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赤い雨 【短編小説/ホラー】スキマ小説シリーズ 通読目安:7分

体調が悪い・・・

どうやら風邪を引いたらしい。
理由は明白だ。
先日、仕事が終わって家に帰る途中、突然雨に降られたからだ。
それだけなら特に問題はない・・・
いや、問題がないわけではないが、今回は気になることがある。
それは、降ったのが、赤い雨だったからだ。

ニュースでは、その雨の分析は今も進められているが、人体に悪影響はないということだったから、安心していたが・・・
ネットでは、違う情報もある。
俺と同じように、風邪のような症状が出ている人もいるらしい。

いや、といっても、大丈夫だろう。
以前、インドでも赤い雨が降ったという記事を見たことがあるが、死者は出ていないはずだ。
気にしすぎだろう。


「ゲホ・・・ ゲホ・・・」

二週間が過ぎた。

風邪はまだ治らない。
妙だ・・・
テレビのニュースでは、もう話題になることもない。
だがネットを見ていると、俺と同じように治らない人もいるらしい。

どうなってる・・・

一週間以上経っても治らないから、こないだ医者にいって薬をもらったのに、一向に良くならない・・・

これは風邪じゃないのか・・・?
なぜ俺は良くならない・・・?
なぜ咳がとまらず、頭痛がするんだ・・・?
近頃は、おかしな声まで聞こえる・・・
誰かに見られている気もする・・・

もしかして、あの赤い雨は・・・
だとしたら・・・

俺がおかしくなったのか・・・?
いや、そんなはずはない・・・
あの赤い雨に濡れてから、何かがおかしい・・・
俺のせいじゃない・・・ やっぱりあの雨には何かがあったんだ・・・

このままじゃ・・・ 俺はきっと死ぬ・・・
でも死んでも、きっと風邪で片付けられる・・・
そうはいかない・・・ そうはいかないぞ・・・
俺は知ってるんだ・・・


「ああ、浅間さん。
 どうですか? 体調は。
 まだよくならない?」

「先生・・・」

「はい?」

ザシュッ!!

「・・・え・・・?」

浅間は、懐から包丁を取り出すと、躊躇なく、目の前にいる担当医の胸のあたりに向かって、包丁を振り下ろした。

「先生も奴らとグルなんだろ・・・
 赤い雨を降らせた連中と・・・
 俺は思い通りにはならないぞ・・・
 俺は・・・」

「浅間さん・・・ やめ・・・」

ザシュッ!!
ザシュッ!!
ザシュッ!!!


騒ぎを聞きつけた看護師によって、警察に連絡がいき、浅間は逮捕された。
彼の言い分はこうだ。

「赤い雨を降らせた連中は、いろいろなところに紛れ込んでいる。
 あの医者もグルだ・・・
 あの医者は、俺が疑い始めているのを知って、風邪だといって薬を出し、安心させて油断させたんだ・・・

 でも俺は・・・ 連中の思い通りには動かない・・・
 これは正当防衛だ・・・ そして、他の被害者のためでもある・・・」

浅間は、極度の心配性で、家の鍵を閉め忘れたかもしれないと、朝、家を出てから戻って確認して・・・という理由で会社に遅刻したことが、何度もあったらしい。

その極度の心配性が、赤い雨という、あまりない状況に遭遇して、風邪まで引いてしまったことで、妄想を大きくしてしまったと、警察は結論付けた。
体調が悪くなると、気持ちも弱気になりやすい。
元々心配性だった浅間のこと、かなり自分を追いつめてしまったのだろう。

「思い込みっていうのは怖いもんだな・・・」

捜査資料をまとめ終わると、担当の刑事はそう呟いた。

「ゲホッ・・・ ゲホッ・・・」

どうやら風邪のようだ。
もう二週間以上咳が止まっていない。
明日病院に行ったほうがいいかもしれない・・・


みなさんに元気や癒やし、学びやある問題に対して考えるキッカケを提供し、みなさんの毎日が今よりもっと良くなるように、ジャンル問わず、従来の形に囚われず、物語を紡いでいきます。 一緒に、前に進みましょう。