マスク・ザ・ライオン
我が名はマスク・ザ・ライオン。
百獣の王ではない。銀座三越の王だ。
1972年、昭和47年からここで王座を守り続けている。
火災予防と聞けば消防士の姿に。
ハロウィンになればマントをつけられる。
クリスマスにはキンキラの電飾を付けられる。王なのに。
今はマスクをつけている。
コロナ対策の余波で、私も例外ではないからだ。
銅像だから息はしていないが、ほら、アレだ。客寄せライオンとしては、やってる感が大事なのだ。
そのうち何とかアラートとかいって、赤くライトアップしてもらえることも密かに期待している。
しかし、マスクは暑い。
熱がどうしてもこもる。
加えて、肌も荒れる。
割と敏感肌なの、私。
油断すると青銅色にすぐなっちゃう。
あらやだ。心にあるネコ科のかわいい部分が出てしまった。
メリットもある。
眉だけ描いておけば、あとは何とかなる。
ウェブ会議とやらなら、なおさらだ。
キバがカッコいいという人もいるが、子供は泣く。写真を一緒に撮ろうと、親御さんが私の顔の近くに抱っこするのだが、ギャン泣きされる。割と心苦しい。ごめん、子供たち。そういう時に口元を隠せると本当に助かる。
言いたいことはそれではない。
マスク。
その言葉を聞いて、何を思い浮かべるだろう。
私は迷わずに答える。
プロレスだと。
なぜタイガーのマスクはあって、ライオンのマスクはないのか。
おそらく新日本プロレスのロゴが「KING of SPORTS」、ライオンだからなのだろう。
若手なんかはヤングライオンと呼ばれるし。
まぁ、マスクなんてちっぽけなものにこだわらず、王としての概念が根付いていると思えば誇り高いが。
そうそう。私の知り合いのヤングライオン、といっても30歳を超えた男が夢のスタートラインに立った。
実名はアレだから、イニシャルがいいか。
「K」という名前の男だ。
彼はバンドを組んでいる。
「ストロボサイダー」という。
夢を捨てず、諦めず、ドラムを叩いた。
売れるという言葉とは縁遠い。
それでも、ドラムを叩き続けてきた。
大学卒業から10年以上。
今年、メジャーデビューを果たした。
その執念たるや。
そして、6月。
Kのバンド、ストロボサイダーが「ワールドプロレスリング」のエンディングテーマに抜擢された。
プロレスファンなら知らないものはいない。
武藤敬司がレッグロックで高田からタップを奪い、大仁田厚が真鍋アナと劇場を繰り広げ、橋本真也が小川のSTOに沈み口をパクパクとさせながら虚空を眺めた。
テレビ朝日で50年。視聴者に興奮と涙と、感動を届けてくれるご長寿番組だ。
そのエンディングテーマに、ストロボサイダー。
ライオン界も喜びに沸いた。
6月6日の深夜。その時を待った。石井智宏の試合が終わり、今後の展望を語る中、歌声が流れてきた。いつもならば本編に乗らない試合がダイジェストで流れる短い幕。目を凝らした。
グラディウスの弾丸よりも早く流れるスタッフロール。
ファイティングミュージック
「君の光が僕を照らしているから(シャンパンブルーver)」
ストロボサイダー
あっという間に通り過ぎたが、確かにその文字はあった。
やったなK。
良かったなKちゃあ。
少しばかり目頭が熱くなった。
歌詞の一部に
「何度も何度も倒れかけても 僕は僕は立ち上がるんだよ」
とある。
30代になり、売れないバンドを続ける状況は「カウント2.9」かもしれない。
それでもKは跳ね返し、リングに立っている。
10代で出会ったヤングライオンは、生え際も後退してミドルライオンになりつつある。
それでも夢は諦めなければ、叶うのだろうか。
周りのネガティブな心配すらも跳ね除けたKの心には、この言葉があるのかもしれない。
「ハクナマタタ」と。
これから、毎週の放送が楽しみだ。
今日はこんな感じ。
マスク・ザ・ライオン。
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