増殖する迷惑メール【スキマ小説シリーズ】

「またかよ……
 いいかげんにしろよクソが……!」

俺は、思わず悪態を吐いた。

スマホを新しくしてから一ヶ月。
ほとんど使うことのない携帯メールに、スパムメールが来るようになった。
スパムメールとして受信拒否、報告しても、何度でも来る。

酷いときは、夜12時ごろに寝て、朝7時に起きる間に、20通近くのスパムメールが来ている。

「やれやれ・・・」

俺はうんざりして、一気に削除する。
朝一にやることがスパムメールの削除とは……

しかし、一向に減っていかない。
最初に受信してから、一週間ほど経ったが、まったく収まる気配がない。
そのうち、妙なことに気づいた。

削除したはずのメールが、戻ってきている。
いや、復活していると言ったほうが正しいか。

寝ている間にきているものを、朝の時点で削除し、また日中に来るのだが、スパムメールとして処理しているから、徐々に減っていくはずだ。

しかし、それは増えていた。
どういうわけか、削除するほど増える。

「Twitterの投稿かよ……
 ったく……」

朝9時から仕事を始める、その前にすべて削除しているにもかかわらず、昼食の時間にスマホを見ると、消したはずの10通に加えて、20通ほどプラスされている。つまり、30通ほど来ている。

「どうなってんだ……」

スパムメールは、内容がほとんど同じものが延々くる場合と、無視しないでとか、話ぐらい聞いてくれもいいとか、問答無用で削除していることに、罪悪感をもたせるつもりなのかと思うような、人の優しさに訴えるようなことを書いてくる場合がある。

だから、内容が似ているものを同じものと勘違いしている可能性もある。
というか、そのはずだ。本来なら。

だが、試しに一通、スクショしておいたものと比べてみたが、送り主の意味不明な羅列のアドレスさえ、すべて同じものがあった。

「……」

俺は気味が悪くなってきた。
これは、新手のスパムメールなのか?
どうやってるか分からないが、消せば消すほど増える……?

では放置すればいいのか?
そう思って、試しに一日放置してみたが、翌日後悔した。

受信数、102件。
削除しても、スパムメールとして処理しても、数日後には、さらに件数が増える。

増殖している……

俺はそう感じた。

通信キャリアに問い合わせてみたが、とくにおかしなことはなく、そんな話は聞いたことがないと言われた。
しかし、事実として増えている……

そのうち、また妙なことが起こり始めた。

増殖するスパムメールは、まるで俺を責めているように、なぜ消すのか、何も悪いことはしていない、話を聞いてほしいだけなのに、あなたには人の心がないのか、というようなことが書かれたものが増えてきた。
まるで、メールそのものに意志があるように。

友達や恋人とチャットをしていても、スパムメールはやまない。
俺はいつの間にか、スパムメールが怖くなってきていた。

「何なんだいったい……
 俺が悪いのか……?」

気づいたとき、俺はスパムメールのリンクをクリックしていた。

『待ってたよ……』

そのとき、確かにそう聞こえた。

「え……?」

これ以降、この男は忽然と姿を消し、未だに行方は掴めていない。
後に、連絡がつかなくなったことを不審に思った男の彼女が、警察に連絡。
警察は家族に連絡し、家族から連絡をとってもらったが、反応がない。

そこで家を調べたところ、男の家にはスマホや財布などが置かれており、外出したにしてはおかしな状況だったが、どこにいったのか、誰にも分からなかった。


ねぇ、知ってる?
増殖するスパムメールの話。

聞いたことある。
消せば消すほど増えるってやつでしょ?

そうそう。
すごいしつこくて、段々、削除するのを咎めるような内容になっていって、見てるうちに、段々罪悪感を持ってしまって、リンクをクリックしちゃうと、引きずり込まれるらしいよ……
それで、自分もあっち側になるって……

あっち側って?

この世じゃない、あっちの世界……

面白いけど、さすがにそれはないでしょ(笑

じゃあ、クリックしてみる?

え?

待ってるよ……?


みなさんに元気や癒やし、学びやある問題に対して考えるキッカケを提供し、みなさんの毎日が今よりもっと良くなるように、ジャンル問わず、従来の形に囚われず、物語を紡いでいきます。 一緒に、前に進みましょう。