
 落ち着いて・・・)

何とか袋に詰め終え、男性のほうに差し出すと、舌打ちをして行ってしまった。
レシートを渡していないことに気づいたが、もう渡してる時間はない。

「ちょっと、早くしてくれる?」

レシートをどうしようかと思っていると、こわばった表情をした、30過ぎぐらいの女性が言った。

「あ・・・ 申し訳ありません」

「はぁ・・・
 あんたみたいな子を一人でレジ打ちさせるって、どうなってんの、ここのスーパー」

「すみません・・・」

欠員がでて・・・ と喉まででかかったが言わなかった。

(やっと決まったバイト・・・
 クビになるわけにはいかない・・・!)

目に涙が溜まっているのは分かっている。
でも、仕事さえちゃんとすれば・・・

「いらっしゃいませ。
 お待たせしてすみません・・・」

レジの前々に来た、さっきの女性より少し若い雰囲気の女性が、チラりとこちらを見た。

「・・・!」

「・・・ゆっくりでいいわよ・・・」

また何か言われると、思わず身体を縮こませた瞬間、その女性は、他のお客さんには聞こえないぐらい、小さな声で言った。

「え・・・?」

「焦らないでいいから、ゆっくりやればいいの。
 変な人もいるけど、気にせずに目の前のことに集中して」

「はい・・・
 ありがとうございます・・・!」

さっきまでとは違う涙が出そうになるのを必死に堪えて、何とか言葉を絞り出した。

「ありがとうございました。
 またお越しください」

深々と頭を下げると、その女性は、がんばってねと呟いて、行ってしまった。

嬉しかった。

憐れまれただけかもしれないし、怒る価値もないと思われたのかもしれない。
それでも・・・ 嬉しかった。
緊張と不安と恐怖で、こわばった心と身体が、解されていく気がした。

「ねぇ、待ってるんだけど?」

「あ、すみません、すぐに・・・」

きっとまた失敗するし、お客様からお叱りを受ける。
でも、きっと今日はがんばれる・・・

「ありがとうございました。
 またお越しくださいませ」

私はきっと、がんばれる・・・!

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