目撃者【執筆作品のバックストーリー Vol.2】

※Youtubeでオーディオ小説として公開している執筆作品のバックストーリーです。自分にとって印象深いものを取り上げていきます。

今回は『目撃者』という作品について。

この作品は、稲城京介シリーズでおなじみの有栖川警部が初登場する物語。
稲城シリーズではないため、稲城は登場しないが、有栖川が事件の捜査担当者ということで登場する。

『煙突の顔(https://note.com/byakusai/n/ncbc3531706b1)』を書いたあと、次は何を書こうかと思って、

「殺人事件を目撃した主人公、犯人、捜査する刑事の3者視点の話を書いてみよう」

という思いつきが出てきて書いたのが本作である。

前作『煙突の顔』は、主人公の一人称視点で書いたのに、いきなり3者視点などできるのか?とは思わなかった。
とにかく、思いついたことを形にしたいという気持ちが強く、そのままの勢いで書いた。

刑事役には、新たにキャラを作るのではなく、すでに設定が出来上がっていた有栖川に登場してもらうことにして、書き始めた。

この作品から、登場人物には名前が付与されることになる。
主人公は、不幸にも殺人事件を目撃してしまう、影山徹(かげやま とおる)。

殺人犯は、すでに何人もの女性を殺害している連続殺人犯、能登竜一(のと りゅういち)。

改めて設定を見直したところ、能登がなぜ殺人を犯すに至ったのかと、子供のころのことなどが書かれていて、少しビックリした(もっと雑な設定だと思ってた)が、話の概要、登場人物設定、本編が、メモ帳の1ファイルに書かれているのは、『煙突の顔』と同じである。

影山は、殺人を目撃したことを誰にも言えず、不安な日々を過ごし、能登は、目撃されたかもしれないと考え、目撃者を探し、有栖川は、未解決の連続殺人事件の犯人と同一犯ではないかと推測して捜査にあたる。

物語は、この3者の視点で進み、能登は、自らの不用意な発言によって有栖川に疑念を抱かせ、捕まったあとで一人、どうしてこうなってしまったのか考える……


当時、自分が犯罪心理学の本をすでに読んでいたか、それは覚えていない。
おそらく読んでいなかったと思う。

しかし、心理学が好きで、人間心理は興味があるので、殺人犯がなぜ残虐な事件を起こすのか、というところにも興味があって、いろいろな事件の話を読んではいた。

本作の犯人像は、そういった事件の記事で見た殺人犯の姿を、繋ぎ合わせて作り上げていったわけである。

能登のような快楽殺人者の考え方には、どんなに事件を見ても、犯罪心理学で犯罪者の心理を知っても、共感できるところはないし、理解もできない。
そして、共感する必要も、理解する必要もない。

しかし、自分が共感できなくても、理解できなくても、犯罪者はそう考える傾向があるというのは、受け止めるしかない。

きっと、残虐な犯罪を起こす人間でも、良心もあれば、じっくり話せば分かりあえると考えることのほうが危険で、良心もなければ、認知を歪めて、自分の行いをすべて被害者に責任転嫁する者もいる。

本作の殺人犯である能登は、捕まったあとに自分と向き合い、後悔しているように見えるから、まだマシなのかもしれない(だから許されるということではないが)。

嫌な話ではあるが、世の中にはそんな人間もいるのだという認識は、大切な人を守るためにも有用だ。


この話を書いたことで、いろいろな登場人物の視点で進めていくというやり方が、何となくだが分かるようになった。
そのことが、この次の作品である、百物語の夜に繋がっている。

『煙突の顔』のバックストーリーで書いたが、百物語の夜は、本来は煙突の顔より先に出るはずの作品だった。
そうならなかったのは、後半をうまくまとめられなかったことに加えて、複数の登場人物の気持ちを、うまく表現しきれなかったというのもある。

本作を書いたことで、一気に筆が進み、書き上げることができた。
そんなわけで、次回の執筆作品バックストーリーは、百物語の夜について書こうと思う。

本作『目撃者』に興味をもっていただけたなら、↓のリンクから聴いてみてください。

目撃者
https://www.youtube.com/watch?v=vC3u3bTd9Ng

みなさんに元気や癒やし、学びやある問題に対して考えるキッカケを提供し、みなさんの毎日が今よりもっと良くなるように、ジャンル問わず、従来の形に囚われず、物語を紡いでいきます。 一緒に、前に進みましょう。