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コーネリアス『ファンタズマ』曲解説

1997年8月6日にCornelius『Fantasma』が発売されてから今日で25周年。何か記事書くか!と思いきや、そういえば2017年に『コーネリアスの音楽とデザイン』の特典冊子用に曲解説を書いたことが既にあったので、それをここに載せます。

Star Fruits 1997-06-11(Polystar, PSJR-9118, 12inch)

(1) Star Fruits Green
2枚同時発売のシングルで、同時に再生すると合体して1曲になる仕組み。同時期にThe Flaming Lipsが4枚同時再生作品『Zaireeeka』を出したためそれが元ネタと思われがちだったが、アイデアのもとはThe Olivia Tremor Controlの1996年の7インチ『The Opera House』の2枚同時再生シングルから。ただし、そちらは同時再生するとヒュンヒュンいってる音が足される程度だった。その合体アイデアが頭の中にあって、アルバムのレコーディング中にこの曲ならできるかも、とひらめいて制作。結果、1曲1曲が独立しつつ、あわせても1曲になるような完成度になった。「Green」「Blue」と合体曲の3タイプを同時並行で作ったことで音数が増えすぎ、最終的にレコーダーを2台シンクロさせてミックスしたという(PCM-3348とアナログ24ch)。そうしたギミックも含めて、発売時はまだ世間的にはコーネリアス=小山田圭吾というキャラクターへの興味が先行していたものの、アルバム~ツアーを経て徐々に音楽そのものに焦点が当たりはじめていくきっかけとなる楽曲。こちらは歌とギターとウワモノで、ネオアコ的であり、シカゴ音響派的でもある。

(2) Count Five Or Six (Out of Phase)
変拍子ロック曲、逆相バージョン。正相と一緒に鳴らすと波が打ち消し合い、音が消える。

(3) The Micro Disneycal World Tour (Remix by Sean O’Hagan from The High Llamas)
The High LlamasのSean O’Haganによるリミックス。Louis PhillipeとSeanが仲が良く、Louisを通じて実現した。Seanは80年代にMicrodisneyというバンドをやっており、曲が返ってきてから後付で曲名を現在のものに変更した。ディズニーランドのアトラクション「イッツ・ア・スモールワールド」的な曲を自分なりに書きあげ、ディズニー感のあるバンドとしてThe High Llamasを連想、リミックスを依頼したら一週間で返ってきた、という流れ。

Surf Rider 1997-06-11(Polystar, PSJR-9119, 12inch)

(1) Surf Rider Blue
こちらは歌なしのドラムンベース/ドリルンベース・トラック。Aphex Twinさながらの倍速ドラムが目立つが、ドラムンベースほどベースが鳴っておらず、小山田本人はドラムンギターと説明していた。

(2) Count Five Or Six
6/8と4/4を往復する変拍子ハードコア。数字カウントの声ネタはサンプリングではなく、昔のMacintoshに搭載されていた読み上げソフト「MacInTalk」を使ったもの。曲名はガレージバンドのCount Fiveと、ポストパンク・バンドFive or Sixの合体。1997年の正月に高校の友達と会う機会があり、そこで高校時代に自分がやっていたMINOR THREATや7 SECONDS(ともに80年代のハードコア・パンク・バンド)のコピーバンドの映像を見て、かっこいいからこういうのをやろう、と作った曲。なお、そのコピーバンドでドラムを叩いてたのは荒川康伸(元フリッパーズ・ギター、のちPolystarに入社しTrattoria担当)だったそう。

(3) The Micro Disneycal World Tour
こちらはオリジナル・バージョン。『FANTASMA』関連では最初にできた曲だという。もともと「NHK青春メッセージ」のテーマ曲として制作した曲であり、NHKスタジオを好きに使えたため、弦などの生楽器はNHKスタジオで録音している。テルミンの演奏は小山田ではなくプロのテルミン奏者・やの雪。スネアドラムと一緒になる奇妙なサウンドはディスコ・プロデューサーCerrone「Rocket in the Pocket」より。Malcolm McLaren「Buffalo Gals」にも少し似た音色が出てくる。

Star Fruits Surf Rider 1997-07-02(Polystar, PSDR-9101/2, Mini CD)

(1-1) Star Fruits Surf Rider
「Green」と「Blue」を実際に合体させた完成バージョン。ひとり、海、星空、大人の男、南米のサーファー、果物、のイメージ。曲名はPrimal Screamの1987年の12インチ『Imperial』のカップリングに入った同名曲から。2つのコードを循環させるだけなのに単調な印象にならない、それどころか壮大ささえ感じさせる完成度の高い1曲。“コーネリアス・サウンド”というものがあるとしたらこの音だろうというほど、以後多用されることになるRolandのリズムボックスCR-78の使用はここから。キラキラした印象は「星の音を入れたい(聴いたことないけど)」という発想からで、ジャーンというゴージャスなパッド音はRoland JV-2080のプリセット音を歪ませたもの。逆回転するミュージックビデオは、実験映像作家Gary Hillの1984年作「Why Do Things Get in a Muddle?」からの着想。

(1-2) Star Fruits Green
12インチ版と同じ。

(2-1) Count Five Or Six
12インチ版と同じ。

(2-2) Surf Rider Blue
12インチ版と同じ。

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2001年以降に雑誌等に書いた記事を全部ここで読めるようにする予定の定額マガジン(インタビューは相手の許可が必要なので後回し)。あとnoteの有料記事はここに登録すれば単体で買わなくても全部読めます(※登録月以降のことです!登録前のは読めない)。『教科書には載らないニッポンのインターネットの歴史教科書』も全部ある。

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