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ストレス解消 【短編小説/怖い話】スキマ小説シリーズ 通読目安:7分

「ああ、スッキリした~」

山村武夫(やまむら たけお)は、車から降りると、伸びをしながら言った。
ストレス解消法は決まっている。
あまり大きな声では言えないが、それでスッキリするのだからしかたない。

「あれ?
 この車、どこかで見た気が・・・
 ・・・気のせいか」

山村は駐車場から出ると、自分の部屋に向かった。


ピンポーン

家に帰ってくつろいでいると、インターホンが鳴った。

「誰だ? 宅配は頼んでないけど・・・

 は~い」

ガチャッ

ドアを開けると、女性が一人で立っていた。
年齢は20代後半ぐらいだろうか。
美人と言っていい。

「なにか・・・?」

「今度隣に引っ越してきました、佐々木です。
 よろしくお願いします」

「ああ、そういうこと。
 こちらこそ、よろしく。
 何か分からないことがあったら言ってください。
 知ってることは教えますよ、ゴミの日とか」

「ありがとうございます。
 では、失礼します」

あんな女が引っ越してくるなんて、ツイてる。
以前の隣人は、けっこう長く住んでいたが、急に引っ越しを決めていなくなった。まるで夜逃げするかのように。

何かあったのか?
まあ俺には関係ない。
代わりに引っ越してきたのが、さっきの女だってことが重要だ。


「チッ・・・
 あのクソ課長め・・・
 くだらねぇことでいつまでもグダグダいいやがって・・・」

翌日。
山村は、イラだちながら家に帰ってきた。
気分は最悪だ。
このままじゃ収まらない。

「ストレス解消が必要だな・・・」

山村は家に着くと、カバンを置いて、車の鍵を持って外に出た。

「さて・・・ 楽しみますかね・・・
 ・・・ん?」

駐車場まで行き、車を見ると、タイヤがパンクしていた。
4本すべてパンクしており、どうすることもできない。

「おいおいおいおいおい・・・
 ふざけんな・・・!!
 誰だよこんなことしたのは・・・!!

 クソ・・・
 警察に言うか・・・
 ・・・チッ・・・ スマホを家に忘れたな・・・」


ぎぃぃ・・・

スマホを取りに家に戻ろうと、廊下を歩いていると、隣人の部屋のドアが開いた。
あの女の部屋だ。
ゆっくりとドアが開き、女が顔を出した。

「ああ、こんばんは・・・
 ・・・!」

女は、手になにか持っている。
包丁らしい。
鈍い光を放っている。
そしてそれを持ったまま、山村のほうを見ている。

「あの・・・ 何か・・・?」

異様な光景に、いつもは強気な山村も、顔を引きつらせながら言った。

「私を覚えてない・・・?
 でも、知ってるわけないわよね・・・
 あなたは後ろから見てただけだし・・・」

「何の話だ・・・」

「私は、8月2日に、車であんたに煽られた・・・
 あのとき・・・ 私は病気の母を乗せてた。
 母は病弱で、あのとき、かなり弱っていた。

 急いで病院にいかなければいけないのに、
 あんたは私の車をあおり、私は怖くて逃げるのに必死で、病院から遠ざかってしまった。
 母も怯えていた・・・

 あんたが高笑いして去っていったあと、私は病院に急いだけど・・・
 病院に到着したとき、母の症状は悪化していて、翌日には息を引き取ったわ・・・
 あんたに煽られた恐怖を残したまま・・・

 ようやく居場所を突き止めた・・・
 母を殺したあんたを追いつめ、殺すためにね・・・」

「そうか・・・ あの車・・・
 だから見覚えが・・・

 いや、おい、待て・・・
 悪かった・・・ 俺が悪かった・・・
 許してくれ・・・
 
 あのときは、イライラしてて・・・
 つい・・・ 煽っちまったんだ・・・」

「そのストレス解消のせいで、母を死んだのよ・・・
 ・・・絶対に許さない・・・」

「まて・・・ 待ってくれ・・・!!」

「死ね・・・!」

ザシュッ!


数時間後。

マンションの廊下に転がった男の遺体と、近くの公園で首を吊った女の遺体が発見された。

凶器の刃物から、首を吊っていた女が、男を殺害したと、警察は判断したが、二人の繋がりについては、特定することはできなかった。
事件の真相を知るものは、死んだ二人以外にはいないのだ。
これからも、ずっと・・・

みなさんに元気や癒やし、学びやある問題に対して考えるキッカケを提供し、みなさんの毎日が今よりもっと良くなるように、ジャンル問わず、従来の形に囚われず、物語を紡いでいきます。 一緒に、前に進みましょう。