現場から安全面不安視する声   大型トラック高速道の速度引き上げ

「働き方改革に逆行」「目を酷使し疲労蓄積に」


「2024年問題」に対応するため、警察庁は高速道路で時速80キロとなっている、車両総重量8トン以上の中型・大型のトラックの制限速度を引き上げる方向で検討に入ると発表した。7月26日に最初の「有識者検討会」が開かれたが、課題などを精査した上で年度内に提言がまとめられる見通しだ。


 現在の速度規制は1963年に道路交通法が定められてから長らく変更されてこなかった。警察庁は「2024年問題の対策の一環として、交通事故の発生状況、車両の安全性などを確認しながら、現行の速度規制を引き上げるための議論を進める」という。
 この「検討会」には行政や交通工学の専門家などの有識者に加え、トラック業界の関係者も参加する。
 制限速度引き上げに伴い、今後、速度リミッターの取り扱いはどうなるのか。国土交通省自動車交通局に尋ねたところ、担当者は「リミッターが作動する速度を現行の時速90キロから引き上げるのか、あるいはリミッター装着義務化を解除するのか、どちらになるのかは今のところわからない。我々も『検討会』に参加しており、今後の方向性を議論しているところだ」と答える。
 現状、リミッターの装備義務があるトラックが、それを勝手に解除したり、取り外したりすることは法令により禁止されているが、今後は、こうした法令についても見直しが行われるかもしれないという。
 トラックの高速道路での速度引き上げについてどんな影響が予想されるだろうか。長距離輸送を行う事業者に聞いてみた。


 三重県の運送会社A社では、「現状、高速道路では、ほとんどのトラックがリミッターの制限速度ギリギリの時速90キロで走行している。それによって速度超過の取り締まりを受けることは現状ほとんどない。
 もし、制限速度が時速100キロに引き上げられれば、1時間当たりで走れる距離が増えるため、同じ時間で遠くまで走れるようになるのは確かだ。とは言え、運転時間の上限は1日9時間までだから、ドライバーが走れる距離には限界がある。運送会社やドライバーが『時短』について考える時、最も気になるのは、高速道路でスピードが出せるかどうかではなく、高速のSA・PAで予定通りに休憩・休息が取れるのかとか、荷物の積み下ろしでどれくらいの待機時間や付帯作業が発生するのかといったことだ。
そうした『労働時間に関する根本的な問題』を先送りにしたまま、『2024年問題対策の一環』として制限速度だけを引き上げても、あまり意味がないような気はする」と話す。
 奈良県の運送会社B社では、「そもそも2024年問題対策は、ドライバーの労働環境の改善を目的に行われているはず。高速の制限速度の引き上げは、2024根以降、時間通りに荷物が運べなくなる荷主やメーカーにとっては『改善』になるかもしれないが、ドライバーにとっては、むしろ『働き方改革に逆行するもの・改悪』だ。
 計算上、トラックのスピードが上がれば、ドライバーの労働時間は削減されることになるが、その分ドライバーは目を酷使することになり、それだけ疲労も蓄積する。また、80キロで運転する時と100キロで運転する時では、緊張感や体力の消耗度合いも違う。そうした点も、今回の『検討会』では議論されているかと問いたい。
新東名では、乗用車などの制限速度が時速120キロに引き上げられているが、これは道路が片側4車線あるから。インフラの整備がきちんと行われていない旧来の高速で制限速度を引き上げるのは、安全面でも無理があるのでは」と話す。
 大阪の運送会社C社は、「リミッターの装着が義務化される前は、トラックが高速の追い越し車線をものすごいスピードで走っていた。当時は私もトラックに乗っていたが、何度も怖い目に遭った。高速道路の制限速度が引き上げになれば、せっかく走りやすくて安全になった高速が、また昔の危険な道路に逆戻りするのかと思うと、単純に『スピードが出せるようになる=ドライバーの負担が減る』とは思えない」と話す。(8月21日号)

トラック運送業界の専門紙「物流新時代」には、
関連記事を多数掲載しています。
試読のお申し込みはこちらまで。


このページの先頭へ