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白髪鬼の夢 【短編小説/ゾクっとする/ミステリー】スキマ小説シリーズ 通読目安:10分

木村和久(きむら かずひさ)は、久しぶりにその夢を見て、嫌な気持ちで目覚めた。
子供のころから不定期に見る夢で、大人になった今でも、時々見ることがある。

その夢とはなにか。
子供のころ、白髪鬼というドラマを見た。
そして、もし、自分が死んだあと、棺桶の中で目覚めてしまったら・・・と想像し、怖くなった。
それ以来、不定期にその夢を見るようになった。

やがて、遺体は火葬されることを知り、その恐怖はなくなったが、同時に、別の恐怖が浮かんできた。
やはり同じように、棺桶の中で目覚めてしまい、生きたまま焼かれてしまうという恐怖だ。
こちらについては、今でも時々考えて、怖くなることがある。
友達に話したこともあるが、そんなことはありえない、おまえのその発想が怖いと言われただけで、共感はされなかった。

「またかよ、バカバカしい・・・」

昨日、久しぶりにその夢を見たことを、悪夢のことを知っている友人、江川に話した。
何でも話せる友人だが、こちらの意見に必ず同意してくれるわけじゃない。
しかし、だからこそ信用できる。

「あのなぁ和久、そんなものは、ただの夢だ。
 奥さんにもそう言われたんだろ?」

「まあな・・・」

「まあ飲めよ。
 くだらねぇこと考えてないでさ。
 最近、仕事のほうはどうなんだ?」


「・・・ん・・・?」

・・・どうやら、いつの間にか寝てしまったらしい。
頭がガンガンする。
かなり飲んだようだ。

記憶は、記憶の保管庫の前に、薄いカーテンがかかっているみたいに、ハッキリとは見えない。
確か江川に、仕事のことを聞かれ、近々部署異動になること、あまり乗り気ではないことを話したが・・・ それ以上は思い出せない。

いや、とりあえず起き上がって、水でも飲もう・・・
酔いが覚めてくれば、徐々に思い出してくるはずだ・・・

「・・・?」

起き上がろうとしたが、体が言うことを効かない。
頭がズキズキと痛む。

「・・・血・・・!?」

痛む部分を触ると、ぬるっとした感触があった。
この鉄の混じった臭いは、たぶん血だ・・・
暗くて見えないが、間違いない・・・

「どうなってる・・・
 何が・・・ どうなって・・・」

思い出そうとするが、傷の痛みで集中できない。
加えて、なにか狭いものの中に閉じ込められているらしい。

「おい・・・!!
 おい・・・!! 誰か・・・!」

出られない・・・ 暗い・・・

ふと、自分がずっと恐れていた、白髪鬼のことを思い出した。
江戸川乱歩の白髪鬼は、妻とその恋人の共謀によって、崖から落とされた男が、棺桶の中で息を吹き返すも、あまりの恐怖に、一瞬のうちに髪が白髪になって・・・

まさか・・・

この傷は・・・ 江川と美恵子が・・・?

でも、もしそうだとしても、俺には白髪鬼の男のような資産など・・・

・・・いや、一つだけある・・・
先月、宝くじで一千万円が当たった・・・
けど、それは俺と・・・ 妻の美恵子しか知らないはず・・・

でも、美恵子と江川がそんな関係にあるなんて・・・

・・・だがそう考えると、気になることはある・・・
ここ二ヶ月ぐらい、美恵子は帰りが遅いことが何度かあった・・・ これまではそんなことなかったのに・・・
仕事が忙しいと言っていたが、まさか江川と・・・ 二人で共謀して、俺を殺して、一千万円を・・・

「・・・出せ!!
 俺はここから出せ!!」

何度も叩き、大声を出すが、返事はない。

「出せ・・・ 出してくれ・・・
 金ならやる・・・ だから・・・ ここから出して・・・ 出して・・・」

バンッ!!

急に大きな音がして、視界が開けた。
突然の光に、目がくらむ。

どうやら、洋服タンスを倒され、その中に閉じ込められていたらしい。
死にものぐるいで叩いたから、重りになっていたテーブルが動いて、タンスの裏側の板が壊れたようだ。

「・・・」

ゆっくりと顔を出し、周囲に目をやる。

「・・・!!!
 ・・・美恵子・・・!
 ・・・江川・・・」

リビングの中央あたりに、妻の美恵子と江川が、血を流して横たわっている。

「なんで・・・」

ガンッ!!!

つむじのあたりに、何かが振り下ろされた。
血で、視界が隠れていく。

「目を覚ましたのか。
 まあ、もうあんたにも用はない」

何者かの声が聞こえる・・・
いや・・・ どこかで聞いた声だ・・・

・・・そうか・・・
思い出した・・・

江川と二人、フラフラになるまで飲んで、歩くのがめんどくさくなり、タクシーを拾い、車中で思わず、一千万のことを口にした・・・
江川は信じていなかったが、じゃあ見せてやると、家に連れてきて・・・ あのとき、その話を聞いていた人間が、もう一人・・・

ガンッ!!

再び、頭に大きな衝撃があり、和久はゆっくりと崩れ落ちた。
白い手袋をした男が、玄関に向かって走っていくのが見届けると、和久は悪夢のない眠りについた。

永遠に目覚めることのない眠りに・・・

みなさんに元気や癒やし、学びやある問題に対して考えるキッカケを提供し、みなさんの毎日が今よりもっと良くなるように、ジャンル問わず、従来の形に囚われず、物語を紡いでいきます。 一緒に、前に進みましょう。